女子アジア杯直前対談 中村憲剛×岩清水梓 なでしこもヒーローインタビューで爪痕を

吉田治良

昨年引退した中村憲剛さん(左)はもちろん、まだ現役で第一線を走り続ける岩清水梓選手も、分かりやすい解説には定評がある。2人の対談は盛りだくさんの内容となった 【スポーツナビ】

 サッカーの男子日本代表と女子のなでしこジャパンが、年明け早々にいずれもワールドカップ(W杯)出場権を懸けた大勝負に挑む。カタールW杯のアジア最終予選を戦う森保ジャパンは、1月27日に中国(第7戦)、2月1日にサウジアラビア(第8戦)をホームに迎え、一方のなでしこジャパンも、1月20日からインドで開幕するW杯予選を兼ねた女子アジアカップ(開催国オーストラリアを除く上位5カ国が来年のW杯出場権を獲得)に臨むのだ。そこで今回は、両コンペティションの中継を行う『DAZN』で解説を担当予定の中村憲剛さんと日テレ・東京ヴェルディベレーザの岩清水梓選手に、男女それぞれの見どころを語り合ってもらった。まずは、女子アジアカップ3連覇と9大会連続のW杯出場を目指す、新生なでしこの戦いを展望する。

現役だからこそ解説で話せることもある

岩清水梓(以下、岩清水) 憲剛さん、先日はうちの息子と写真を撮っていただいて、ありがとうございました。

中村憲剛(以下、中村) いえいえ。天皇杯決勝のときですよね。息子さん可愛かったなぁ。

岩清水 はい。憲剛さんがテレビ解説で、私が試合前のマッチボール設置セレモニーをやらせていただいて。

中村 でも、こうやってがっつり話をする機会はあんまりなかったですよね。ただ、岩清水さんのサッカー解説はよく聞いていますよ。

──「解説者」としてのお互いの印象はどうですか?

中村 岩清水さんの解説は、やっぱりディフェンダー目線というか、全体を俯瞰しながら話されてるなっていうのは感じますね。選手の心理状態もうまく伝えてくれるし、すごく聞きやすいです。

岩清水 ありがとうございます。私が憲剛さんの解説で印象的だったのは、たしか引退されたばかりの頃に担当された海外の試合。「(川崎)フロンターレの場合は──」っていう具体的な例をたくさん挙げてくれて、とても分かりやすくて勉強になったことを覚えています。現役時代と今では、解説の難しさも違うんですか?

中村 回をこなすごとに悩みが深くなっています(苦笑)。正直、現役時代はゲストですから、選手目線で自由にしゃべることが求められていましたし、それで良かったんですが、引退して解説者という立場になったときに、当たり前ですがこれまでと同じじゃいけないなと。解説者として意識しながら、どこまで掘り下げていいのかを計算して話さないと、次に来た良いシーンをちゃんと伝えられなくなってしまうんです。僕は話し出すと、どうしても膨大な文字数になるので、見ているみなさん疲れちゃいますよね(笑)。そこのバランスは今一番の悩みの種です。

岩清水 ハハハ。でも、それが憲剛さんの良さじゃないですか?

中村 そう言ってくれる方もいますけど、もっと試合に集中したいっていう人もいると思うんですよね。奥が深いですね、解説は。

──岩清水さんはいかがですか?

岩清水 私はまだ現役でやらせていただいているので、対戦相手として、あるいはチームメートとして、選手の情報を伝えやすい部分はあります。でもこれが現役を離れると、あらためて情報収集が必要になるし、ちゃんと勉強していないとサッカーの進化にもついていけなくなるんでしょうね。

中村 今は現役だからこそしゃべれることもあるはずで、それが強みだと思うし、ファン・サポーターのみなさんもそこを聞きたいわけですからね。現役時代は自分が日々やっていることが、サッカーの知識として勝手にアップデートされていく。その日常が引退すると全くなくなるわけだから、今まで以上に試合を見て勉強しなきゃいけません。

岩清水 私も出産で長期間チームを離れたときに、サッカーの話がまったく入ってこなくなったんです。引退したらこんな感じなのかなって、そこで気付いたところはありましたね。

──憲剛さんが解説する女子サッカーもぜひ見てみたいです。

中村 皇后杯の準決勝は2試合とも見ましたし、最近は女子サッカーをよくチェックするようになりました。自分なら、女子サッカーをどんなふうに語るか──。そこには“男子目線”も必要なのかなと思う反面、男子サッカーとの比較には意味がないのかなとも思うので、もし解説をやらせていただけたら、目の前で見たもの、起きたことに対する印象を、いつも通りそのまま伝えられたらと思っています。

岩清水 女子選手からしたら、男子でトップを極めた人の目に、自分たちのプレーはどう映るんだろうって、みんなすごく興味があると思います。なので、ストレートに評価してもらえたらうれしいですね。まあ、なでしこジャパンを憲剛さんが解説するって言ったら、みんな間違いなく見ますよ(笑)。

注目は3年ぶりに復帰した長野風花

岩清水さんが注目選手として挙げたのが、3年ぶりの復帰となる長野風花。ボランチとしてどのようにゲームを動かしていくのか、楽しみだ 【Getty Images】

──女子アジアカップについて話す前に、まずは岩清水さん、東京五輪のなでしこジャパンの戦いぶりについて、率直なご感想をいただけますか?

