桃田賢斗、ぼうぜん自失の敗戦 五輪が特別な舞台だからこその空回り

平野貴也

試合終了と同時にコートにひざをついて固まった桃田。優勝候補筆頭がまさかの予選敗退となった 【Getty Images】

 桃田が打ったシャトルの先には、ことごとく、ラケットを担いだ相手が待っていた。低いロビングで相手の頭を越すショットを狙ったが、狙って飛びつく相手の強打を食らった。研究されたからか、球筋を読まれたからか。どちらでもないことを、ぼうぜん自失の世界王者は知っていた。

「自分に余裕がなくて、プレーが縮こまってしまっていたので、読まれていたというよりは、そこにしか、打てなかったっていう感じですかね……」

 東京五輪のバドミントン競技、男子シングルスは28日に予選ラウンドの最終日が行われた。3人1組の予選ラウンドで、首位の選手だけが決勝トーナメントに進む。世界ランク1位の桃田賢斗(NTT東日本)は第1シード。すでに初戦を勝ち、この試合を勝てばトーナメントは2回戦からで、ベスト8進出だった。しかし、試合は予想外の展開。立ち上がりから積極的に強打を放つ相手に捕まり、第1ゲームを15-21で落とすと、第2ゲームは中盤のリードを生かせず、終盤に再び捕まり、19-21。0-2のストレートで敗れた。世界ランク38位に敗れて予選ラウンドで敗退。信じられない結果だった。

「打たれる」じゃなく「打たせる」ことができず

男子シングルス1次リーグ 韓国選手と対戦する桃田賢斗=武蔵野の森総合スポーツプラザ 【共同】

 この数年90%以上の勝率を誇る中、数少ない敗戦は、ほとんど同じ展開だ。桃田は、コントロール力を生かしてネット前へ落とすヘアピンショット、コートのバックラインへのロビングと前後に揺さぶって、じっくりとラリーをしたい。しかし、相手はフルスロットルでヤマを張るように素早く飛びつき、とにかく強打をたたき込む。次第に桃田の選択肢が狭まり、防戦一方となる。この負けパターンへの対策は、いろいろと施してきた。19年の始めには、苦手とするスピードタイプの相手に対して、あえて相手の土俵で打ち合いに臨む試みがあった。前後の配球パターンを研究されていると感じ、対角線に配球する選択肢を持つ練習もした。もう一つ、守備が得意なタイプだが、自信を持って強打を打つ攻撃にも磨きをかけた。しかし、そのいくつもの引き出しが、ガタガタと震えて開かなかった。

「本当に相手の強打に気持ちが押されてしまって、少しでも早く後ろに追い込みたいっていう気持ちから(ロビングが)低くなってしまって、そこを相手に狙われているというのは分かっていたんですけど、途中で修正するというか、うーん、高さを変えて落ち着かせるっていう、勇気と実力がなかったかなと思います」(桃田)

 狙われた球は、素早くコートに返ってくるから、ラケットに当てるのが精いっぱいだった。高い球で時間を稼いで相手を確実にコート奥へ追いやれば、早いタイミングの返球はなくなる。高い球は強打されやすいが、それを構えて狙えば、桃田が本来得意とするカウンターレシーブを狙える。2018年、桃田が初めて世界選手権を優勝したときの決勝戦は、このプレーが敵地・中国でさく裂した。相手のエースショットをネット前に返し、相手の心を折ったのだ。しかし、その選択にも移れなかった。

「いつもラリーを切りに来る相手に対して焦ってしまったり、自分が乱打戦をやってペースを乱されたりという展開は避けようとイメージはしていたんですけど、分かっていたんですけど、そこで変えられない。自分の、自信を持って……『打たれる』じゃなくて『打たせる』ことができなかったのが、自分の弱さだと思います」(桃田)

 接戦の苦しい場面で、最後は自分との勝負に勝たなければ栄光はつかめない。ただ、最後が自分なら、最初は誰なのか。試合中、相手を見てみれば、確かに強打は鋭いが、桃田が攻めた場面では、一発のスマッシュで得点になっている場面があった。しかし、桃田は攻めることなく、つなぐばかりで、相手を脅かす牙がなかった。焦りだけが膨らみ、自滅した。「私はランキングが相手よりも低いので、緊張はありませんでした。負けて失うものはない? そうですね。桃田選手は守備がとてもうまいけど、私が攻撃的に出たので、守備に不安を覚えたのではないかと感じました」と話した世界ランク38位のホ・グァンヒ(韓国)の表情は、桃田に恐怖を感じていなかったことを物語っていた。

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著者プロフィール

平野貴也

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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