連載:欧州サッカー23-24シーズンの論点は?

プレミアリーグ「ビッグ6」の補強診断 最高評価は3大強化ポイントを埋めたマンU

松野敏史

最終ラインはCBもSBも控えが心もとない

ヘンダーソン、ファビーニョがサウジへと去り、リバプールの中盤は全面刷新に。新戦力のマカリステル(左)とソボスライが、どれだけ早くフィットするかがポイントだ 【Photo by Harry Langer/DeFodi Images via Getty Images】

【リバプール】
補強診断:B
昨シーズン:5位
監督:ユルゲン・クロップ(9年目)


 昨夏のサディオ・マネに続いて、今夏はロベルト・フィルミーノが退団し、19年のチャンピオンズリーグ、20年のプレミアリーグと、ビッグタイトルの“連覇“にチームを導いた強力3トップが、モハメド・サラーを残して完全に解体された。

 ただ、前線は先手を打っての世代交代が完了していて、フィルミーノの抜けた穴もいわば補填済みだ。むしろタレントは供給過多とも言えるほどで、誰と誰をどう組み合わせていくかが興味の中心。ユルゲン・クロップ監督がどんなソリューションを用意するのか楽しみだ。

 全面刷新となったのが中盤だ。契約切れで手放したジェームズ・ミルナー、アレックス・オクスレイ=チェンバレン、ナビ・ケイタに続いて、ジョーダン・ヘンダーソンとファビーニョがサウジアラビアへ去った。

 カネになびいたヘンダーソンとファビーニョの退団はやや誤算だったとはいえ、アレクシス・マカリステル、ドミニク・ソボスライと本命ターゲットを首尾よく獲得。さらにカーティス・ジョーンズを筆頭に、ハービー・エリオット、ステファン・バイチェティッチという若手も台頭もあり、クオリティやインテンシティの向上を実現している。

 昨シーズン終盤は、トレント・アレクサンダー=アーノルドが「偽SB」としてビルドアップを担う新機軸が機能しており、あるいはそのアレクサンダー=アーノルドを最初からMFで起用する本格コンバートもあるかもしれない。ただ、彼をどこでどう起用するにせよ、最終ラインはCBも左右のSBも控えが心もとなく、ここまでテコ入れがないのは気掛かり。とくにミルナーで賄っていた右SBのバックアッパーは、専門家が不在でアキレス腱のままとなっている。

【IN】
MF ソボスライ←ライプツィヒ(GER)
MF マカリステル←ブライトン

【OUT】
DF ラムジー→プレストン◇
DF R・ウィリアムズ→アバディーン(SCO)◇
MF ヘンダーソン→アル・イテファク(KSA)
MF ケイタ→ブレーメン(GER)
MF ミルナー→ブライトン
MF オクスレイ=チェンバレン→未定
MF アルトゥール→フィオレンティーナ◆
FW フィルミーノ→アル・アハリ(KSA)
FW カルバリョ→ライプツィヒ(GER)◇

ケインの穴を埋めるCFは限られる

バイエルンの熱心なアプローチを受け、ついにトッテナムもエースの売却を決めた。ケインの退団で後釜のCF探しが急務となるが、2年目のリシャルリソンへの期待も大きい 【Photo by Jacques Feeney/Offside/Offside via Getty Images】

【トッテナム】
補強診断:C
昨シーズン:8位
監督:アンジェ・ポステコグルー(新任)


 ジェームズ・マディソン(イングランド)、マノール・ソロモン(イスラエル)、グリエルモ・ヴィカーリオ(イタリア)、ミッキー・ファン・デ・フェン(オランダ)と、派手さはないものの各国代表クラスの実力者で補強ポイントを的確に埋めている。

 マディソンはプレミアリーグ屈指の攻撃的MFで、昨シーズンは10ゴール・9アシストと、フィニッシュとチャンスメークの両方で違いを作り出す仕事人。鋭いステップで局面を打開するドリブラーのソロモンは、昨シーズンに4試合連続ゴールを決めるなど決定力を併せ持つ。
 
 またヴィカーリオは両足を使いこなし、ビルドアップのセンスを持ったモダンな守護神で、ファン・デ・フェンは190センチ超の長身に圧倒的なスピードを兼ね備え、アンジェ・ポステコグルー新監督が志向するハイラインの守備に適したCBだ。

 1年前に契約して今夏に合流のディスティニー・ウドジエも攻撃力が非凡な左SBで、即戦力候補だ。ただ、左足のスキルとクリエイティビティが卓越するデヤン・クルセフスキのユベントスからの買い取りも決めた一方で、ポステコグルー監督の頭を悩ませてきたのが、長引く主砲ハリー・ケインの去就問題だった。

 しかし、新シーズンの開幕直前に事態が進展。バイエルンへの移籍でクラブ間合意に至ると、ケインも残り1年となっていた契約を更新せず、熱心にアプローチをかけてくれたバイエルン行きを決断したのだ。こうなると、当然ながら後釜の確保が必要だが、ケインの穴を埋められるCFは世界的に見ても数が限られる。はたして、ここからビッグネームの獲得はあるのだろうか。

 ヴィカーリオの加入で事実上戦力外になったウーゴ・ロリスの受け皿もまだ見つからず、アトレティコ・マドリーから触手が伸びるピエール=エミル・ホイビェア、古巣ハイドゥク・スプリトへの復帰が噂されるイバン・ペリシッチ、さらにタンギ・ヌドンベレ、ジオバニ・ロ・チェルソ、ブライアン・ヒルらレンタル復帰組の処遇もはっきりさせなければならない。

