16年ぶり自力五輪切符をもたらした「組織力」 悲願のメダル獲得へ男子バレーが進むべき道

市川忍

山本の揺るぎない自信とそれを裏付ける日本の戦略

エジプト戦の敗戦にも決して下を向かなかった山本。絶対的な自信の裏には日本の確かな戦略があった 【写真:REX/アフロ】

 エジプト戦のあと、逆転負けのショックから肩を落とす選手がほとんどの中で、いつもと変わらない笑顔で報道陣の質問に答えていたのがリベロの山本智大だ。筆者との会話の中でも「大丈夫です」という言葉を何度も繰り返した。

 五輪行きを決めたスロベニア戦のあと、山本は同じ笑顔でこう語った。

「大丈夫ですと言っていたのは自信があったからです。ネーションズリーグ(VNL)でも競った展開やリードを許す場面が何度もありました。でもそのたびに、練習通りにやれば自分たちの力が発揮できると思っていましたから。今日もリードされる場面が何度もありましたけど、焦ることなく、僕は絶対に逆転できると思っていました」

 その自信を裏付けるのは確かな戦略だ。ブラン監督は相手チームのローテーションや、相手セッター、スパイカーの特徴を細かく分析し、そのデータをもとに守備の戦術を熟考している。選手たちはそのいくつものパターンを繰り返し練習し、頭に叩き込み、体に沁み込ませて試合に臨んでいる。

 特に日本の戦略の効果が顕著に表れ始めたのが3戦目のチュニジア戦からだ。

 クイックの多い相手に対してはミドルブロッカーをコミットブロックで徹底的にマーク。相手がサイドを使い始めると今度はミドルブロッカーを捨てて、サイドにブロックを集める。ブロックが機能することで、後ろの選手は守りやすくなった。リベロの山本だけではなく高橋藍、石川も好ディグを連発し、日本が確立してきた「つなぐバレーボール」が完全復活を果たしたのだ。

 トルコ戦のあとブラン監督はこう明かした。

「相手のクイックに対してコミットブロックを多用した結果、向こうのサイド攻撃が増えました。私たちはクイックよりサイド攻撃に対するディフェンスのほうがうまく対処できます。ブロックがコースを限定し、そこにレシーバーがいるという戦術が功を奏した結果ですね。同時に相手のオポジットのスパイカーがコートエンド近くに打ってくるのを見越して、彼の特徴に応じた守備を指示した結果、ディフェンスが機能するようになりました。得点源のオポジットの決定力が落ち、相手は苦しくなった。トータルディフェンスの勝利と言っていいでしょう」

 ミドルブロッカーの小野寺太志は言う。

「ブラン監督がコーチだった時代から、ブロックに関しては常に厳しく言われています。僕らは高さで劣る分、データをしっかり頭に入れて戦うことや、それをもとにして、ここの攻撃はないはずだと割り切ってブロックに跳ぶ判断力などを求められてきました。とにかく常に言われ続けているので、毎試合意識しながら戦っています」

 こうしてブロッカーに求める力や、後ろを守るレシーバーに求める約束事を口酸っぱく説き、練習を重ねた。同時にボールに触る選手以外は、次のプレーに備えることを徹底する。ラリー中も2人以上が攻撃の準備に入ることで、だからこそブレイクやラリー中にも、相手のブロックが反応できないほどの素早い、しかも多彩な攻撃を繰り出すことができるのだ。日本のように体の小さな選手たちが国際舞台で勝つためのシステムを、ブラン監督は7年かけて作り上げた。

 そのシステムが徐々に機能していった結果が、もう1敗もできない崖っぷちからの4試合連続ストレート勝ち、パリ五輪の出場権獲得につながったのである。

 スロベニア戦の試合後、安堵したような表情で会見に臨んだ石川は言った。

「(4連続得点もあり)最後は僕が決めましたが、拾ってくれた人、セットしてくれた人、みんなの力があったから取れた得点です。東京五輪ではベスト8に入ることができて、次はメダルを狙える位置にいると思います。まだまだ強くなれるチームだと信じています」

 パリ五輪でも今大会のような組織力を発揮すれば、おのずと勝利もついてくるはずである。

セッター育成を中心にチームのさらなる熟成が鍵に

関田は誰もが認める日本のキーパーソンなだけに、関田以外のセッターの育成は五輪で勝つうえでも重要な課題となる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 パリ五輪への切符をつかんだ今、今後の日本についてあえて課題を挙げるとすれば、関田以外のセッターの育成だろう。

 通常2名がベンチ入りするセッターだが、今シーズンはさまざまな選手を登録、起用して国際大会に臨んだ。しかし、最後は急遽、アジア大会の登録メンバーだった山本龍をOQTの代表に招集する形で大会に臨むことになった。

 山本龍は大会期間中にこう語っていた。

「途中からコートに入る際には、トスの精度はもちろんですけど、なんとか雰囲気を変える意識でプレーしました。(途中出場し敗れたエジプト戦は)もう1点ブレイクで取り切れれば結果が変わったかもしれません。関田さんをもう少し手助けできれば……と思いましたけど、各国、セカンドセッターのレベルが高い中で自分は助けきれなかったという悔いが残ります」

 事前合宿では石川のコンディションが思わしくなく、石川とはほとんどトスを合わせることができなかった。初めての大舞台で堂々とプレーする山本龍の姿は頼もしかったが、だからこそもう少し計画的に編成が進められていればと感じざるを得ない。

 幸い、OQTで出場権を得たことで、来シーズンのVNLは世界ランキングにとらわれることなく戦うことができる。真の強豪国への第一歩を踏み出すべく、セッターを含めた次世代の選手たちの、育成と強化の場になることを願っている。

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著者プロフィール

フリーランスライター/「Number」(文藝春秋)、「Sportiva」(集英社)などで執筆。プロ野球、男子バレーボールを中心に活動中。

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