岡田武史×島田慎二 Bリーグ構造改革のカギは「岡田さんしかいない」
岡田「今治へ行って経営が大事だと考えた」
スポーツには地域活性化の力があるという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
岡田 僕はもともと、サッカーの現場だけで、経営はやってきませんでした。そもそも、今治へ行った最初の動機がサッカーでしたから。日本が世界で勝つためには、主体的にプレーできる自立した選手を生まないといけない。そのために『岡田メソッド』というものを作り、それを16歳までに落とし込もうと考えていたのです。ただ、実際に来てみると、中心部のデパートの跡地が更地になっていたり、商店街に人が歩いていなかったり。『これではサッカーで成功したとしても、将来的に試合を見に来る人がいなくなる』と。そこで経営が大事だと考え、様々な経営者にアドバイスを聞いて回りました。『ビジョン、理念、ミッションを大事にしろ』とみなさんがおっしゃって。僕は環境問題を40年位取り組んできたこともあり、『次世代のため、物の豊かさよりも心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する』という企業理念を作りました。当初は『それがなぜ、サッカークラブの理念だ?』と散々言われましたが。
ーー厳しい状況でしたね
岡田 ところが、FC今治に触れた人たちがSNSで『今治でこんな面白いことがあった』、『こんなおいしいものを食べた』と発信するから、少しずつ人が集まるようになって。最近は市外から毎年1500人ほどが流入していて、すでに人口減少は止まって。田舎暮らしについての本で、人口20万人以下の都市を対象にした『移住したい街』のランキングでも今治市は1位になりました。スポーツにはそういう力があるんですよ。そして、コロナ禍になり、スポーツの価値が見直され始め、企業理念の価値を認めてくれる人も増えてきた。もしも、『面白いサッカーをします』とうたっているだけだったら、ここまでの支援はなかっただろうし、スタジアムに集まる人もいなかったでしょうね。
島田 岡田さんには理事会だけではなくて、クラブ向けの勉強会にも登場していただいています。みなさんの反応は良く、勉強会の出席率も高くて。Bリーグへの影響はすごいです。
ーーサッカーの現場で起きた喜びを数多く経験された岡田さんでも、現在の状況に幸せを感じられているのですね?
岡田 代表の監督をしていたときも、多くの方が応援してくれましたけど、一方で、罵声は浴びせられたし、モノを投げられたことも(笑)。なにより、以前は、自分のチームの選手やスタッフと共感できる喜びでした。それが、今は、今治にいる老人から子供まで、みなさんがわれわれのことを生きがいや誇りのように感じてくれるということが、喜びです。
以前、うちの女子社員が満員のゴール裏席で泣いている年配の女性を見て、心配になって声をかけたら『岡田さんたちが今治へ来たときには、私も含めてみんなが否定的でした。でも、こんな姿が今治で見られるなんて! 嬉しくて泣いているんです』と言われたそうで。これに代わる喜びというのは……。W杯の出場権を初めて獲ったときも嬉しかったけど、その話を聞いたときには、また違う感慨がありました。
<後編は31日掲載>
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