日本カーリング界の歴史が動いた銀メダル 小野寺佳歩が熱戦続きの北京五輪を総括
決勝で英国に敗れた日本だが、最高成績である銀メダルを獲得して日本中を歓喜と感動の渦に巻き込んだ 【Photo by Lintao Zhang/Getty Images】
銀メダル獲得という歴代最高の成績を残しながらも、試合後には悔しさをにじませたロコ・ソラーレの面々。11日間という長丁場となった世界最高の舞台で、彼女たちはどんなプレーを見せ、どんな成長を遂げたのか。北京五輪代表決定戦で夢舞台への一枚の切符を争ったサード・小野寺佳歩さんに、決勝の試合と今大会のロコ・ソラーレの躍進について総括してもらった。
日本を上回った英国の「オーソドックスな戦い」
英国はミュアヘッドを中心に終始試合のペースを握っていた。平昌五輪の3位決定戦で敗れた日本に雪辱を果たした 【写真は共同】
決勝は残念でしたが、銀メダルは本当に素晴らしい結果です。ロコ・ソラーレのみんなには誇りに思ってほしいですが、選手もコメントしていたように今は悔しさのほうが強いでしょうね。負けたことよりも、自分たちのゲームを作れなかった悔しさが強いのだと思います。
――決勝は第1エンドに2失点を喫してしまい、序盤から苦しい展開を強いられました。
日本としては展開も、ショット自体もそこまで悪くなかったように見えました。100%のショットを決めても、英国がスキップのイブ・ミュアヘッド選手を中心に120%で返してくる。第1エンドだけではなく、ずっとそんな試合でしたね。英国の4選手のパフォーマンスは本当にすごかったです。
――英国は戦術的にはオーソドックスな攻め方をしてきたような印象でした。
そうですね。特に難しいことはしていませんし、シンプルなショットを淡々と決めてくる感じでしたね。日本にミスが出るとそこにしっかりつけ込む。やるべきことを1試合通してずっと高いレベルで遂行し続けました。カーリングでは難しいことをせずにシンプルな戦いで勝つことが、実は一番難しいのですが、そういう意味でも英国の強さが出た試合でした。
――英国の準決勝は、世界ランキング1位のスウェーデン相手にエキストラエンド(延長戦)までもつれた12-11という熱戦でした。英国の劇的な試合がロコ・ソラーレの心理面に与える影響はあったのでしょうか?
英国にとっては4失点スタートの、すさまじい点の取り合いとなったゲームでしたね。そうした試合内容がロコ・ソラーレのメンバーに影響があったかは分かりません。でもああいう接戦の試合を、しかも世界ランク1位のスウェーデン相手にやれてしまうと多少の怖さを覚えることはあると思います。対戦相手としては「4点とってもひっくり返されてしまうのではないか」とか「石をためる展開も得意なのではないか」とどうしても警戒につながる気はします。
――日本も我慢強く食い下がりました。チャンスがあったとしたらどのあたりでしたか?
ハーフタイム明けの第6エンドはチャンスでしたね。英国にチャンスの芽を摘まれながらも、粘り強く突破口を探し続け、藤沢五月選手の1投目で渾身のフリーズ(ハウス内にあるストーンの前にぴったりとくっつけるように投げるドローショット)。藤沢選手のデリバリー(ストーンを投げる動作)も良かったですし、スイープ(ブラシで氷上を掃いてストーンの速度や方向を調整すること)し続けた吉田夕梨花選手とそれを近くでジャッジした鈴木夕湖選手、適切なコールをした吉田知那美選手、全員で運んだロコ・ソラーレらしいチームショットでした。連戦で疲労が溜まってくる11試合目にあれができるのは本当に強いチームだと思います。
藤沢選手の2投目が曲がらないのは意外でしたが、「あとちょっと曲がれば」とか「もう少し奥まで入れば」という微差が勝敗を分けることが多い、惜しい試合でした。
大会を通してチームを支えたフロントエンドの2人
リードの吉田夕梨花(左)とセカンドの鈴木(右)は、大会を通して安定していた。特に吉田夕梨花は「世界一」と言っていいほど出色の出来だった 【Photo by Lintao Zhang/Getty Images】
本当に超ハイレベルな10チームがそろっていて、どの試合も何が起こってもおかしくなかったように思えます。ラウンドロビン(総当たりの予選)序盤であれだけ日本を苦しめたデンマーク、ROC(ロシアオリンピック委員会)が下位に沈んだことを考えても、間違いなく過去最高のレベルでした。
――そのROCとの試合は見事な逆転勝ちを収めながらも、小野寺選手とも親交の深い鈴木選手が涙を見せるシーンもありました。
夕湖はああ見えてすごく責任感が強いので、自分が思うようなプレーができてなくて「チームに迷惑をかけた」と感じてしまったのかもしれません。ショットもミスというより、ストーンのクセや曲がり幅とのミスマッチが多く、悪くなかったと私は思っています。それよりもスイープ面では、彼女でなければ運べないストーンが本当にたくさんあった。カッコ良かったです。胸を張って帰ってきてほしいですね。
――フロントエンド(リードとセカンド)では大会を通して夕梨花選手が安定していました。
今大会で「世界一のリードになった」と言っても過言ではないと思います。どんな点差でもアイスの状況でも、最初から最後まで淡々と仕事をし続ける。ああいう職人気質のリードは本当にチームの助けになりますし、若い世代に質の高いプレーを随所で見せてくれたおかげで「夕梨花選手みたいになりたい」と思う子も増えると思います。リードの水準を上げてくれたので、今後日本にいいリードがどんどん増えると期待しています。