福澤達哉が“史上最強”男子の強さを解説 「つなぐバレー」で目指す五輪出場権獲得

市川忍

OQTの展望やバレー日本男子代表の強さについて、元日本代表の福澤達哉さんに聞いた 【Photo by Andrzej Iwanczuk/NurPhoto via Getty Images】

 9月30日からバレーボールのパリ五輪予選(OQT)の男子大会が東京・国立代々木競技場 第一体育館で開幕する。惜しくもグループ3位に終わったものの、連日にわたり熱戦を繰り広げた日本女子に続き、男子が決戦の舞台に立つ。ワールドカップバレー2023を兼ねた今大会は、24カ国が抽選によりブラジル、日本、中国の3グループに組み分けられて総当たり戦を実施。各グループ上位2カ国が五輪出場権を獲得するのは、女子と同じレギュレーションだ。

 日本のグループ内での最大のライバルは、バレーボールネーションズリーグ2023(以下VNL)で銀メダルに輝き、世界ランキング2位のアメリカが挙げられる。しかし、日本もVNLで銅メダルを獲得し、世界ランキング5位とグループ内では2番手の位置につけている。“史上最強”との呼び声高い現在の日本だが、好調を維持する秘訣はどこにあるのか。元日本代表で、現在は解説などで活躍する福澤達哉さんにOQTの見どころや注目選手、日本の強さの要因について聞いた。

「日本の強みはラリーからの攻撃の決定力の高さ」

ネーションズリーグではイタリアを破り銅メダルに輝いた日本。強さの秘訣は守備から攻撃に転じた際の決定力だ 【Photo by Andrzej Iwanczuk/NurPhoto via Getty Images】

 9月30日よりパリ五輪への出場権がかかった男子バレーのOQTが始まります。今年度はVNLやアジア選手権などの国際大会が開催されましたが、今大会こそがどの国もがファーストプライオリティと位置づけ、ベストの状態で臨む真剣勝負の場です。現状で、世界のトップ同士の試合が見られる大会であるのと同時に、年々進化しているバレーボールの戦術において、最新のトレンドが確認できる大会ともいえるのではないでしょうか。

 OQTに臨む男子日本代表は、今年度のVNLで強豪イタリアを破り、銅メダルを獲得しました。アジア選手権では3大会ぶりに優勝するなど、目覚ましい躍進を遂げています。私も周囲の人に「男子バレーはどうして強くなったのか?」と聞かれる機会が増えました。そこで、まずは現在の日本がなぜこれほど世界で勝てるようになったのか、その理由からお話ししたいと思います。
 
 日本の最大の強みは、スパイクのリバウンドボールや、相手の攻撃を拾ったディグからの攻撃の決定力の高さにあると私は考えています。たとえばスパイクを打つ際、相手のブロックの枚数が多く、しっかりと揃っている難しい状況においては一発で決めることが最適解とは限りません。リバウンドを取って、攻撃の決定率が高まるシチュエーションまで我慢強く攻撃を繰り返すのが今の日本です。“相手ブロッカーが何人いるか?”“自分は万全の体勢で打てるか?”など、あらゆる状況において最善の判断ができています。

 リバウンドは、打つスパイカーも、レシーブ体制に入る選手も高い技術を必要とします。ただし日本はリバウンドを取ったボールをどこに返して、そのあとは誰がどうスパイクの準備に入るのかという組織的な動きを、これまで積み重ねてきた練習でしっかり確立しています。

 ラリー中は相手も慌てていて、しっかりブロックが揃わないケースが多いものです。そのため、ほんの少し2人のブロッカーの間が空き、1人が遅れて手のひらほどしかネット上に出すことができないなどのケースも起こり得ます。そこを確実に狙って決められる力を今の日本の選手は持っています。しかも、そのシチュエーションを自分たちから仕掛けて、あえて作っているのが今の日本です。今後はこの日本のプレースタイルが世界のトレンドになる可能性すらあると私は思っています。

大舞台で頼りになるのはキャプテンでエースの石川祐希

キャプテンであり、エースの石川はその存在が、日本のアドバンテージになるくらい重要な役割を担っている 【Photo by Andrzej Iwanczuk/NurPhoto via Getty Images】

 今回のパリ五輪から、出場権獲得には世界ランキングの順位が関わってきますので、VNLなども含めたすべての大会を全力で戦う必要がありました。そんな中、日本以外の各国は、東京五輪のあとに急ピッチで新監督の人選や世代交代を進めていました。

 一方、日本は前・中垣内祐一監督とフィリップ・ブランコーチという体制からフィリップが監督に就任するという継続路線を歩んでいます。トータル7年という長期間のチーム作りが功を奏し、成熟度が高く、全員がチームコンセプトを理解している状態です。そこに甲斐優斗選手など新たな戦力が上積みされています。チーム作りの点において、他のチームより日本にはアドバンテージがあると考えています。

 今回のOQTで鍵を握るのは先ほども日本の強さの要因として挙げた「つなぐバレーボール」です。それぞれのプレーの精度と確実性をどれくらいコート上で実現できるかがポイントになるはずです。そしてもう1つはビッグサーブへの対策です。日々、変化しているバレーボールのトレンドの中でも、特にサーブスピードは年々上がってきています。相手の強力なサーブをいかに攻略するか。そうした解決策を見出し、選択肢を多く持って戦えるかが鍵となるでしょう。
 
 OQTは9日で7試合を戦う大変ハードな日程ですが、一番怖いのは『受け身に回ってしまうこと』だと私は思っています。自身も経験があるのですが、大事な試合になればなるほど、「やってやろう」と力んだり、恐れやプレッシャーから受け身になってしまったりすることがあります。相手に一気に押し切られてピンチに陥りかねません。受け身にならず、とにかく果敢にチャレンジするメンタリティが大事になるでしょう。

 こういった大一番では、困難に陥った際に、チーム全体を落ち着かせることができる選手の存在も重要です。日本の場合、その役割を担っているのがキャプテンの石川祐希選手です。今年のVNLを見ていても、石川選手はいついかなる時も自分の最高のパフォーマンスを出すことができていました。若い選手が出場すれば、彼らは経験の浅さから、慌てる瞬間もあるのですが、石川選手がいることで、彼の声掛けや、立ち居振る舞いが周囲に好影響を与え、平常心で戦うことができていました。

 石川選手のそういった立ち居振る舞いは、彼の経験に裏打ちされているものだと思います。7~8年、イタリアのトップで戦っていて、日本の選手の中で誰よりも1、2点で勝敗が分かれるしびれるシチュエーションを経験しています。そういった場面に対する耐性と、試合の勝負所をつかめる感覚が備わっている頼りになる選手です。石川選手のような物怖じしない選手がいることは必ず日本にとってアドバンテージになります。

1/2ページ

著者プロフィール

フリーランスライター/「Number」(文藝春秋)、「Sportiva」(集英社)などで執筆。プロ野球、男子バレーボールを中心に活動中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント