「元競輪選手が育てたバドミントン日本代表」 西本拳太が4度目の世界選手権へ

平野貴也

選手としては遅咲きの西本拳太。8月22日に開幕する世界選手権でどんなプレーを見せるのか注目だ 【Getty Images】

 元競輪選手に育てられた、バドミントン日本代表選手がいる。8月22日から東京体育館で行われるバドミントンの世界選手権に出場する男子シングルスの西本拳太(ジェイテクト)だ。28歳になり、若手に追われる立場でもあるが、経験を積んで充実期を迎えている。今年(2022年)5月、男子団体戦トマスカップでは、4試合で起用されて全勝。日本の銅メダル獲得に貢献した。自身4度目となる世界選手権に向け「今までと違って、今回はノーシードですけど、逆に思い切って臨めます。誰が相手でも、今の実力を出し切りたい。久々に日本で皆さんの前でプレーできるのでワクワクしています」と意気込みを語った。

 この数年、西本は思い切った歩みを見せている。2020年の春、国内屈指の強豪であるトナミ運輸を退社し、約2年はフリーランスで活動(所属は岐阜県協会)。今春からは、強豪に挑む立場にある実業団のジェイテクトに加入。新たな環境に身を置いた。西本は進路の選び方について、次のように話した。

「みんなと同じことをしていたら、生き残れない。僕は、そう思います。最近、活動拠点を転々としていますけど、自分の責任で決断しています。競技の世界で生き残っていくための土台を、小・中学生時代に、作ってもらいました。独特な環境で学んできたことが、何かしらの力になっていると、今も思っています」

同じ体育館で社会人を教えていた「お師匠はん」との出会い

 西本は、小学生で全国大会3位。私立の強豪中学校から勧誘を受けたが、両親の考えもあり、地元の三重県伊勢市に残る選択をした。ここまでは珍しい話ではないが、西本を中学3年まで主に指導していたのは、バドミントンの競技経験がない元競輪選手だった。バドミントンファンには「お師匠はん」のTwitterアカウント(@Nn_OP)のちょっととぼけたコメントで知られる、山本真琴さんだ。

 今でも里帰りの度にコンタクトを取り、時にはトレーニングを依頼しているアスレティックトレーナーの山本さんとの出会いを、西本は「小学5年生の時、同じ体育館を使っていて、片づけずに帰ろうとしたら怒られたのが最初」と振り返った。このとき、山本さんは社会人選手の飯田有紀(現在の姓は、吉村)さんの指導にあたっていた。

 山本さんは、競技キャリアの終盤、先輩の勧めで整体に関心を持ち、古武術なども含めて幅広く身体の構造、仕組みを学び始めた。1990年に宇都宮で開催された自転車ロードレースの世界選手権に出場する日本代表選手のマッサージを担当。世界選手権を10連覇した「ミスター競輪」中野浩一さんらのトップアスリートと交流を持ち、学びを深められたことは、後々まで生きる貴重な経験になったという。91年に現役を引退してトレーナーに転身。故郷の伊勢市に戻ってからも、競技者の身体のメンテナンスを仕事にしていた。しかし、動き方そのものを直さなければ負傷を繰り返すため、トレーニングも見る必要があると考えるようになった。また「ジュニア世代の選手を指導し、動き方の改善を提案したり、トレーニングやケアの方法を教えたりすることで、世界で活躍する選手を育てたい」という目標も持つようになり、身体操作そのものが技術に直結する陸上競技の指導を開始した。

 その後も競技を問わず、トレーナーとして選手に接していたところ、肋軟骨を負傷した飯田さんが診てほしいと依頼してきたのが、バドミントンとの初めての接点だった。どんな動きをする競技なのか知る必要があるため、飯田さんの練習を見に行くようになり、動き方を改善するためのトレーニングも指導するようになった。そんな折、体育館の入り口で一人、仲間よりも早く来て腹筋を鍛えている少年が目に入った。それが、西本だった。山本さんは、飯田さんに「あの子も呼んで、一緒に練習してあげたら?」と声をかけた。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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