岩清水 自国開催でメダル獲得が望まれた大会だったので、やはりベスト8敗退という結果は残念でしたね。

──多くのなでしこOGの方から、かなり厳しい意見も出ていました。

岩清水 うーん、みんな頑張ってはいたんですけど……(苦笑)。たしかに、世界の女子サッカーの進化を考えれば、難しい部分はあったと思います。自分たちの時代には「(欧米諸国の)フィジカル対(日本の)技術」という明確な構図があって、フィジカルでは劣っていても、テクニックとアジリティ(敏しょう性)で相手を上回ることができました。それが今では、技術面でも欧米勢が日本のレベルに近づいてきましたからね。

中村 OGの方たちの歯痒そ、もどかしさがいろんな記事から伝わってきました。みなさんオブラートに包もうとしているけど、かなり漏れちゃってる……みたいな(笑)。

岩清水 チリとのグループリーグ最終戦(1-0で勝利)は、決勝トーナメント進出のためにも点を取らなきゃいけないのに、ディフェンスラインが少し深くないかな?って不思議でしたね。失点したくない気持ちも分かるけど、相手の1トップに対してもう少しラインを高く設定できるんじゃないかなって。ただ、そうした戦術的な部分には口出しできないし、伝えたい思いはあったけど、言葉にするのが難しかったですね。あとは「熱量」かな。自分たちの時代は、気持ちで戦っていたところがすごく大きくて、そこがあっての技術でした。そういうチームなら、みなさんの応援にも力が入るかなと感じます。

中村 僕もテレビで見ながら応援していましたが、敗れたこともありますが、見ていてもやもやしたものが残りました。(1-3で敗れた)準々決勝のスウェーデン戦を見ても明らかでしたが、岩清水さんのおっしゃるように、フィジカルのある身体の大きな選手が、立ち位置や技術も標準装備していました。これまで、そこの部分は日本の方が武器としていましたが、世界もそこのレベルがかなり上がってきている印象です。そういった意味で、東京五輪は日本がこの先、どう世界と伍していくのかという課題を突き付けられた大会だったと思います。

岩清水 ノリさん(佐々木則夫・元なでしこジャパン監督)の時代は、メンバーが結構固定されていて、だから阿吽(あうん)の呼吸がピッチの至る所にありました。ですが東京五輪のチームは、いろんな選手を試した分、なでしこらしいコンビネーションが生まれにくかったように感じましたね。

中村 2人での絡みが多かった印象です。良いシーンができるときにはやっぱり3人目が絡んでいるから、岩清水さんがおっしゃったように、新戦力を求め多くの選手を試した分、ベースの部分を阿吽のレベルまでに構築しきれないまま本番に突入してしまったのかもしれません。これは男子も同じですが、コロナの影響で活動の回数が増やせなかったり、いろいろなことがスムーズにこなせないなど、準備不足もあったでしょう。集まってすぐに試合、終わったらすぐに解散ですから。

岩清水 しかも合宿中は部屋の行き来も制限されるし、昔みたいにチームメートと映像を見ながら話し込むこともできない。

中村 短い時間でしか集まれない日本代表にとって、そういう時間は実はかなり大事なんですよ。食事中とか、リラックスルームにいるときとかに映像見ながらコミュニケーションを取ったりして相互理解を深めていくので。東京五輪後に、なでしこは監督が高倉(麻子)さんから池田(太)さんに代わりましたが、岩清水さんはどんな変化を期待していますか?

岩清水 アジアカップの招集メンバーには、これまで選ばれてなかった選手も入ってますし、これからどういうサッカーをやるのかなっていう純粋な楽しみはあります。池田さんは情熱的な方だと聞きますし、その熱が選手にも伝わるといいなと思っています。

中村 選手では誰に注目していますか?

岩清水 軸は熊谷(紗希)選手、岩渕(真奈)選手で変わらないと思いますが、個人的には3年ぶりに選ばれた長野風花選手ですね。アンダー世代で池田監督と一緒に戦ってきたメンバーの一人で、目指すサッカーをよく知っている。ボランチとして、グラウンドの中心にいる彼女が、どのようにチームを動かしていくのか。高倉体制ではずっと選外だった悔しさももちろんあるでしょうし、楽しみです。これは全員に言えることですが、新たにスタートを切った代表チームの中心になれるかどうか、この大会は自分をアピールする絶好のチャンスでもあるんです。

中村 僕は、長谷川(唯)選手が好きですね。決して14番をつけているからというわけじゃないですよ(笑)、彼女はアイデアが豊富で、ポジショニングも的確。あとは、プレーメーカーの猶本(光)選手にも注目しています。なでしこジャパンは監督によってメンバーが大きく代わるので、そこはすごいなといつも思います。誰が監督であれ、選手は結果を残し続けなきゃいけないけれど、アジアカップでどんなサッカーを見せてくれるのか、僕もワクワクしています。

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著者プロフィール

吉田治良

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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