連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

工藤公康が「解説者」として伝えたいこと 野球中継前に欠かせない準備とは?

工藤公康

4月13日の巨人vs.阪神戦などでテレビ解説を務めた工藤氏。視聴者にどんなことを伝えたいと思い、実況席に入るのだろうか? 【写真は共同】

 現役通算224勝。ソフトバンク監督時代にはチームを5度の日本一に導き、2022 年からは野球評論家として幅広く活躍する工藤公康さん書き下ろしの連載コラム。今年はセ・リーグ開幕戦の巨人vs.中日などでテレビの解説者を務めてきた工藤氏は、どんな準備を重ねて試合解説に臨んでいるのでしょうか? チームの作戦や監督の気持ちなどを伝えるうえで、自身も監督を務めた経験が大いに役に立っていると言います。解説を通してどんなことを視聴者のみなさんに伝えたいのか、その思いについて語ります。

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視聴者に分かりやすく伝えるための準備

工藤氏は解説前に、どのようにして打者の調子の良さを見極めているのだろうか? 【写真は共同】

 試合の解説で、私が大切にしていることの1つは“準備”です。

 解説をするチームの直近3試合の映像を必ず見て、時には6台のモニターに過去の試合を映し、情報を集めるようにしています。

 調子の良さ、そのチームの得点パターン、バッテリーの配球や攻め方、ランナーがいるときやいないときの作戦や戦略などを見て、解説の際にどういった話をすれば視聴者の方に分かりやすく面白さを伝えられるか、イメージをしながら準備をしていきます。

 そのうえで、打者の調子の良さをどんな基準で判断をしているのでしょうか?

 ヒットを打った、四球をしっかりと選んで出塁をしている、長打やホームランを打った、打たない、というのも1つの判断材料になるかもしれません。私はそういった“結果”よりも、その打者が、“どういった打ち方をしているか”を事前の映像から見て、状態やコンディションを確認するようにしています。

 一概にヒットを打っているからと言って、その打者の“調子が良い”とは言い切れません。

 例えば、普段良い当たりを打っているときの打撃のポイントが、前にある傾向の選手だったとします。その選手がヒットを打ったとしても、それが詰まったような打ち方をしたり、差し込まれたような形になっている場合は打撃の調子が良いとは限りません。

 逆にそういった選手が、追い込まれたときにボールの内側をコンタクトするようになってきている。変化球も含めて逆方向の打球が増えてきた。そのような場合は、徐々に調子が上がってきていると考えられます。そういった情報をしっかりと整理して解説に備えるようにしています。

 例えヒットが出ていなくても、自分のポイントでコンタクトできているのか、どういった動きやスイングをしているのか、結果からは見えてこない部分を映像で確認するのです。

 配球的な視点からも、映像を見て分析をすることはとても重要になります。今は選手の打球方向や打ち取られた結果もデータとして見ることができます。ただ、その結果に至るまでのファウルの仕方やカウントによる打球方向(どういったファウルだったのか)などは、映像を見なければ分かりません。

 どんなファウルを打ったのか、その後、どんな凡打になったのか。

 左打者が、外の真っすぐを打ってセカンドゴロだったとしても、その前に引っ張ったゴロのファウルがあった、外の変化球に対して3塁ベンチの後方に飛んだファウルがあったなど、3つの結果が重なって初めてその打席の組み立てや攻め方の意図が見えてくるのです。

 私の場合、結果までの過程や攻め方もできる限り頭に入れて、解説に臨んでいます。

 時間がある場合は、球場に早く行き、実況席からバッティング練習を見ることもあります。先ほど書いたようなバッティングのポイントを見るなど、その日の選手の動きを見るためです。引っ張り傾向のある選手が流し打ちを多くしている場合、「どこか修正したい部分があるのかな?」など、試合が始まるまでの時間で新しい情報を入れて整理をします。

 選手のコンディションの良し悪しは、何らかの“形”として表れます。ファウルの打ち方、見逃し方、練習の様子やちょっとした仕草などから得られるような情報も頭に入れておくことで、解説に役立つ部分があると思います。

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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