女子ボクシング2022年MVPの晝田瑞希が抱く野望 広い世界で活躍するために「まだまだ強く、もっと強く――」

船橋真二郎

「6ラウンドKO勝ち」に込められた思い

5月20日、墨田区総合体育館で行われたDANGAN興行と併催されたイベントで寺地拳四朗とトークショー。取材4日後、「6ラウンドKO勝ち」を積極的に発信した 【写真:船橋真二郎】

――初防衛戦の相手は、WBOが女子のランキングを整備して、1位にランクされたケーシー・モートンになりました。4年前に初来日して、吉田実代選手との王座決定戦に判定で敗れている選手ですが、ハワイ出身でお母さんが日本人というアメリカ人選手です。

 アメリカの選手とできるのは嬉しいですよね。ここでいい試合をしたら、もしかしたら、あっちの人に少しでも知ってもらえるきっかけになるかもしれないし、次につながる試合になるかもしれないので、チャンスを生かしたいなって。

――コロナの影響もあると思いますけど、国内開催の女子の世界戦で外国人選手を迎えるのは、吉田選手が2019年の大みそかに中国のシー・リーピンと防衛戦をして以来です。3年半ぶりに国際試合として国内で世界戦をする。これも意味のあることだと思います。

 そうなんですか。まあ、指名試合で決まったんですけど、「え? 日本人?」とか言われるのも自分は嫌だったので、良かったですし、アメリカで日本人との戦い方の違いとか、パワーの違いとかも試合をする前に知れたので、それも良かったなと思ってます。

――モートンの印象は?

 映像で見ただけなので……。まあ、アメリカで感じたのは、自分より背が低かったとしても、しっかりパンチを打ってくる選手が多かったので、映像で見た以上に警戒しないと。

――モートンどうこうではなく、肌で感じた海外の選手の強さを意識して。

 そうですね。体の強さ、パンチの強さ、気持ちの強さがあると思うし、少々もらっても、止まらなかったり、打ち合ってきたりすると思うので、相手の攻撃にビビらないように。冷静に対応して。油断なんかしたことないけど、しっかり集中して。

――ぬき選手との試合を経験して、プロの8オンスの戦いを踏まえて、心構え、覚悟をつくった1年でもあったと思うので、そこも見せないといけないですね。

 はい。まあ、しっかり戦いながら、もらわないボクシングも大事なので、ディフェンスも意識しつつ。今まででいちばん強気な姿勢も見せられたらいいな、とは思いますね。

――その上で、どんな試合を見せたいですか。

 うーん……。まあ、欲を言えば、最後までいきたくない……。今、言おうか、迷ってたんですけど(苦笑)、向こうでトレーナーのエドガー(・ハソ)と約束したんですよ。日本に帰ってきて、まだ誰にも言ってなかったんですけど、6ラウンドで終わらせようって。パンチはあるよ、倒せるよ、できると思ってるからって、言ってくれて。

――それだけの力はあるよ、ということですね。

 でも、KOしようとし過ぎて自分の動きが硬くなっても、ぬきさんの試合のこともあるし、あのときは自分が攻めることしか考えてなくて……。でも、そうだな。そういうところですよね。弱気になっちゃうというか、慎重になり過ぎちゃう。うん。強気でいこう!

――それこそ、向こうで攻撃のときの動き、技術を学んできたし。

 まあ、たった3週間ですからね。でも、加藤さんがアメリカの練習動画も見てくれて、私のボクシングが崩れないように動きに馴染ませてくれますし、自分のやるべきことを見失うわけじゃないから。そうですね。約束を守ります。口に出さなきゃね。挑戦。チャレンジだ!

――それだけ期待をしてくれたんでしょうからね。

 そうですね。向こうの人は、みんなポジティブなんですけど、特にエドガーは私のことを気にかけてくれて。常にポジティブでいられるような声かけをしてくれたんですよね。私って、みなさんに「ポジティブだね」って言ってもらうけど、それは、そうありたいっていう願いから、そう見せている部分もあって。正直、めちゃくちゃネガティブだし、マイナスなほう、マイナスなほうに自分を引っ張っていっちゃうんですよ。泣き虫だし、特別、強い人間じゃない(笑)。

――加藤トレーナーとも話したんですけど、ぬき戦で一度、そういう弱いところをさらけ出して、受け止めた上で乗り越えてきたのは良かったんじゃないですか。

 そうですね。なんか、そこが私の魅力として感じてもらえたらいいなって、自分で勝手に思ってるんですけどね(笑)。泣くときは泣いて、そうやって自分(の弱さ)と向き合ってやってきてるから。そういう私が強くなって、リングでは特別になるところを見たら、「私も頑張ろう」みたいに思ってもらいやすいのかなと思って。

目指すのは井上尚弥のような圧倒的な強さではなく、自分の弱さもさらけ出しつつ、それを乗り越えていくところを見せる強さだ 【写真:本人提供】

――目指しているのは、井上尚弥(大橋)選手のような圧倒的な強さじゃなくて、弱いところもありながら、それを乗り越えていく強さ、そこを見てほしいと以前、言っていましたね。ただ、リングでは特別になると。そういう意味でも、凝った衣装で毎回、登場して、自己プロデュースしていますが、また今回も何か考えているんですか。

 それが衣装に使う金銭的な余裕が……。アメリカに行ったのもあるし、この先、アメリカにまた行きたいのもあるので。なので、プロデビュー戦のときの(ポンチョ型の)ガウンは意外と見てないって言われるので、もう1回。だから、少しガッカリさせてしまうかもしれないけど、強くなるためにお金を使いたいということは、応援してくれてる人たちは理解してくれると思うので。その分、試合内容でしっかり見せられるように頑張ります。

――それは理解してくれると思いますよ。では、エドガーとの約束を果たして、またアメリカに行かないといけないですね。

 ほんとにそうですね。エドガーが最初のはじめましてのときに「Mi casa es tu casa」って言ってくれて。それは「私の家は、あなたの家」っていう意味で、だから、「ここを自分の家だと思いなさい」って。マニーも同じように「みんなを家族だと思って」って言ってくれたんですよ。そんな温かい言葉をずっとかけてくれるし、ポジティブな言葉をかけてくれるので、チャレンジしてみよう、頑張ろうって思わせてくれるんです。向こうでは一度もマイナスなほうに気持ちがいかなかったんですね。そういう環境でもっと学びたいと思ったし、もっと強くなれると思ったし、また絶対に戻りたいと思います。

――今、本当に強くなりたいという気持ちがあふれている感じがしますね。華やかな衣装が魅力なのは、本質的なところでボクサーとして可能性が感じられるからで、まだまだ持っている力を全て発揮しているとは思ってないですから。

 はい。本物になれるように頑張ります(笑)。結局、夢をつかむにしても、もっと強くなるしかないですからね。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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