井上尚弥、さらなる高みへ ドラマ・イン・サイタマ2編

ドネア、熱望し続けたリベンジの舞台へ 井上戦での“やり残し”を終わらせるために

杉浦大介

待ち望んでいた井上尚弥との再戦に臨むノニト・ドネア 【Photo by Katelyn Mulcahy/Getty Images】

「ゲームプランを間違えてしまった。カウンターでダメージを与えていたから、その後もカウンターを狙い続けてしまったんです。あそこは自ら攻め、仕留めにいくべきでした。それこそが今戦で私が犯した最大のミステイク。その代償を敗戦という形で支払うことになりました」

 2019年11月8日、深夜12時45分を回った頃―――。戦いを終えたばかりのノニト・ドネア(フィリピン)が、東京都内のホテルで絞り出すように語った言葉が忘れられない。
 7日夜、さいたまスーパーアリーナで行われた井上尚弥(大橋)戦で、ドネアは0-3の判定負け。とは言っても、戦前は絶対不利と目された一戦で大健闘し、第9ラウンドには強烈な右カウンターをヒットして井上をプロキャリア初のピンチに追い込んでいた。勝ったのは井上だが、当時36歳だったドネアも同じように評価を高める結果になった。

 しかし・・・・・・顔面を腫らしてスイートルームのソファに座った試合後のドネアは、“敗者へのラブソング”を断固として拒否した。「人々が間違っていたと証明できたことへの満足感」を尋ねた筆者の問いも、あっさりと一蹴。それよりもゲームプランのミスと、詰め切れなかった第9ラウンドへの悔恨を繰り返し述べた。それと同時に終わったばかりの戦いを冷静に分析し、将来へのさらなる展望まで口にした。

「自分に何ができるかはわかっていたので、周囲の人たちが間違っていると示すことに興味はありませんでした。それよりも、大切なのは私にはまだ改善点があるということ。この試合からも多くを学びました。まだ“最高の自分”には到達していないし、そこに辿り着きたいと思っています」

「井上戦を組んでくれ」熱望し続けた舞台へ

 バンタム級史上に残る死闘から約2年半が過ぎ、ドネアはついにリベンジの戦いに臨もうとしている。6月7日、運命の糸に導かれた軽量級の2人のヒーローたちは、再びさいたまのリングに立つ。井上はWBAスーパー、IBF、ドネアはWBC王座を持ち、バンタム級の3団体統一戦というお膳立ても申し分ない。

 “ドラマ・イン・サイタマ”と称された戦いの後、ドネアは2戦2勝(2KO)。昨年5月29日にノルディーヌ・ウバーリ(フランス)を4ラウンドで倒してWBC王座を勝ち取ると、12月にはフィリピンの後輩レイマート・ガバリョにも4回KO勝ちを収めた。こうして再び世界戦線を駆け上がる過程で、39歳になったドネアのプライオリティは常に井上との再戦だった印象がある。

「ノニトの頭の中にはいつでも井上とのリマッチがありました。今のノニトはスーパーフライ級、バンタム級、スーパーバンタム級でも戦えるため、他にも様々な選択肢がありますが、実際には興味がありませんでした。彼が私に告げたのは、“井上戦を組んでくれ”ということだけだったのです」

 ドネアと硬い絆で結ばれたリチャード・シェイファー・プロモーターがそう証言する通り、ウバーリとのタイトル奪還戦も、ガバリョとのWBC指名戦も、すべては井上への雪辱戦に向けた準備に過ぎなかった。“6月7日、さいたま”は、キャリア終盤に差し掛かっているであろうドネアが心底から熱望し続けたリベンジの舞台なのだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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