ラミレスが共同代表の「働くプロチーム」 アイスホッケー横浜GRITS、3年目の大前進

平野貴也

仕事との両立可能を証明、選手が獲得してきた「会社からの理解」

 進化しているのは、プレー面だけではない。選手がチームと会社をつなぐ形も、少しずつ実績ができてきた。横浜GRITSは、不況によりプロや実業団の形が崩れる中、選手の生活を安定させながら競技力を向上させる、新しい形作りを大きな目的としている。

 両立には、選手が所属する会社の理解を得ることも必要だ。氏橋は、大手製造会社に勤めているが、プロアスリートとの両立は前例がなく、会社も手探りの対応だったという。「アイスホッケー界に新しい風を吹き込みたかった。『人柱』になって実績を見せることができれば、不可能ではないことになる。3年間、失敗するわけにはいかないと強い思いで臨んだ」と話した氏橋は、今後、実績が積み重ね続ければ、各会社に競技生活を両立する制度が作られるかもしれないと期待をかけた。

選手の所属会社が応援、チームをスポンサードする例も

若手GK石田は試合後の会見で「僕が作ったチキンも売ってます!」とアピール 【筆者撮影】

 また、池田が話したように、コロナ禍による入場や声援の制限が解除されるようになった今季は、多くの選手が所属会社の仲間の応援を受ける姿があった。

 3月4日のひがし北海道クレインズ戦では、大卒新人のGK石田龍之進(23歳)が先発を飾り、好セーブを連発して自身初勝利を挙げた。臼井代表によれば、石田の就職先となったケンタッキー・フライド・チキンは、石田の存在がきっかけでチームスポンサーになったという。

 この日は役員を含めて社員が応援に駆け付けた。普段は店舗で調理や接客を行っている石田は「良いプレーを見せたいと思っていた。株が上がったと思います」と笑顔を見せた。所属会社の社員が応援する実業団のようなスタイルが、選手個々に存在する形は、面白い。選手がチームと会社から応援され、両者をつなぐ役目を果たす形も見えてきた。

4年目で「平均入場者1200人」と「プレーオフ進出」を実現へ

22年12月、元プロ野球選手のアレックス・ラミレス氏を共同代表に迎えた 【写真提供:横浜GRITS】

 浅沼芳征監督が「岐路だと思っていた」と振り返った3年目で一つの成果は出た。勝てなければ両立可能を証明できないと言い続けてきた菊池は、他チームとの競争力を得た3年目を終えて「デュアルキャリアは、選手生活の選択肢の一つ。1歩目は、3シーズンで進めたと思う」と確かな手応えを語った。来季は、リンク内外でさらなる前進が求められる。氏橋は「続けることが大事。止めれば、勝てないチームに戻る」と継続の重要性を訴えた。

 今季は、プレーオフ進出と平均入場者数1200人を目標に掲げていたが、どちらも達成はできなかった。4年目は、再挑戦となる。臼井代表は「優勝できるかもという位置に行かないと、デュアルキャリアで勝てると証明しきれない」とまったく満足していなかった。

 22年12月には、日本のプロ野球で活躍し、横浜DeNAベイスターズでは監督も務めたアレックス・ラミレス氏を共同代表に迎えた。臼井代表は「認知度を高める発信をしていきたい。駅前でビラを配っても、アイスホッケーなんてあるんだという声をまだいただく。応援してくださる企業様との取り組みも増やしたい」とチームに関わる輪を広げる意欲も示した。仕事とプロアスリートの両立に取り組みながら、チームを引っ張って来た菊池や氏橋らの貢献により、3年をかけてゼロからイチを作り上げることはできた。デュアルキャリアチームの可能性をさらに広げるために、横浜GRITSは4年目のシーズンに向かう。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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