連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

工藤公康が「解説者」として伝えたいこと 野球中継前に欠かせない準備とは?

工藤公康

監督経験によって解説の視点が変化

工藤氏(写真左)は自身の監督経験が解説で大いに役に立っていると話す 【写真は共同】

 私が選手の時は、打者とのタイミングを自分で測り、相手が「何を待っているのか?」を自分の中で見るようにしていました。

 そのためにどういったデータを参考にするのか、その選手のバットの軌道、タイミングの取り方、インコースそれともアウトコースを狙っているのか、ランナーがいるときのバッティングや動きの変化…。選手時代に考えてきた打者の見方やデータを分析する経験は、今でも解説の際に役に立っていると感じます。

 一方で監督を経験したことで見え方も変わり、解説も変わった部分もあります。

 ランナーがいるときにどういった作戦やサインを出すのか、どのタイミングでランナーを動かすのか、バントをするのか、バスターやエンドランが多いのか、どのタイミングでスクイズをするのか、もしくはセーフティスクイズを選択するのか…。監督を経験したことで、そのチームの得点パターンを考え、チームとしての作戦や戦略を考えるようになりました。

 相手に考えさせたい、警戒させたい。そのために少しでも集中力を乱そうと思わせるような戦略です。相手に“仕掛けてくるかもしれない”と思わせるほど、例えば投手であれば、外す、低めに変化球を投じるなど、バッター有利のカウントが自然と作られやすい状況になるのです。

 常に先を見て、その先の大事な試合を含め、どういった形で試合を有利に進められるか。

 解説のなかで、すべてを話すことは難しいかもしれません。でも、そのチームの作戦意図や目的を、目先の試合にとどまらず、先を見据えて考えることが多くなったと思います。

 私は監督を経験したからこそ、監督の気持ちや苦労がよく分かるようになりました。

 試合の中で行う監督の仕事というのは、監督としての仕事の一部でしかありません。当然試合に勝つことができればうれしいことですが、すぐに次の試合の準備もしなければなりません。

 だからこそ、目の前の結果や起きた事例というよりも、常に先を見据えた視点を持ち合わせ、解説ができればとも思っています。

 監督というのは、軌道修正をしながらチームの舵を切っていきます。右側の航路に嵐が見えるのであれば、左側の航路を進まなければいけない。しかし、左側も荒れている航路かもしれません。しかし、その航路の先に目指すべきものがあるかもしれない。あえて冒険をしなければいけないかもしれませんし、賭けをしなければいけない状況もあるかもしれません。今は苦しい戦況でも、その先を見たときに、ベストな航路になっているのかもしれません。そういったことも踏まえて、野球の楽しさや奥深さを伝えられればとも思っています。

 試合の中でも同じです。チャンスで一本が出なかったという場面。確かに打者からしてみれば、結果を出せずに悔しいかもしれませんが、逆を言えば、相手バッテリーがピンチの場面で踏ん張った、“一本を出させなかった”ということにもなります。

 相手がいるスポーツである以上、結果が出なかった選手もいれば、その一方で結果を出した選手もいます。単純に良いプレーや素晴らしい結果を残した選手は称え、そのプロとしての活躍、すごさも伝えられるようにもしたいと思っています。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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