荒木絵里香が語るバレー女子五輪予選の展望 五輪切符の鍵は「相手が嫌がるプレー」

田中夕子

バレー女子日本代表の五輪予選展望について、元主将の荒木絵里香さんに聞いた 【Photo by Pim Waslander/Soccrates/Getty Images】

 9月16日からバレーボールのパリ五輪予選(OQT)の女子大会が開幕する。大会には24カ国が参加し、抽選により中国・日本・ポーランド開催の3グループに組み分け。総当たり戦で各グループ上位2カ国が五輪出場権を獲得する。日本のグループは、ワールドカップバレー2023を兼ねた大会になっており、東京・国立代々木競技場 第一体育館で熱戦の火蓋を切る。

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 ホームの声援を背に2枠と少ない五輪の切符をつかみたい日本だが、世界ランキング1位のトルコ、東京五輪銀メダルのブラジルが同居する厳しいグループに組み込まれた。果たして日本はOQTでパリ五輪出場を決めることができるのか。北京、ロンドン、リオデジャネイロ、東京と4大会連続で五輪に出場し、長年主将として代表を支えた荒木絵里香さんにOQTの見どころや注目選手、日本が勝ち抜くポイントについて聞いた。

「OQTは五輪本番よりも緊張する大会」

 いよいよ女子バレーボールの五輪予選が始まります。私の現役時代は五輪の年の5~6月にOQTが開催されていました。前回(の東京)大会から仕組みが変わり、五輪前年に24カ国を3グループに分け、各グループの上位2チームが五輪出場権を獲得するというレギュレーションになりました。

 OQTを経験したOGの1人としてまず言えるのは、五輪予選は五輪本番よりも緊張する大会ということ。私自身は「全くいい思い出がない」と言い切れるぐらいです(笑)。とにかく精神的にもきついし、苦しい。タフさが求められ、神経が研ぎ澄まされる大会ですね。

 ただ、日本は1つ1つのプレーの精度を上げてきているので、バレーの質は高まっています。特にアタッカーとセッターのコンビの精度は高く、阿吽の呼吸でお互いがアジャストできるようになってきているので、戦いのバリエーションが増えた印象です。いい緊張感を持って、全員で戦える準備が整っていると感じます。

攻撃、守備の中心で精神的支柱でもある古賀紗理那

日本の中心選手はキャプテンの古賀紗理那だ。エースとしてのプレーだけでなく、周囲を生かす術も心得ている 【Photo by Takashi Aoyama/Getty Images】

 スタッフ、選手とチーム全員が一丸となり戦える点が日本の強さではありますが、その中でも中心になるのはやはりキャプテンの古賀紗理那選手です。攻撃、守備、そして精神面においてもチームの柱であり、軸になるのは間違いありません。私自身も現役時代、一緒に代表で戦った仲間でもあるので、常に「がんばれ!」と応援しながら見ています。

 1枚ブロックやサービスエース、個人の技術で点が取れるところは古賀選手の強みですが、彼女には人を動かす力もあります。常に視野が広く、周囲をよく見ていて、いろいろな選手への声かけも怠りません。試合中や練習中も機転を利かせた指示を出し、古賀選手の声かけで周りが生きる。どうやって点を取るか、ブロック、守備はどの位置がいいかなど、数字としての結果には見えづらい部分ですが、古賀選手がチームをうまく機能させているのが伝わってきます。

 もともとは自分からコミュニケーションを取ることを得意とするタイプではなかったのに、キャプテンになったことで責任感を持って積極的にコミュニケーションを取るようになりました。その姿からも彼女の意志を感じますし、自分のパフォーマンスに意識を向けながらチームを生かすためにどうするか、さまざまな葛藤を抱え、もがきながら、毎日本当によく頑張っていると思います。

 同列に語るのも申し訳ないぐらいですが(笑)、私がキャプテンだった頃は、自分が無力だと重々わかっていたので、周りを頼って巻き込むことを意識していました。自分が行くべきところは行くと割り切っていました。古賀選手は真面目で責任感も強い分、抱えてしまうこともあるかもしれませんが、周りをうまく頼りながら、彼女の持ち味を大いに発揮してほしいですね。

林と和田のアウトサイドヒッターのコンビも不可欠な存在

 古賀選手に次ぐ、攻守の注目選手が同じアウトサイドヒッターの林琴奈選手と、和田由紀子選手です。

 林選手は東京五輪にも出場し、昨年の世界選手権でも活躍したチームにとってなくてはならない存在と言えます。バレーボールの玄人ならば、間違いなく彼女のプレーが大好きなはずです。何しろ彼女はバレーボールがものすごくうまいですよね。

 ディフェンスの安定性はもちろん、スピードがありバリエーション豊富な攻撃でも点数を取れる。サーブレシーブの球質もよく、林選手がレシーブした後の効果率が非常に高い。「リベロが2人いる」と言っても過言ではない選手です。今回の対戦国は攻撃に長けたチームばかりですが、林選手のディフェンス力でプレッシャーをかけていけば、相手には間違いなくストレスがかかる。勝負所を制するのに不可欠な存在です。

 そして、今季初めて日本代表に選出された和田選手は、爆発力のある攻撃が持ち味になります。スイングが速く、フォームもしなやかで打球に力が乗るので決定率も高い。ライト側からのバックアタックの決定率も高いので、和田選手が入ると日本にもう1つ攻撃のオプションが加わるだけでなく、コートを9m幅でいっぱいに生かした攻撃が展開できます。

 世界の高さは変わらず脅威ですが、ブロックが分散すればそれだけ得点チャンスが出てくる。攻撃だけでなくサーブレシーブもできる器用な選手なので、間違いなく相手に嫌がられる存在になるはずです。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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