連載:高校野球の盟主・大阪桐蔭の強さの秘密

大阪桐蔭元主将・水本弦が知る後輩・森友哉「さりげない気遣いができる男です」

沢井史
 大阪桐蔭はこれまでに多くのプロ野球選手を輩出し、その中には球界を代表するスターになった選手も少なくない。そんな超名門校の出身者の中でも、歴代最高のバッターとの呼び声が高いのが現西武の森友哉だ。森の1学年上で、大阪桐蔭が初めて甲子園で春夏連覇を果たした2012年当時のキャプテンである水本弦氏も、この後輩を絶賛。同氏は先輩の廣畑実氏とともに出演したスポーツナビYouTube「大阪桐蔭 元主将対談」でも、森のすごさについて語っている。

長さも重さも違うバットを借りて3連続HR

大阪桐蔭が初めて春夏連覇を果たした12年には、2年生の森(写真右)が1番、主将の水本(写真左)が3番を打ち、ともに打線の中心として偉業達成の原動力に 【写真は共同】

 大阪桐蔭が2012年の春夏連覇時に主将だった水本弦は、高校時代に森友哉と2年間ともにプレーした。

 12年当時は森が1番、水本が3番を打っていたこともあり、攻撃時には言葉を交わすことが多かった。YouTubeの対談の中ではピッチャーの特徴を伝える際のエピソードが語られているが、普段の練習でも水本の目を奪うようなことがあったという。

「森はシートバッティングで毎打席、誰かのバットを使って打つんです。もちろん、使う前に『使わせてください』ってひと言言うんですけれど、ある時、3打席連続でホームランを打ったことがありました。しかも、3打席とも違うバット、3本とも長さが違うバットだったんですよ。森からすると遊び半分で、重さとか長さとか何も考えずに借りていたんだと思います。それでも打てるんですからすごいですよね」

 しかもバットはすべて木製。水本は日常から見てきた森のすべてを「別格でした」と評し、技術、野球センスはもちろんですが、普段から努力はしていたと思います」と言ってうなずく。

「速いピッチャーでも、すぐにしっかり球にアジャストできる。中学時代から打ち方が変わっていないのは、もう中学から(打撃フォームが)確立されていたからですよね。今もあの打ち方でガンガン打てる。そういうところはやっぱりすごいです。野球に関しては当時からものすごく真面目で、1年夏からメンバーに入る実力は十分ありました」

状況を読めるから生意気でも許せる

大阪桐蔭時代の森は、先輩から見ても別格だったという。打撃センスはもちろん、コミュニケーション能力も抜群だった 【写真は共同】

 テレビで見る限りの森の姿は、先輩にも敬語をほとんど使わず、良い言い方をすれば、どんな時も堂々とした立ち振る舞いが印象的だが、高校入学当時の森は全くそんな態度を見せたことはなかったという。

「ものすごく愛想が良かったですね。喋り方が柔らかくて、こっちが言ったことに対しても『ハイ』ってニコニコしながら返事をしていました。たしか、森が入学したばかりの6月の終わりに、熊野遠征(くまのベースボールフェスタ=三重県南部の熊野市で地元の高校と全国の実力校が集って練習試合をする交流戦)があって、森が1年生で1人だけ遠征メンバーに選ばれました。1年生は彼だけだったので、ものすごく気を遣って道具の出し入れとか1人で進んでやっていたのですが、大変そうだったので自分も一緒に手伝っているうちにいろんな話をするようになったんです」

 それから水本と森の距離はグッと近くなり、上級生と下級生という垣根はほとんどなくなった。「それからはもう、友達感覚みたいに接してきました」と水本は笑うが、そのことに全く嫌な気はしなかったという。

「コミュニケーション能力が高いんですよ。生意気なところはあるけれど、ここは真面目にいったほうがいいとか、ここはちょっとおちゃらけてもいいとか、状況を読める。そういうところは頭が良いんですよ。だから生意気でも許せるんです」

 水本は卒業後、亜細亜大に進んだ。1年後、森はドラフト1位で西武に入団し、ともに関東圏でプレーすることになった。時間が合えばたまに食事に行くこともあり、その際にも森の気遣いを感じた出来事があった。

「僕が大学4年の時だったと思います。森とオフが一緒になって、他の大阪桐蔭出身の何人かと食事に行ったんです。その後にカラオケに行くことになって、全員で移動しようとしたら、森に『ちょっとコンビニに寄るので、先に(カラオケ店に)行っててもらえますか』って言われて僕らは先に行ったんですけれど、後で来た森が、先輩が吸っているタバコを全員分買ってきたんです。しかも誰がどの銘柄を吸っているかを覚えていたみたいで、『合っているか分かりませんけれど』って言いながら渡していて。さりげなくそういう気遣いができるのが森なんですよ」

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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