山田大記と郷家友太が実体験をもとに訴える「ソナエルJapan杯」に参加することの意義

宇都宮徹壱

山田大記にとっての被災地支援

昨年10月1日に予定されていた静岡ダービーは、静岡県全域を襲った台風で中止となった。磐田の山田は、清水・藤枝・沼津の選手とともに被災地支援活動を行った後、同月22日に順延された試合を戦った 【(C)J.LEAGUE】

 日常を一変させる災害は、大地震に限った話ではない。近年では台風や線状降水帯による大雨により、河川氾濫や土砂災害による深刻な被害が、毎年のように各地で起こっている。

 Jリーグ30年の歴史の中で、自然災害による中止(延期)が最も多かったのは、2018年で19試合。この年は2つの大地震(大阪府北部地震と北海道胆振東部地震)以外にも、平成30年7月豪雨災害(6月28日~7月8日)、台風12号(7月24日~8月3日)、台風24号(9月21日~10月1日)があり、1年を象徴する漢字には「災」が選ばれた。
 
 2018年以降も、台風や大雨による災害は断続的に続いている。昨年は令和4年台風15号によって、9月23日から24日にかけて静岡県全域で100ミリを超える大雨を観測。各地で停電や断水となり、10月1日に予定されていた、清水エスパルスとジュビロ磐田による静岡ダービーも延期されることとなった。

「中止が決まったのは、その週の水曜日くらい。磐田のほうは問題なく練習できたんですが、清水では断水が続いていることを知ったんです。元沼津の尾崎(瑛一郎)さんが声をかけてくれて、試合も流れたということで、クラブの了解を得たうえで静岡市でのボランティアに向かうことにしました」

 そう振り返るのは、ジュビロ磐田の山田大記だ。静岡県には磐田と清水の他にも、藤枝MYFCとアスルクラロ沼津という4つのJクラブがある。いずれもライバル関係にあるわけだが、2020年のコロナ禍をきっかけに「One Shizuoka Project(ワン・シズオカ・プロジェクト)」を設立。いざという時に助け合う枠組みができていたことから、クラブを超えてボランティアに駆けつけるのも自然の成り行きであった。

 山田によれば、現地での活動は「ひたすら配給」。トラックで届けられる支援物資を下ろして、仕分けをして配るという作業の繰り返しだった。参加したのは10人くらいで、終わったのは夜の10時近かったという。

 それにしても静岡ダービー中止の中、こんなストーリーがあったとは知らなかった。あまり話題にならなかった理由について、山田はこう明かす。

「地元メディアも取材に来ていましたが、報道しないようにお願いしたんです。やっぱりダービーを控えていましたから、こういうことは表に出さないほうがいいと判断しました。清水からは、西澤(健太)とかが参加していたので、周囲がざわついていましたが(笑)、ほとんど知られていない話だと思いますよ」 

 10月22日に延期となった静岡ダービーは、34分にチアゴ・サンタナのゴールで清水が先制するも、磐田も90+2分にジャーメイン良のゴールで追いつき、1-1のドローで終了する。まさに、伝統の静岡ダービーらしい、意地と意地のぶつかり合い。ボランティアに参加していた両クラブの選手たちは、どんな面持ちで試合に臨んだのだろうか。

「絶対に負けられない相手ですから、試合中はいつもどおりのバチバチでしたよ。それでも試合後、僕らがボランティアをしていたことを知っていた、何人かの清水サポーターが挨拶に来てくれましたね。試合は試合、でも困っている時には助け合う。選手同士、クラブ同士、そしてサポーター同士、そういう関係であるのはいいなと思います」

 その上で「僕はまだ当事者なので、あまりうかつなことは言えませんけど(笑)」と付け加えることを、磐田のベテランは忘れなかった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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