[連載小説]アイム・ブルー(I’m BLUE) 第9話 W杯メンバー発表、ノイマンの決断

木崎f伸也

【(C)ツジトモ】

 15時、ついにW杯メンバー発表の時間がやってきた。

 会場となるホテルには、100人以上の記者が駆けつけている。ドイツ人のノイマン監督が登壇すると、舞台がフラッシュで真っ白になり、マイクが壊れんばかりのシャッター音が鳴り響いた。

 冨山和良会長の挨拶(あいさつ)が終わると、ノイマンは日本語で「オツカレサマデス」と切り出し、ドイツ語で話し始めた。

「私が親友であるオラルから代わりに日本代表を率いることを頼まれてから、まだ1カ月間しか経っていない。しかし、その間、私は日本サッカー連盟のアーカイブルームにこもり、過去の試合と練習の映像を徹底的に分析した。私よりも日本代表で過去に行われた練習について詳しい人間はいないだろう」

 ノイマンは眼鏡の位置を少し上げてから続けた。

「分析の結果、私はオラルが目指したサッカーを継続することを決めた。すなわち、前線から激しくボールを奪うプレッシングサッカーだ。3週間しかないと心配する声もあるだろう。しかし、私にはノウハウがある。それを実現するために、次の26人を選出した」

 ノイマンが司会者に合図を送ると、一気に26人が画面に示された。

【GK】
矢立弦(サーフ鳥栖、33歳)
クルーガー龍(ヘルテ・ベルリン、21歳)
吾妻新吉(名古屋アハト、28歳)

【センターバック】
角田雷太(SC東京、33歳)
望月秀喜(LAギャングス、25歳)
徳力新(川崎フルーレ、27歳)
福光太陽(東京ヴァッカル、21歳)

【サイドバック】
水島海(ホルフェンハイム、20歳)
深川章(シャルテ、24歳)
芦部颯太(ゴッツ大阪、30歳)
田井中岳(セルカ神戸、26歳)

【守備的MF】
秋山大(ASミラン、25歳)
高木陽介(リゴプール、29歳)
マルシオ・タバタ(SC東京、25歳)
グーチャンネジャード吾郎(柏ソラーレ、23歳)
加瀬弘(浦和キングス、27歳)
内野徹(鹿島アール、27歳)

【トップ下】
今関隆史(アヤッフス、27歳)
小高有芯(東京ヴァッカル、18歳)

【FW】
松森虎(マンチェスター・ユニティ、29歳)
上原丈一(ユベンテス、29歳)
佐々木俊(サーフ鳥栖、31歳)
加藤悠馬(バーセル、26歳)
杉陸久(ゴッツ大阪、23歳)
雛倉毅(横浜マークス、21歳)
山科涼(名古屋アハト、20歳)


 丈一は自分の名前を確認してひとまず安堵(あんど)しながらも、同時に、FWが7人も選ばれていることに違和感を抱いた。オラルのやり方を踏襲するなら、システムは4−3−1−2、つまり2トップである。そこになぜ7人も必要なのか?

 記者からの最初の質問も、まさにそこについてだった。ノイマンは相変わらずの鉄仮面で答えた。

「2つ理由がある。1つ目はパワフルなプレスを実現できるかは、FWの走力と体力にかかっているから。オラルのときにプレスがかからなかったのは、FWがハードワークをしなかったからだ。だから若手をたくさん選んだ。もう1つの理由は、何人かをコンバートしようと考えているからだ」

 オラルジャパンがうまくいかなかったのはFWのせいだって? 丈一は納得がいかず、テレビ画面に映るノイマンを睨むように凝視した。

 記者がすかさず「キャプテンの上原丈一すらも安泰ではないということですか?」と聞いた。

「もちろん。1人もメンバー入りを保証されている選手はいない。すべて白紙だ。ここから新たな競争が始まる」

 丈一は足は速いが、爆発的なスプリントを短時間に繰り返すのは苦手だ。もし新監督がFWに走力と体力を求めるのであれば、自分は理想的なタイプではない。新監督が既存の枠組みに、大ナタを振るうことはよくある。元レアル・マデリードの自分が外されるわけがないと思いつつも、「メンバー外になる?」という不安が頭をよぎった。

 会見が終わってから、携帯のバイブレーションが止まらない。通信アプリにメッセージが届き続けているのだろう。祝福か、それともあなたなら23人に残るわよという励ましか。丈一は携帯を手に取る気になれなかった。

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【もくじ】
第1章 崩壊――監督と選手の間で起こったこと
第2章 予兆――新監督がもたらした違和感
第3章 分離――チーム内のヒエラルキーがもたらしたもの
第4章 鳴動――チームが壊れるとき
第5章 結束――もう一度、青く
第6章 革新――すべてを、青く

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始

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