16年ぶり自力五輪切符をもたらした「組織力」 悲願のメダル獲得へ男子バレーが進むべき道

市川忍

OQTで2位になり、北京五輪以来となる16年ぶり自力五輪切符を手にした日本 【写真は共同】

 バレーボールのパリ五輪予選(OQT)が、男子はブラジル、日本、中国の3ヵ国で開催された。日本は序盤のエジプト戦の敗戦で窮地に立たされたが、その後のチュニジア、トルコ、セルビア、スロベニアとの4戦をすべてストレートで撃破。グループBの2位を確定させ、北京五輪以来となる16年ぶり自力五輪切符を手にした。

 “史上最強”との呼び声高い男子日本代表・龍神NIPPONが、その下馬評に違わぬ実力を見せつけた。しかし、OQTでの戦いぶりは決して順風満帆と言えるものではない。1972年ミュンヘン五輪以来となるメダル獲得を目指すうえでは、さらなるレベルアップが必要になる。OQTで見せた日本の強さと脆さを振り返りつつ、パリ五輪に向けてのチームの今後を占った。

OQTの重圧に歯車が嚙み合わなかった序盤戦

“史上最強”という前評判の重圧があったのか、大会序盤は苦しんだ日本。五輪出場権獲得に安堵の表情を見せた 【写真は共同】

 ネットを挟んでスロベニアの選手たちと握手を交わす石川祐希の頬を、一筋の涙が伝っている。鳴りやまない拍手に、石川は幾度も観客席に向かって大きく手を振った。

 OQTの第6戦。ストレート勝利のみが五輪出場の条件となったスロベニア戦で、見事に3対0で勝利を収めた日本。歓喜の輪の中心でスタッフやリザーブの選手と喜び合う石川は試合後の記者会見でこう語った。

「1、2戦と苦しい戦いが続いて……。でも今日、パリへの切符を獲得できてよかったです。今日、ストレートで勝てばオリンピックに行けることは知っていましたけど、とにかく目の前の1点を取っていこうと思っていました」

 OQTの重圧の大きさを思い知らされる大会だった。

 初戦のフィンランド戦では、日本が2セット先取したあとに思わぬ展開が待っていた。3、4セットを相手のペースで奪われ、第5セットも序盤はフィンランドがリード。選手交代などで何とか奪って辛勝する。

 続くエジプト戦も初戦同様、硬さが見られる。2セット先取から3、4、5セットを奪われる逆転負けを喫した。両チームとも世界ランキングでは日本より下位の国。「予想外の敗戦だった」とフィリップ・ブラン監督も呆然とする戦いで、大会序盤から窮地に追い込まれる。

 若きエース、高橋藍は語る。

「エジプト戦は3セット目から、こちらがサーブで崩しても相手がハイボールで決めきる状況が多くなりました。なかなかリズムが作れず、それが5セット目まで続いてしまいました。OQT自体が、そう簡単に勝てる大会ではないことは覚悟をして臨んでいるけれど、そういった状況でも相手は3セット以降、ギアを上げてきて、かなりの高確率でサイドアタッカーがスパイクを決めていました」

 サーブで崩しているのにもかかわらず、エジプトはブロックアウトなどの個人技で得点を重ねる。世界ランキング下位国の、死に物狂いで向かってくる姿勢に圧倒された。

 高橋藍は自分に言い聞かせるように続けた。

「でも、もう結果は変えられない。1日で気持ちを切り替えて、あとは勝ち続けるしかありません」

 その言葉通り、練習日を1日挟み、チームは息を吹き返す。

 石川は振り返る。

「最初の2試合はチーム全員、余裕がないというか『あれっ?あれっ?』という感じで『何とかしなきゃ』という感覚に陥っていたと思います。ただ、そのあとホテルに戻ってから『これからは考え過ぎずに自分たちのプレーをしよう』とミーティングで皆が話し合いました。終わったことは考えず、先のことを、悪かったところではなく良かったところを考えようという風に切り替えて試合に臨みました」

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著者プロフィール

フリーランスライター/「Number」(文藝春秋)、「Sportiva」(集英社)などで執筆。プロ野球、男子バレーボールを中心に活動中。

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