世界選手権2連覇の山口茜、重圧乗り越えて得た「特別」な勝利

平野貴也

日本のファンの前で世界一に輝いた山口(左から2人目)は、表彰式で感極まった様子だった 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 コールを受けて大きな拍手が起きると、表彰台の一番高い場所に上った女王は、控え目に両手を挙げて応えた。試合中にコートで擦った左手は、トロフィーを持つのに少し痛そうだった。28日に東京体育館で最終日を迎えたバドミントンの世界選手権、女子シングルスの山口茜(再春館製薬所)がこの種目では日本勢初となる2連覇を果たした。

 試合直後、自国開催で大きな期待がかかった大会を制した気持ちを聞かれた山口は「大会が始まる前は、それを考えてしまうと、自分にとってはプレッシャーや緊張につながってしまうのかなと思って、終わるまではあまり考えないようにしていたのですが、終わって、観客席見て、すごく嬉しかったですし、よかっ……良かったです、はい」と話し、最後は言葉を詰まらせた。そして、自分の言葉が英訳されるのを聞く間、涙をこらえた。日本のファンの前で世界一になる。それは、ファンが見たかった景色であり、山口が見せたかった光景だ。

粘り強く戦い、東京五輪の女王を撃破

 決勝戦は、ギリギリの戦いだった。相手は、東京五輪で金メダルの陳雨菲(チェン・ユーフェイ=中国)。第1ゲームは、空調の影響でコントロールが難しい方のコートを先に選んだ相手が苦戦。山口のペースで試合が進んだ。当然、第2ゲームは逆の立場に立たされた。21-12、10-21とゲームを取り合って迎えたファイナルゲームで、山口はシャトルと自分自身のコントロールに全力を注いだ。

 序盤は有利なコート。スピードを上げて11-6とリードを奪った。終盤は攻めてくる相手をどういなすか。相手に押し負けないようにと攻め急いだ第2ゲームの反省を生かし、粘り強く相手のミスを誘った。フットワークを生かした連続攻撃でカウンターを防ぎ、相手が鋭く落として来る球には、何度もダイビングレシーブで反応。高度な駆け引きと、連続性の高いプレーで粘って長いラリーに持ち込み、相手が一気にリズムに乗るのを防いだ。早く点を取ってしまいたい気持ち、点差を広げたい気持ちを抑えた試合運びが奏功し、最後は相手のドロップショットがネットにかかって21-14。6000人を超える観衆の前で世界一に輝いた。

「一球一球、自分の中でも、今までの中でも、特に集中してやれたなと思います。そんなに点数に固執はしていなかったというか、良いプレーを楽しくやろうとは思っていましたけど、それが一球一球に執着心を持ったプレーにつながったのかなと思います。相手が待っていないところがすごくよく見えていた部分があったので、もっと見えてきたり、そこに思ったように打てたりすると、より楽しくなったりするのかなという発見はありました」

 相手の意表を突く、ラリーを楽しむ。最もプレッシャーのかかる大勝負の中で、山口の真骨頂が発揮されていた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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