 大きなプラスアルファになりうるのが、ともに加入1年目の昨シーズンは怪我で精彩を欠いたリシャルリソンとイブ・ビスマだ。とくにリシャルリソンは、ケインの退団が決まった前線の重要なカギを握る存在となる。

【IN】
GK ヴィカーリオ←エンポリ(ITA)
DF ウドジエ←ウディネーゼ(ITA)
DF ファン・デ・フェン←ヴォルフスブルク(GER)
DF A・フィリップス←ブラックバーン
MF マディソン←レスター
MF ロ・チェルソ←ビジャレアル(SPA)◇
MF ヌドンベレ←ナポリ(ITA)◇
FW ソロモン←フルアム
FW ヴェリス←ロサリオ(ARG)
FW B・ヒル←セビージャ(SPA)◇

【OUT】
DF ラングレ→バルセロナ(SPA)◇
FW L・モウラ→サンパウロ(BRA)
FW ダンジュマ→エバートン◆
FW ケイン→バイエルン(GER)

大リストラの一方で補強は遅々として……

昨シーズンのビジャレアルでブレイクした快足ジャクソン(写真)を加えたとはいえ、同じく新戦力のヌクンクが負傷で長期離脱。チェルシーの前線にはまだ補強が必要だ 【Photo by Darren Walsh/Chelsea FC via Getty Images】

【チェルシー】
補強診断:D
昨シーズン:12位
監督:マウリシオ・ポチェティーノ(新任)


 マウリシオ・ポチェティーノを新監督に迎えた今夏の移籍マーケットは、空前絶後の大型補強で膨れ上がった人員の整理から着手。エヌゴロ・カンテにカリドゥ・クリバリ、エドゥアール・メンディ、カイ・ハヴァ―ツ、マテオ・コバチッチ、さらに生え抜きのメイソン・マウントまで手放す大リストラで、まずは補強の余地を作り出した。

 トップチームのメンバーが30人以上に膨れ上がり、本拠地スタンフォード・ブリッジのロッカールームに全員入りきらないという冗談のような状況にあっただけに、合理的な動き出しと言えるだろう。

 ただ、財務規程の縛りもあって、補強が思うように進んでいない。レギュラー格の4人を放出した中盤は、これまでに獲得したのが19歳のレスリー・ウゴチュクのみと、質も量も圧倒的に不足。大黒柱のエンソ・フェルナンデスに何かあったら、たちまち崩壊の危機に直面することになる。

 現在、ブライトンのモイセス・カイセドやリーズのタイラー・アダムスを本命に鋭意リクルーティング中だが、そのなかでプレシーズンを通じて評価を高めているのが、今年1月に契約して実質新加入のアンドレイ・サントス(ヴァスコ・ダ・ガマから)だ。19歳のブラジル人が中盤の救世主になるか。

 新たな得点源として獲得したクリストファー・ヌクンク(昨夏に契約合意)がプレシーズンマッチで膝の半月板を負傷して12月までの欠場が決まり、前線の補強もいわば振り出しに。ニクラス・ジャクソンを獲得しているとはいえ、新加入の22歳だけではさすがに心許ない。レンタル復帰のロメル・ルカクを交換要員として、ユベントスのドゥシャン・ヴラホビッチを狙う。

 膝靱帯断裂のウェスリー・フォファナとハムストリング負傷のブノア・バディアシルが欠場中のCBは、9月で39歳になるチアゴ・シウバが頼みの綱と、こちらも危うい状況だったが、開幕1週間前の8月4日にアクセル・ディサシの獲得に成功した。モナコでは昨シーズン途中までブノワ・バディアシルとコンビを組んでいた屈強なフィジカルの持ち主で、その点では間違いなくプレミアリーグ向きだ。

 同じくリーグ・アンから引き抜いたマロ・ギュスト(契約は1年前)は攻撃力が魅力の右SBの逸材で、まずはリース・ジェームズのバックアッパーから研鑽を積むことになる。

 ケパ・アリサバラガに全幅の信頼が寄せられなかったGKには、ブライトンのロベルト・サンチェスを獲得。足下のテクニックに長けた現代型の守護神は、プレミア経験も豊富な実力者だ。

【IN】
GK R・サンチェス←ブライトン
DF ギュスト←リヨン(FRA)
DF ディサシ←モナコ(FRA)
MF ウゴチュク←レンヌ(FRA)
FW ヌクンク←ライプツィヒ(GER)
FW ジャクソン←ビジャレアル(SPA)
FW アンジェロ←サントス(BRA)
FW ルカク←インテル(ITA)◇

【OUT】
GK メンディ→アル・アハリ(KSA)
DF クリバリ→アル・ヒラル(KSA)
DF アスピリクエタ→A・マドリー(SPA)
MF マウント→マンチェスター・U
MF コバチッチ→マンチェスター・C
MF ロフタス=チーク→ミラン(ITA)
MF カンテ→アル・イテハド(KSA)
MF ザカリア→ユベントス(ITA)◇
FW ハヴァーツ→アーセナル
FW プリシッチ→ミラン(ITA)
FW オーバメヤン→マルセイユ(FRA)
FW D・フォファナ→U・ベルリン(GER)◇
FW J・フェリックス→A・マドリー(SPA)◇


(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

『ワールドサッカーダイジェスト』誌と『サッカーダイジェストWEB』で副編集長を務め、ダイジェストWEBでは編集担当の責任者としてローンチを手掛ける。2020年4月にフリーランスのライター/編集者/翻訳者として独立。ヨーロッパのサッカー(とくにプレミアリーグ)に精通し、NFL、NBA、MLBなどアメリカのプロスポーツへの理解も深い。スポーツに限らず物事を多角的に捉え、本質を掘り下げることに興味と関心がある。

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