目前で五輪切符を逸したバレー女子日本 敗戦も「始まり」を予感させた急成長ぶり

田中夕子

主将として攻守両面でチームを支えた古賀紗理那

組織力で勝負するチームにおいても、主将・古賀紗理那の存在感、チームへの貢献度は別格だった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 個に頼るのではなく組織的に攻め、組織的に守る。攻撃時には前衛、後衛を含めた4枚の攻撃陣が一斉に入り、相手のブロックを撹乱する。守備も同様でブロッカーとレシーバーが連動し、高さで勝る相手にも打つコースを絞らせ、着実に拾い攻撃へつなげる。ネーションズリーグを終えてから短い間にコミュニケーションを重ねて作り上げてきたチームの中心にいたのは、主将の古賀紗理那だ。
 
 攻撃の本数自体も多く、自ら打って決めるだけでなく、周囲への声かけも積極的にする。共にサーブレシーブへ入るリベロの福留慧美はこう言う。

「紗理那さんは常に細かいところまで見ているので、その時々の指示がすごく的確で、周りを動かしてくれる。自分が焦っている時にも何をすればいいかがわかったし、落ち着いてプレーすることができました」

 攻守両面での負荷も高く、主将としてチームに働きかけることも多い。「常にストレスがたまった」と古賀は笑うが、役割だけを見れば「自分以上に大変だったと思う」というのが同じアウトサイドヒッターの林琴奈だ。サーブレシーブでも中心になり、なおかつ攻撃にも入る。前衛、後衛のライトからの強打だけでなく相手の守備体系を見て、空いたスペースに落とす軟打も効果を発した。古賀も「林がいるから自分のプレーに専念できた」と称するが、同様に林へ全幅の信頼を寄せるのが同い年でセッターの関菜々巳だ。

「琴奈と初めて会ったのは高校生の時。インターハイや春高で1年生から活躍する姿は知っていましたけど、アンダーカテゴリーの代表候補合宿で一緒にプレーして『こんなにバレーがうまい子がいるのか』とびっくりして。家に帰って、母に『林琴奈っていうものすごいバレーがうまい子がいた』って、興奮気味で話したのをよく覚えています(笑)。今はあの頃以上に、本当に完璧、というぐらい琴奈は何でもできる。私のトスがうまくいかなくても、琴奈が全部カバーしてくれるので、本当に助けられました」

「高さとパワーで負けた」という常套句も消え去るぐらい、組織的な攻撃力を武器に開幕から5連勝。「パリ五輪出場権獲得に大きく近づいた」と希望と期待が膨らむ中、日本の前に分厚い壁となってそびえ立ったのがトルコとブラジルだった。

トルコ、ブラジルに連敗で見えた世界トップとの差

急成長を遂げた日本だったが、トルコ、ブラジルの壁は厚かった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ただグッドサーブやストロングサーブを打つだけでなく、ローテーションごとにどのゾーンを狙えばどの攻撃が潰せるか。セッターが前に出てくる際の動線や、バックアタックを消すだけでなく、日本のキーマンでもある林も潰す。体勢を崩されながらも攻撃に入ったが「止められても同じパターンを繰り返してしまい、工夫がなかった」と振り返るように、それまでの5戦と比べ、トルコ戦とブラジル戦では披ブロックの本数も増えた。
 
 特に得点源となる古賀や井上愛里沙に対するブロックディフェンスも盤石で、着実にタッチを取り、レシーブから切り返してエースが決める。先行されながら日本も合宿から強化を重ねてきたサーブやブロックで応戦したが、勝敗を決したのは20点を超えた終盤の決定力。

 トルコならばメリッサ・バルガス、ブラジルはガブリエラ・ギマラエス(ガビ)が「ここぞ」という場面で着実に決める。眞鍋監督は「目の色が違った」と精神力を称えたが、ラリーが続いた苦しい状況でもディグの返球位置やそこからのつなぎ、ハイセットを得点するスパイク技術や狙う場所。すべてにおいてトルコもブラジルも、チームとしての力が勝っていたのは明らかだった。

 エース勝負を繰り広げた「個」に目を向けても同じだ。日本は昨シーズン井上がフランスへ渡り、今シーズンは石川真佑がイタリアへ、セッターの松井珠己がブラジルへ渡るが、トルコもブラジルも全員がプロ選手。海外リーグでプレーするのは当たり前。

 バルガスとガビは代表選手として世界一を競うだけでなく、世界最高峰と言われるトルコリーグでクラブシーンでも世界一をめぐる戦いを繰り広げている。いわばくぐってきた修羅場の数も、1本に対する執着心も違う。精神面だけでなく、恵まれた環境下で戦う日本選手とは根本的な違いも見せつけられた。

 いくつも生じた差が勝敗を分ける大きな差になり、五輪予選での出場権獲得は潰えた。日本は来年のネーションズリーグを終えた時点での世界ランクを1つでも上げなければならず、熾烈な戦いはこれからも続く。

明るい未来を感じさせた初選出・和田の台頭

今季日本代表に初選出された和田由紀子は、初の大舞台にも物怖じしないプレーぶりを見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 だが悲観するばかりではない。
 
 ネーションズリーグからの短い期間でチームとしても個々でも成長を遂げてきたように、五輪予選の大会期間中も目ざましい成長を遂げた選手は多くいる。特に光ったのが、途中交代で出場し、ブラジル戦の終盤に脅威の攻撃力を発揮した石川と、今季日本代表初選出の和田由紀子。これほどの大舞台が初めてと思えないほど、和田が力強く放つジャンプサーブは、詰めかけた大勢のファンを連日沸かせた。

 初めて接する世界で、強さを体感する。そこで得る自信、そして悔しさこそが成長への原動力になる。そんな姿を見せたのも和田だ。

 トルコ戦の終盤で放ったバックアタックがラインクロスと判定され、「自分のミスで負けた」と唇をかみしめた和田は、翌日のブラジル戦では第4セット終盤にサービスエースを決め、両手を突き上げ全身で喜びを表現した。

「あの1本は、自分にとって気持ちが切り替わる大きな1本でした。トルコ戦もうまくいかなくて、(ブラジル戦でも)1本目はサーブミス。でもこうしてコートに立って、『みんなが頑張っている姿を見たら自分もチームに1つ足さなければいけない』と。あの1本、サーブで攻めに行けたのは自分にとって大きな経験になったので、また次、代表としてコートに立てるように、もっと成長した自分でいられるように、もっともっと練習して頑張りたいです」

 これが「終わり」ではなく、これからが「始まり」。目指すゴールへ向け、各々が成長を誓い、もっと強くなった日本代表となり、パリ五輪のコートに立つ。

 悔しさも自信も経験も、すべて力になるはずだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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