仙台育英が目指すのは“2度目の初優勝” 自慢の投手力だけでなく、打撃の成長も見せる

高橋昌江

「柱の3人」に加えて、新たな投手も台頭

 誰もが練習への取り組みを「チーム1」と評するのが最速146キロ右腕の湯田。昨夏の甲子園では防御率6点台と安定感を欠いた結果となってしまったが、秋は練習の成果が顔を出した。青森山田との東北大会初戦(2回戦)では1点リードの9回裏途中、一打同点のピンチに登板して凌ぎ、準々決勝の鶴岡東戦では2安打10奪三振で高校初完封と見違える姿を見せたのだった。だが、事は順調に進まず、明治神宮大会では2試合で4回1/3を投げて被安打8、4失点。「球速も球威も足りないなと感じました」。冬場は秋の全国舞台で感じた課題を意識。春を迎え、「冬に入る前に立てた目標は大体、達成できているかなと思います。センバツでは強気なピッチングをしたいです」と意気込む。

 最速147キロ左腕の仁田は「以前よりもピッチングができているなと感じています。ここはボールでもいいやとか、自分の考えがまとまってきて、以前よりも余裕を持って投げられるようになってきました」と実戦で手応えを感じている。直球、スライダーともに回転数が多く、素質の高さが魅力。ボールを投げ込むだけでなく、打者との勝負勘が出てきたようだ。「自分の有利なカウントで進めていくことができれば、自分の持ち味をさらに出せるのかなと思います」。交わすタイプではないしね――と投げかけると、「はい、真っ向勝負で。それしかないんで!」と、力強く返した。

 3人とも、須江監督が口にした「もう1つ、2つ」は上がっているとみていいだろう。そして、「4人目、5人目」もまた輪郭を表してきた。秋の公式戦で5試合、7回1/3を投げている左腕の田中がゲームメイクできるようになり、信頼を得た。そして、5人目に183センチ、100キロの大型右腕・佐々木広太郎(新2年)が入った。彼らをリードする尾形は「各投手、冬に練習してきたものは出てきています。自滅することがなければ、勝利は見えてくるかなという感じです」と戦いを見据える。

野手陣はフィジカル強化を得点力につなげられるか

冬の期間は短所と向き合い、フィジカルと打力アップに力を注いだ。実戦形式の練習も積み、鍛えてきた成果を見せたい 【写真:高橋昌江】

 投手力は確かに仙台育英の特徴であり、山田主将は「秋はピッチャーのおかげで勝つことができました」と勝因に挙げる。だが、当然のことながら攻撃力にも磨きをかけてきた。「1月31日までは短所に対して丁寧に向き合う期間でした」と須江監督。シーズンオフに入ってからはフィジカルと打力の強化に力を注いだ。その成果もまた、芽吹いている。旧チームから4番を担う斎藤陽(新3年)は1月中旬にあった測定で、前回よりも打球速度が6キロ向上。試合形式の練習が始まると、長打が増えたという。尾形も「冬は筋力アップと再現性を高めることに取り組んできましたが、バッティングでも守備の動作でも目に見える形で成長しているなと感じています」と自信をのぞかせる。

 仙台育英は投打ともに秋よりもスケールアップし、投手対打者の実戦形式、紅白戦やシート打撃、そして練習試合と着実に段階を踏んで春本番を迎える。初戦の相手は慶応だ。昨秋の公式戦12試合で打率・382、15本塁打、98打点と打力が高い。打つだけでなく、「バントなど、細かいこともやるチーム」と須江監督は警戒する。この強力打線を投手陣の蓄積してきた能力と守備の的確なポジショニングで封じ、勝機を見出したいところだ。

 「どこのチームも、自分たちを倒そうと向かってくる。夏に優勝したからこそ、もっと自分たちに対してどん欲にやっていかないといけないなと思っています」。山田主将がそう言ったことがあった。優勝したからこそ――。日本一に構えることなく、野球力を高めようとしてきた。その7ヶ月の歩みを披露する時が来た。「自分たちの野球を丁寧にやり、一戦必勝で戦っていきたいなと思います」と山田主将。今年のチームスローガン「Just do it〜あとはやるだけ〜」の通り、力を出し切るだけ。そうして1プレーを積み重ねた先に「2度目の初優勝」がある。

2/2ページ

著者プロフィール

1987年、宮城県若柳町(現栗原市)生まれ。中学から大学までソフトボール部に所属。東北地方のアマチュア野球を中心に取材し、ベースボール・マガジン社発刊誌や『野球太郎』、『ホームラン』などに寄稿している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント