ミドル3人の知られざる絆、自身の会心のプレーは… 小野寺太志が明かすバレー男子激闘の舞台裏

田中夕子

大会一の会心プレーは意外にも…

今大会でもセッター関田とのコンビネーションが光った 【(c) FIVB】

――3戦目のチュニジア、1点目はどの攻撃を選択するかと注目していた中、関田選手が選択したのは小野寺選手の速攻でした。ご自身はどう感じましたか?

 もちろん僕らも「1点目を誰に上げるだろう」と思っていたんです。セオリーで考えればこのチームのエースは祐希だから祐希に決めてほしいし、西田(有志)のように派手なパフォーマンスをする選手が決めると勢いに乗る。どちらかに上げるだろうな、と思っていたら僕に(トスが)来たので「やりやがった」と思って打ちました(笑)。

 セキ(関田)さんって、ホント気を抜けないんですよ。常に準備だけはしておかないと、と思ってはいたけれどいきなり来たので緊張しましたね。チームとしてはもちろん、僕自身もその試合の1本目が決まるか、決まらないかというのを気にして引きずるタイプなので、その大事な、しかも試合の最初の1点が俺か、と(笑)。だからドキドキしたし、決まった時はよかったー、って心から安心しました(笑)

――トルコ戦の1本目も、小野寺選手の得点。サービスエースでした。

 トルコには練習試合で負けていたので、強いチームだとわかっていました。そこでいきなり第1サーブ(最初にサーブを打つ)と言われて、え? 俺? と(笑)。相手がだいぶ前に上がっているのが見えたので、ここでミスをしても引きずるわけではないし、相手も味方もここで思い切り打つと思っていないだろうから思い切って打っちゃおう、と打ったサーブがエースになった。流れをつくることができてよかったです。

――大会を振り返って、小野寺選手の中で「この1本、この1点は会心だった」というプレーは?

 見ていた方には「このブロック」という1点があるかもしれないですが、基本的に僕はないんです。でもしいていうなら初戦の1点目かな。フィンランド戦の1点目、相手がショートサーブを打ってきて、それを僕がレシーブして祐希が決めた。これはよかった、と思うプレーでしたね。

――確かに落ち着いた1本でしたが、ご自身の得点ではない。なぜこのプレー?

 ショートサーブを想定して、ここまでは誰が取る、ここは俺が取る、という話は試合中にもしているんです。でもまさか、1本目からショートサーブが来ると思わなかった。少しびっくりしながら、来た、と思っていたけれど、その状況でも普通に返せた。この1本は俺っぽいな、と。たぶん健太郎やヤマだったらあの1本、試合が始まって最初の1本をレシーブする状況は作らずリベロがカバーすると思うんです。でも僕の場合は周りも「太志が取る」と思っているので、そこでちゃんとレシーブできたのは、自分の中で大きな1本でした。

髙橋健太郎の涙にもらい泣き

山内(左)、髙橋(後列中央)と同ポジションの3人で支えあって、五輪出場権をつかんだ 【(c) FIVB】

――小野寺選手のレシーブから始まったOQT、1勝ずつを積み重ねてスロベニア戦、ストレートで勝てないといけない状況で、見事なストレート勝ちでした。

 あれはもう、祐希の力でしかない。試合開始直後1-6とリードされて、相手のショートサーブを僕がレシーブしたんですけど、ダイレクトで返ってしまったんです。そもそもその前に西田がアウトオブポジションを取られたり、ブロックされたり、悪循環が続いていた。そういう状況でも僕は普通にプレーして、流れを持ってこられるタイプだと思っていたんですけど、自分がダイレクトで返してしまった。ヤバい、と思った時に祐希が1枚でブロックしてくれた。あの1点は本当に大きかったし、中盤も祐希のスパイクで連続得点。まさに頼れる祐希の総プレー集、という試合でした。

――勝った瞬間、コートで泣いている姿も印象的でした。

 自分の感情を見せないようにしているんです。でもあの時はダメでしたね。達成感、安堵感、オリンピックに自力で出場できるという喜び。何より大きかったのが健太郎の涙です。
 ここまで3人でやってきて、健太郎は今シーズンそこまで多くの出場機会がなかったけれど、今回のOQTではパフォーマンスもよくて、頼れる選手だと改めて思った。でも最後の最後でケガが悪化して、これ以上はダメだとなってベンチへ帰ってきた健太郎が、「こんな時に俺は」って悔しくて泣いていた。その姿を見たら頑張らなきゃと思ったし、実際に僕とヤマがとった得点は少ないかもしれないけれど、間違いなく僕らにとっては3人で戦い、つないできたシーズンを象徴していた。ストレートで勝って、健太郎が泣いているのを見たらさすがに泣いちゃいました。

――五輪予選が終わり、来年の五輪へ。またチーム内の競争も始まります。

 今ここにいない選手も出たいのは変わらないし、そこで僕ら3人が絶対に出られるわけじゃないのもわかっています。でも僕らにはここまで代表でやってきた自負も、プライドもある。そこに見合う実力もつけてきたと思うから、君らには負けないよ、というスタンスでいるし、僕ら3人もお互いをライバル視しているから、何より山内と健太郎の活躍が気になります。そこを意識していたら自ずとレベルは上がると思うし、最終的には3人の世界になるのかな、と思いますね。

――Vリーグも開幕。小野寺選手も(新天地の)サントリーサンバーズで新たなシーズンが始まります。

 まだ合流したばかりで話したことがない選手が多すぎるので、お互いを知ることがまずは楽しみです。当然ポジション争いもあるし、その中で自分が上回っていることを証明しながら戦っていきたいし、求められるならアドバイスもして、チームと一緒に戦っていきたいと思っています。

――今シーズンはOQTを見て「バレーを見に行きたい」と思う人も増えるはずです。どんな姿、どんなバレーボールを見せたいですか?

 バレーボールへの関心は日本代表が広げられたと思うので、「試合を見に行こう」と思って会場へ来てくれる方々に新たな発見をしてもらえる場所になってほしいですね。例えばサンバーズならば、「この(髙橋塁)選手は藍くんのお兄ちゃんらしいよ」という目線でファンになる人もいるかもしれない。それも全然アリだと思うし、新しく発見してもらえる場所を広げていくことが今後の注目度、バレー界の発展につながると思うので、僕らの試合でどれだけバレーボールに興味を持ってもらえるか。応援したいと思ってもらえるか。

 そのためにも真摯に戦わないといけないし、全力でプレーする姿、いい表情で戦う姿を見てもらうことが何より大事です。今はまだコンディションがベストではないですが、どんな時もベストパフォーマンスを出し続けることが大事だと思うので、ぜひバレーボールを見に来て下さい。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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