連載:夏の甲子園を沸かせたあの球児はいま

甲子園が熱狂したサヨナラ2ランスクイズ 金農旋風を支えた菊地彪吾の4年後の告白

上原伸一
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18年夏の甲子園では全6試合に7番・右翼手としてスタメン出場。金足農の快進撃の一翼を担った 【写真は共同】

 高校野球ファンにとってはまだ記憶に新しいだろう。吉田輝星(現・日本ハム)を擁する金足農業の快進撃に沸いた2018年夏。金足農は準々決勝の近江戦で、劇的なサヨナラ勝ちを飾った。そして、9回裏、無死満塁からの2ランスクイズで二塁から生還し、逆転勝利をもたらした菊地彪吾(ひゅうご)は、一躍「時の人」となった。あれから4年。二塁からの快走で熱狂を誘ったランナーは、今、どうしているのか。八戸学院大の4年生となった彼に話を聞いた。

甲子園でも負ける気は全くしなかった

 2018年8月18日――。金足農の菊地彪吾は、甲子園球場の記者会見場で大勢の記者に囲まれていた。近江との準々決勝、9回無死満塁からのスクイズで二塁から生還した菊地。「逆転サヨナラ2ランスクイズ」を成功させたランナーとして、一躍時の人となった。

 こんな状況に身を置いたことはない。「高校時代は人前で話すのが苦手でした」と明かす菊地は戸惑ったという。

「焦りましたね(苦笑)。人の多さもさることながら、あれほど、いろいろな人から矢継ぎ早に質問をされたことはなかったので」

 時計の針を1年前に戻す。17年夏の秋田大会決勝でノースアジア大明桜に敗れた金足農は、新チームが結成されると、「全国制覇」を目標に掲げた。秋は県8強で終わるも、翌春は県大会優勝。東北大会に出場した。

「自分たちは強い、とチームのみんなが思ってました。夏の県大会も、スコア的には僅差になった試合もありましたが、負ける気はしなかったですね」

 夏の決勝では前年に屈した明桜にリベンジ。11年ぶり6回目の甲子園出場を決めた。

 18年夏の甲子園は「第100回」の記念大会。入場者数が史上初の100万人超えを達成するほどの盛り上がりを見せた。だが、初めて「聖地」の土を踏んでも、観客で埋まったスタンドを見上げても、菊地には特に感慨はなかったという。

「甲子園に来られたな、というのはありましたが、それ以上のものは……。もともと『よし、やってやる』とか、気張るタイプではないので(笑)。ただ、甲子園は人生最後かもしれないので、いろいろなものを目に焼き付けておこう、とは思いましたね」

 金足農は1回戦が鹿児島実(この夏が3年ぶり19回目)、2回戦は大垣日大(この夏が2年連続5回目)と、甲子園常連校との対戦が続いた。

「名前負けしたり、伝統校のユニホームを見て萎縮するというのは、僕にも、他の選手にもなかったです。今思えば根拠のない自信だったかもしれませんが、全く負ける気はしなかったです」

 ただ、そんな金足農にとっても、3回戦の横浜は特別な存在だった。
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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。外資系スポーツメーカーなどを経て、2001年からフリーランスのライターになる。野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の『週刊ベースボール』、『大学野球』、『高校野球マガジン』などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞『4years.』、『NumberWeb』、『ヤフーニュース個人』などに寄稿している。

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