ドネア、熱望し続けたリベンジの舞台へ 井上戦での“やり残し”を終わらせるために
待ち望んでいた井上尚弥との再戦に臨むノニト・ドネア 【Photo by Katelyn Mulcahy/Getty Images】
2019年11月8日、深夜12時45分を回った頃―――。戦いを終えたばかりのノニト・ドネア(フィリピン)が、東京都内のホテルで絞り出すように語った言葉が忘れられない。
しかし・・・・・・顔面を腫らしてスイートルームのソファに座った試合後のドネアは、“敗者へのラブソング”を断固として拒否した。「人々が間違っていたと証明できたことへの満足感」を尋ねた筆者の問いも、あっさりと一蹴。それよりもゲームプランのミスと、詰め切れなかった第9ラウンドへの悔恨を繰り返し述べた。それと同時に終わったばかりの戦いを冷静に分析し、将来へのさらなる展望まで口にした。
「自分に何ができるかはわかっていたので、周囲の人たちが間違っていると示すことに興味はありませんでした。それよりも、大切なのは私にはまだ改善点があるということ。この試合からも多くを学びました。まだ“最高の自分”には到達していないし、そこに辿り着きたいと思っています」
「井上戦を組んでくれ」熱望し続けた舞台へ
“ドラマ・イン・サイタマ”と称された戦いの後、ドネアは2戦2勝(2KO)。昨年5月29日にノルディーヌ・ウバーリ(フランス)を4ラウンドで倒してWBC王座を勝ち取ると、12月にはフィリピンの後輩レイマート・ガバリョにも4回KO勝ちを収めた。こうして再び世界戦線を駆け上がる過程で、39歳になったドネアのプライオリティは常に井上との再戦だった印象がある。
「ノニトの頭の中にはいつでも井上とのリマッチがありました。今のノニトはスーパーフライ級、バンタム級、スーパーバンタム級でも戦えるため、他にも様々な選択肢がありますが、実際には興味がありませんでした。彼が私に告げたのは、“井上戦を組んでくれ”ということだけだったのです」
ドネアと硬い絆で結ばれたリチャード・シェイファー・プロモーターがそう証言する通り、ウバーリとのタイトル奪還戦も、ガバリョとのWBC指名戦も、すべては井上への雪辱戦に向けた準備に過ぎなかった。“6月7日、さいたま”は、キャリア終盤に差し掛かっているであろうドネアが心底から熱望し続けたリベンジの舞台なのだ。