連載コラム「工藤公康の野球ファイル」

工藤公康「春季キャンプはシーズンのスタートではない」 選手時代に重要視した取り組みとは?

工藤公康

キャンプでの反復練習がシーズンでの危機を救う

西武の黄金期を築いた広岡監督時代のキャンプでは、投内連携など基本練習が徹底して繰り返されたという 【写真は共同】

 私の西武時代の話になりますが、当時はまだ「合同自主トレ」というものがあり、1月10日からユニフォームを着てチームメイトと練習していました。そこから2月のキャンプでは毎日のように投内連携の練習が2時間行われていました。ファーストのベースカバー、バント処理のセカンドスロー、サードスロー、ホームへのグラブトスや送球を30分ずつほど行っていました。

 当時の広岡達朗監督は、ファーストベースカバーの際に、「ファーストベースを見ずにベースを踏めるように」と言っていました。最初は「そんなことできるわけない」と思っていたことでも、不思議なことに、数をこなしていくごとに、足を出す位置がベースに近づいていくのです。最終的には、足を出したところにポンとベースがあり、「ベースを見なくてもファーストのベースカバーができる」ようになりました。この経験が、シーズン中の危機を何度も救ってくれるのです。

 キャンプというのは、何も、チームとして確認作業をするだけではありません。西武時代のキャンプでは、こういった基本の大切さを中心に、練習のための練習ではなく、試合で勝つための練習をチーム全体で取り組んできました。当然個人としての練習や取り組みもしっかりと行わなければなりません。チームとしてミスをどれだけ抑えることができるのか、綻びが生まれないために、どれだけ基本的なことを積んでいけるのか、という部分もキャンプでは大切な取り組みだと思っています。

 だからこそ、そういった練習を数多くこなしていくために、春季キャンプまでにどれだけ準備ができていたかが、大切になるのです。

今取り組んでいることは必ず将来に活きる

 余談ですが、先ほどの西武時代の合同自主トレでは、「ウォーミングアップで100mを100本」走っていました。走り終わった際にコーチから、「よく頑張った! 明日は半分だ」と言われ、翌日は確かに50本になっていましたが、距離が倍になっていました。翌日には400mを25本。そういった練習をキャンプまで4勤1休で行ってきました。そういった土台があるから、キャンプでも練習をとことん積むことができたのだと思っています。

 当時は気付くこともなく、“なんでこんなことを…”と思っていたこともあります。それでも、時が経って振り返った時に、私の現役を支えてくれたことの一つだったと感じました。

 春季キャンプでは、技術的な練習も多く、練習やトレーニングも負荷の高いものを行っているチームもあるかと思います。取り組んでいる選手も大変な時期かもしれませんが、今の取り組みは必ず自分自身の未来につながります。一見、遠回りなこと、非効率的だと思われるようなことでも、シーズン中の大ピンチでその経験が活き、自分を助けてくれることもあります。今シーズンでなくても、2年後や3年後につながってくることもあります。ぜひ、未来を見据えて、この春季キャンプに取り組んでもらえたらと思います。

 考え方や思い一つで、今シーズンの結果も変わってきます。ポジティブな思考とマインドで、開幕に向けて最高の準備をしてほしいと思っています。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1963年5月5日生まれ。愛知県出身。名古屋電気高校(現:愛知名電高校)から1981年、西武ライオンズからドラフト6位指名を受け、入団。西武黄金期を支え、福岡ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズに在籍。現役時代は14度のリーグ優勝、11度の日本一に貢献し、優勝請負人と呼ばれた。現役通算で224勝を挙げ、最優秀選手(MVP)2回、最優秀防御率4回、最高勝率4回など数多くのタイトルに輝き、正力松太郎賞は歴代最多に並ぶ5回受賞。2016年には野球殿堂入りを果たした。2011年に現役を引退後、2015年に福岡ソフトバンクホークスの監督に就任。7年で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた。現在は野球評論家として活動しながら、筑波大学大学院博士課程に進学。スポーツ医学博士取得に向け研究や検診活動を行っている。

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