連載:欧州サッカー23-24シーズンの論点は?

プレミアリーグ「ビッグ6」の補強診断 最高評価は3大強化ポイントを埋めたマンU

松野敏史

マンCの最大の収穫は、クロアチア代表のCBグバルディオル。まだ21歳という若さだが国際経験も豊富で、3冠王者のさらなるクオリティの向上に貢献しそうだ 【Photo by Lexy Ilsley - Manchester City/Manchester City FC via Getty Images】

 8月11日に開幕した2023-24シーズンのプレミアリーグで、やはり優勝争いをリードするのは、マンチェスター・C、アーセナル、マンチェスター・U、リバプール、トッテナム、そしてチェルシーの「ビッグ6」だろう。では、この夏の補強を経て、もっとも充実の戦力を整えたクラブはどこなのか。シーズン開幕直前には、トッテナムがついにエースのケインをバイエルンに売却。9月1日の移籍期限最終日までに、まだまだ変化は起こりそうだが、ここでは現時点における強豪6クラブの補強の成果を診断する。

※情報は8月12日時点。【IN】【OUT】は契約上の移動ではなく“体の移動”を記載。◇はレンタルバック、◆はレンタル元を経ての移籍。

ウイングにテコ入れがないのは気掛かりも

【マンチェスター・シティ】
補強診断:A
昨シーズン:優勝
監督:ジョゼップ・グアルディオラ(8年目)


 悲願のチャンピオンズリーグ制覇を果たし、トレブル(3冠)の偉業を成し遂げたチームから、イルカイ・ギュンドアンが契約満了で退団。チェルシーからマテオ・コバチッチを獲得しているが、ギュンドアンとは異なるキャラクターで、はたしてその穴は埋まるのか。

 オフ・ザ・ボールの走り込みからフィニッシュに絡んで、過去2年間で16ゴール(プレミアリーグのみ)を挙げたギュンドアンに対し、コバチッチはやや球離れが悪く、チェルシーでの過去2年間でわずか3ゴールと得点力に難がある。ギュンドアンの後釜には、ウイング兼任のフィル・フォデンやCF兼任のフリアン・アルバレスという既存戦力の選択肢もあり、戦術メカニズムの変更なども併せて、ジョゼップ・グアルディオラ監督がどんな対応策を用意してくるのか注目だ。

 大本命を射止めたのはDFの補強だ。RBライプツィヒとの交渉をまとめ、ヨシュコ・グバルディオルを獲得した。移籍金は7700万ポンドだ。

 スピードとフィジカルを活かして困難を解決する卓越した守備力はもちろん、安定したボールテクニックと高精度のパスでビルドアップでも大きな貢献を果たすグバルディオル。昨シーズンはジョン・ストーンズが担って素晴らしく機能した「偽CB」としても打ってつけで、3冠王者に大きなクオリティアップをもたらすのは間違いない。アーセナルと競合したデクラン・ライスから手を引いて、予算をグバルディオルに振り向けた判断は正しかっただろう。

 リヤド・マフレズが退団し、ベルナルド・シウバも移籍を希望するウイングにテコ入れがないのは気になるところだが、ユース出身のコール・パーマーがアーセナルとのコミュニティーシールド(いわゆるスーパーカップ)で、マフレズばりの強烈な左足ミドルを突き刺すなど、ブレイクの予感を漂わせている。

【IN】
DF グバルディオル←ライプツィヒ(GER)
MF コバチッチ←チェルシー

【OUT】
DF メンディ→ロリアン(FRA)
MF ギュンドアン→バルセロナ(SPA)
FW マフレズ→アル・アハリ(KSA)

ハヴァーツ&ライスで戦力収支はプラス

20年ぶりのリーグ優勝へ、この夏の補強からアーセナルの本気度が伝わってくる。なかでもプレミア史上最高額で獲得したライスは、文字通り切り札になりそうだ 【Photo by Visionhaus/Getty Images】

【アーセナル】
補強診断:A
昨シーズン:2位
監督:ミケル・アルテタ(5年目)


 カイ・ハヴァ―ツは6500万ポンド、デクラン・ライスはプレミアリーグ史上最高額となる1億500万ポンド、ユリエン・ティンベルは3400万ポンドで獲得と、総額2億ポンド超の超大型補強を断行。20年ぶりのリーグ優勝へ、本気度が伝わる夏だ。

 なかでもライスだ。深いスライディングタックルで敵を仕留め、ボール奪取後は素早い切り替えから長短のパスを展開し、機を見たドリブルでゴール前に厚みを加えるセントラルMFは、攻守のクオリティを大きく引き上げる、まさにプレミアリーグ制覇への切り札と言っても過言ではない新戦力だ。

