頭脳明晰・研究熱心だった指導者ラミレス 「奇抜な采配」との批判は的外れだ
YouTubeの『スポーツナビ野球チャンネル』で好評を博している、真中満氏(前ヤクルト監督)とアレックス・ラミレス氏(前DeNA監督)のスペシャル対談。その連動コラムとして、スポーツ新聞社時代にDeNA、巨人、ヤクルトなどの担当記者を務めたライターの平尾類氏に、2人の素顔を明かしていただく。前回の「真中編」に続いて、今回お届けするのは現役時代に2000安打を達成した強打者で、DeNAの監督としても手腕を発揮したラミレス氏のストーリーだ。あの“陽気なラミちゃん”とは、また違った一面が見えてくる。
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「八番・投手」にも合理性はあった
DeNAで2016年から5年間監督を務めて、3度のAクラス。17年はリーグ3位で臨んだクライマックスシリーズ(CS)を勝ち抜き、19年ぶりの日本シリーズ進出も果たしている。ラミレスさんが就任前の10年間はすべてBクラスで、しかもうち7度は最下位だったことを思えば、その手腕は高く評価されてしかるべきだろう。
ただ一方で、「あの充実した戦力であれば優勝できた」、「奇抜な采配が当たったとは言えない」といった指摘も、何度となく耳にした。
采配は革新的に映った。八番打者に投手を置き、二番には18、19年の本塁打王・ソト、17年の首位打者・宮崎敏郎など強打者を配し、犠打をしないことで知られた。そして先発投手の状態が悪いと見るや早々に見切りをつけ、救援陣をつぎ込む。申告敬遠を多用する監督でもあった。
筆者は巨人、DeNAの番記者として、現役時代のラミレスさんを取材していたが、DeNAの監督時代は他球団の担当だった。あれは16年、私がヤクルトの担当記者だった時だ。自身の采配に賛否両論の声が上がっていることが、本人の耳に入ったのだろう。神宮の室内練習場にいたラミレスさんに挨拶をするや、「ちょっといい?」と私を練習場の奥の方へと連れて行き、目指す野球の方向性を熱く語ってくれた。
「私は機動力を軽視しているわけではない。足を使った野球は相手バッテリーに重圧をかけられるし、得点が入る確率も高い。だから実際にスモールベースボールを試みたこともある。しかし、うまくいかなかった。筒香嘉智(現パイレーツ)、宮崎敏郎、ロペス、ソトと長打力のある選手がそろっていた一方で、足のある選手が少なかった。二塁に犠打で送っても、ワンヒットで走者が本塁に還ってこられない。チーム事情を考えても、攻撃的な野球のほうが合うと判断したんだ。『八番・投手』にも合理性はある。俊足ではない八番の野手が出塁しても、九番の投手の犠打でダブルプレーになるリスクが高い。それなら最初から八番に投手、九番に野手を置いて、トップバッターに良い流れでつないだほうが得点の可能性は広がる。野球のトレンドは常に変わっていくんだ」
試合後は自宅や宿舎でデータ解析
その本質は、頭脳明晰で研究熱心。そうでなければ、100年以上の長い歴史を持つ日本プロ野球で、外国人選手として史上初となる通算2000安打など達成できるはずもない。異国の地で成し遂げた前人未到の快挙は、誰も想像できなかった文字通りの偉業。当時、DeNAの担当記者だった筆者は、その緻密な野球理論に驚かされた。
「日本の野球は、サインを出す捕手が主導権を握っている。投手に気持ち良く投げさせる傾向が強いメジャーとの大きな違いだ。だから、捕手の配球にどのような傾向があるのか、ビデオを見て分析してきた。中日の谷繁(元信)さん、阪神の矢野(燿大)さん、広島の石原(慶幸)さん……。中日の山本昌さんと対戦する時も、捕手が谷繁さんと小田(幸平)さんでは配球がまったく違うし、走者の有無や試合展開によっても攻め方が変わってくる。その変化に対応しなければ、日本でコンスタントに良い数字は残せない。野球は頭脳戦だよ」
監督・ラミレスさんの采配は奇をてらっているように見えるが、それは固定観念に囚われていないだけで、その戦術には確固たる根拠があった。試合後に自宅や遠征先の宿舎に戻ると、分厚い資料を広げ、翌日に対戦する相手球団のデータを徹底的に調べる。試合中もスコアラーやコーチからデータを受け取り、臨機応変に対応する。申告敬遠が多かったのも、「八番・投手」も思いつきではない。勝つために最善を尽くした上での策だった。