連載:愛されて、勝つ 川崎フロンターレ「365日まちクラブ」の作り方

フロンターレの元選手で現強化部 伊藤宏樹だからこそできること、思うこと

原田大輔
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引退後もクラブに残り、2014年からは集客プロモーション部に移った 【写真:アフロスポーツ】

 これも“いつ”だったかは覚えていないが、言った“こと”は鮮明に覚えている。

 伊藤は庄子に言った。

「将来的には庄子さんのような仕事をしたいと考えています」

 川崎フロンターレで選手として13年間プレーした伊藤は、2013シーズンで現役を引退した。その後もクラブに残ると2014年、2015年は集客プロモーション部に所属し、クラブの事業面を内部から学んだ。
 庄子に伝えていたように、2016年からは強化部に異動すると、スカウト業務を担当する向島建の下につき、サッカー界の常識や通例、仕組みを勉強した。現在は強化部長の肩書きがあるように、強化部の一員として選手のサポートや選手の契約全般を担っている。

「選手としてもフロンターレでプレーしてきたので、選手に近い存在ではあると思っています。日々の活動にしても、選手と同じ目線に立って事業との調整、選手の仲介人との面談、時間が許せば他のチームの試合も視察に行っています」

 選手と距離が近いという利点を生かして、選手の相談に乗るだけでなく、逆に選手にアドバイスを求めることもあった。特に中村が現役中は、練習参加した選手への評価を聞き、参考にしたこともある。それだけではなく、すでに獲得が内定している高卒や大卒の選手が練習参加した機会には、中村に声をかけ、「話しかけてやってくれ、アドバイスしてやってくれ」ともお願いしていた。

「憲剛は若手にも的確なアドバイスと、心に響くような言葉を投げかけてくれますからね」川崎フロンターレに加入する多くの選手が、レジェンドである中村に憧れの思いを抱いていることはわかっている。それを見越して、彼から言葉をかけるように働きかける。そうすることで、選手のモチベーションは上がり、さらなる向上心につながっていく。

「憲剛が引退したあとも、同じように今いる選手たちにお願いしています。新たに加入する選手がどのようなプレースタイルかにもよりますが、今の所属選手ならばアキ(家長昭博)や(大島)僚太と一緒にプレーしたいと思って入ってくる選手も多い」

 家長や大島もまた、中村の背中を見てきた選手たちである。チームにおける効果も知っているだけに、自然と声をかけ、その場の空気を和やかにしてくれる。そうした小さな伝統も、優秀な人材を確保するためには欠かせず、チームにいい循環が生まれていると、伊藤は話してくれた。
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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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