 チェルシーから獲得したハヴァ―ツは超絶技巧と複数のポジションをこなす万能性を持ったハイスペック。2020-21シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝で優勝を手繰り寄せるゴールを奪ったように、勝負強さも持ち合わせている。
 
 ハヴァ―ツはそのCLを、ライスは昨シーズンのヨーロッパカンファレンスリーグを制覇しており、ビッグタイトルを獲った2人の経験は、リーグ優勝を目指すチームにとって貴重な付加価値となるはずだ。

 中盤はグラニト・ジャカが退団し、さらにトーマス・パーテイとジョルジーニョにも移籍の噂があるが、仮にこの2人が抜けたとしても、ライスとハヴァ―ツの加入で中盤の戦力収支はむしろ大きなプラスだ。

 アヤックス育ちのユリエン・ティンベルも、CB、左右のSB、さらにはMFにも対応するマルチな守備者で、3バックの併用など戦い方に幅を与えうる存在。ラインをブレイクする縦パス・スルーパスを装備し、ビルドアップでの貢献も期待できる。
 
 CFのガブリエウ・ジェズスが膝の故障でシーズン開幕から数試合を欠場することが決まり、その穴埋めに動くのかが、移籍マーケット終盤の焦点。もともと控えに不安を残す手薄なポジションだけに、ミケル・アルテタ監督がどう考え、どう動くか。

【IN】
DF ティンベル←アヤックス(NED)
MF ライス←ウェストハム
MF ハヴァーツ←チェルシー

【OUT】
GK ターナー→ノッティンガム・F
MF ジャカ→レバークーゼン(GER)

ハーランドと比較される超大器も獲得

ここまでの最高評価は、テン・ハーフ監督の戦術志向に合致する新戦力を獲得したマンU。爆発的なスピードを誇る20歳のホイルンドは、待望の「9番」候補だ 【Photo by Manchester United/Manchester United via Getty Images】

【マンチェスター・ユナイテッド】
補強診断:S
昨シーズン:3位
監督:エリク・テン・ハーフ(2年目)


 メイソン・マウント、アンドレ・オナナ、そしてラスムス・ホイルンドと、今夏の3大強化ポイントのセントラルMF、GK、CFにトップターゲットを迎える最高の補強を実現して、攻守のクオリティを大きく高めている。いずれも、プレッシングとビルドアップを基調とするエリク・テン・ハーフ監督の戦術志向に合致する新戦力だ。

 マウントは足を止めずにプレッシングの労を取り、攻守の切り替えを支えるフィジカルとメンタルの強靭さを併せ持つ。そしてアヤックス時代のテン・ハーフに師事しているオナナは、フィールドプレーヤー並みのボールスキルを備え、ビルドアップの質の高さは現代のGKでも随一と言っていい。

 20歳のホイルンドはアーリング・ハーランド(マンC)とも比較される超大器。爆発的なスピードと機動力、繊細なテクニックを兼ね備え、裏のスペースへのアタック、組み立てに手を貸すポストワークと、前線で幅広く機能する。まだ若いが、チームに長らく不在だった本格派の「9番」として、エースの座を託しうるタレントだ。
 
 プロデビューから3年目を迎え、プレシーズンマッチでキレのあるプレーを連発しているユース出身の新星アレハンドロ・ガルナチョも、本格ブレイクを遂げてオフェンスのプラスアルファとなりそうだ。
 
 一方で、マウント獲得の煽りを受けそうなフレッジをフェネルバフチェに売却。あとは、故障がちで計算が立ちにくく、ホイルンドの加入もあって存在価値が低下したアントニー・マルシアル、アヤックス時代の輝きを取り戻せずにいるレンタル復帰のドニー・ファン・デ・ベークなどを適正価格で売却し、移籍収支のバランスを取ることができれば文句なしだ。

【IN】
GK オナナ←インテル(ITA)
DF エバンス←レスター
MF マウント←チェルシー
FW ホイルンド←アタランタ(ITA)

【OUT】
GK デ・ヘア→未定
DF P・ジョーンズ→未定
MF ザビツァー→ドルトムント(GER)◆
MF イクバル→ユトレヒト(NED)
MF フレッジ→フェネルバフチェ(TUR)
FW エランガ→ノッティンガム・F
FW ヴェフホルスト→ホッフェンハイム◆

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著者プロフィール

『ワールドサッカーダイジェスト』誌と『サッカーダイジェストWEB』で副編集長を務め、ダイジェストWEBでは編集担当の責任者としてローンチを手掛ける。2020年4月にフリーランスのライター/編集者/翻訳者として独立。ヨーロッパのサッカー(とくにプレミアリーグ)に精通し、NFL、NBA、MLBなどアメリカのプロスポーツへの理解も深い。スポーツに限らず物事を多角的に捉え、本質を掘り下げることに興味と関心がある。

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