レバンテUDが子どもたち向けのクリニックを開催「日本の子どもたちに足りていない戦術面のレベルを上げるために来ました」

舩木渉

15人の小中学生が参加したレバンテUDの大阪キャンプ。灼熱の中で、午前・午後にわたって熱のこもった指導が展開された 【舩木渉】

 スペイン2部のレバンテUDがこの夏、埼玉、千葉、大阪で、日本の子どもたちを対象としたトレーニングキャンプを開催した。同クラブのアカデミーは、トップチームはもちろん他クラブにも選手を送り出すなど、小規模ながら育成に定評がある。2016年からは海外にも積極的に進出し、日本とも交流を深めている最中だ。日本でのトレーニングキャンプには総勢167人の子どもたちが参加。ここでは8月13日に行われた大阪トレーニングキャンプの模様をレポートする。

常にボールを要求し続け、声を出すように

 今夏は欧州から多くの有名クラブが来日し、Jリーグクラブなどとプレシーズンマッチを行った。こうしたトップレベルでの日欧交流が盛んになる中で、グラスルーツでも海を越えたつながりが深まっている。

 スペイン2部のレバンテUDは8月13日に大阪府内で子どもたち向けのトレーニングキャンプを開催した。現地スペインからはレバンテ国際部ダイレクターのダニエル・パストール氏と、同クラブのU-12で監督を務めるセルヒオ・ブレサ・ピナ氏が来日し、小学校高学年から中学生までの15人を指導した。

 トレーニングを担当したブレサ・ピナ氏は25歳ながら指導歴7年と若くして豊富な経験を持つ将来有望な指導者だ。実弟のアレックス・ブレサ・ピナは、現在レバンテのトップチームに所属している。

「私には、子どもたちにサッカーを大好きになってほしいという情熱があります。子どもたちが成長するためなら、どんな犠牲も厭いません」

 その言葉通り、灼熱の中で行われたトレーニングにおいて、ブレサ・ピナ氏は気温をさらに上げるような熱さでクリニックに参加した子どもたちと向き合った。

 午前の部は4対1や5対2のボール回しから始まり、最終的には7対7+フリーマンのポゼッションゲームで締めた。約1時間半のトレーニングの中で、最も多くの時間を割いたのは「ロンド」=「鳥かご」だった。

 ブレサ・ピナ氏は4対1や5対2のロンドの最中、盛んに「常にボールを要求し続けること」や「声を出すこと」を子どもたちに求めた。しばしば途中でストップをかけ、状況に応じたサポートのポジショニングやパスコースの作り方を、実演を交えながら伝えていく。

 全員が常に適切なポジションでパスを受けられる準備をし、声や身振りも駆使してボールを持っている選手を助ける習慣をつけることが狙いだった。

「ロンドを使ってボール保持の練習をするのは、あらゆる局面における選手の行動をパターンや習慣として根づかせるためです。ゴールを使わずに練習するのには、ボールを保持し続けるためにチームメイトを助けるアクションを習慣化するという狙いがあります。ロンドからはボールの周りでどんなサポートが必要なのかというポイントを学ぶことができ、最終的にはすべてが相手ゴールに到達することにつながっていきます」

スペインの同世代の子どもたちは当たり前にできている

トレーニングを担当したブレサ・ピナ氏は、25歳ながら経験豊富な指導者。子どもたちと真剣に向き合い、情熱的に指導した 【舩木渉】

 まずは少ない人数かつ狭いエリアで練習を始め、限られた選択肢の中から正しいプレーを論理的に判断する意識をつけさせる。その後、ルールによる制限や人数を増やしながら、徐々にプレーの選択肢の幅を広げて状況判断の難易度を上げていく。

 4対1から5対2、そして7対7へと発展させながら、選手たちに直前までのメニューから得たものを応用しなければ解決できない状況を提示していくのである。

「最初は少ない人数のグループ、近い距離のパスから始め、少しずつ関わる選手の数やスペースを増やしていくことによって、サッカーの試合の中で実際に起こるような現象がどんどん増えていきます。練習の最後には何度もサイドを変えながら、いいタイミングを見つけて前に進むことができるようになっていきました。

 単に『前に行く』だけでは、ボールをゴールの方向へ運んでいくことはできません。なので、最適なタイミングを見つけるためにボールを動かし続け、見つかったら前に進んでいく、見つからなければやり直す、という判断を促すのが午前中の最後のメニューの目的でした」

 トレーニングを見ていると、最初は4対1ですらうまくボールを回せなかった子どもたちが、基本的なサポートのポジショニングやタイミングを指導されることでスムーズにパスをつなげるようになっていった。

 ただ、今回のクリニックで伝えた基本的な戦術的動作に関して、ブレサ・ピナ氏は「スペインの同年代の子どもたちは当たり前にできていること」だと言う。そして、彼には日本での初指導を通じた気づきがあった。

「選手たちの技術レベルは非常に高いと感じましたが、ボールに関わったあとやボールを失った時の切り替えが極端に遅かったです。ハイレベルな技術があるのに、それを活かすための強度が欠けていました。クオリティは高いですが、インテンシティを上げて、技術を賢く活用する術を身につける必要があります。

 彼らには戦術面でもっと成長できる大きな余白があると感じました。ピッチ上では常にボールに関わって味方をサポートし、適切なポジションでパスを要求し続け、素早く判断を下さなければなりませんが、彼らはまだこうしたアクションを起こせません」

 そう語った25歳の熱血コーチは「今回、私は彼らに足りていない戦術面のレベルを上げるために来ました」と続けた。そして、自らの考えを午後のトレーニングで実践してみせた。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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