女子アジア杯直前対談 中村憲剛×岩清水梓 なでしこもヒーローインタビューで爪痕を

吉田治良

アジアカップの対戦順は正直「ラッキー」

18年のU-20女子W杯でチームを優勝に導いた実績もある池田太監督。なでしこジャパンの新監督として、今回の女子アジアカップはいわば所信表明の場となる 【Getty Images】

──こうした大きな大会では、ベテランが果たす役割も大きいと思います。岩清水さんもベテランとしてなでしこを引っ張ってきた時期が長かったですが、当時はどういった心構えでプレーしていましたか?

岩清水 大切なのは、小さなことには動じないこと。経験豊富なベテランは、どっしり構えていていい。熊谷選手や岩渕選手には、若いチームメートに安心感を与えてほしいですね。

中村 それにしても、熊谷選手(31歳)や岩渕選手(28歳)がもうベテラン扱いなんですね。

岩清水 いや、その上がいないんですよ。正直な話、もうちょっとベテランを入れてもいいし、選ばれるべき選手はいると思います。

中村 アンダーカテゴリーをやられてた監督なので、自分のサッカーを熟知している選手を多く呼ぶのは自然の流れなのだと思いますが、だからこそ、幾多の激戦をくぐり抜けてきたベテランの価値は、より大きくなると思います。自分は30歳を過ぎても代表に選ばれていましたけど、みんなの前を走るというよりは、前を走る長谷部(誠)とか(川島)永嗣が届かないところをフォローする役割を勝手に担っていたつもりでした。ただ当たり前ですけど、プレーヤーとして試合に出たい気持ちはいつも持っていましたし、いざ試合に出るときには爪痕を残してやろうと、30歳を過ぎてもギラギラしていました。2010年の南アフリカW杯でも肌身で感じましたが、重要な大会ではベテランの存在が必要になるときが必ず来るんですよね。

──今回の女子アジアカップも、来年の女子W杯の予選を兼ねた重要な大会です。

岩清水 女子アジアカップの認知度は決して高くないと思いますが、それでもなでしこジャパンは2連覇中の大会で、W杯の出場権獲得はもちろん、世界で上位を目指す以上、アジアではトップを獲り続けなきゃいけない。ただ、アジアの戦いって本当に難しいんですよね。W杯のような世界大会では、お互いのスタイルをぶつけ合うクリーンな試合が多いんですが、アジアの場合は長所の消し合いというか、「いかに点を取られないか」にフォーカスされているような気がします。

中村 そこは男子にも共通していますね。グループリーグの相手は対戦順にミャンマー、ベトナム、韓国。この組み分けについては?

岩清水 順番的にはラッキーかなと。たぶん、韓国との第3戦は1位通過を懸けた戦いになると思いますが、そこまでに大会慣れができるし、ちょっとずつコンディションを上げていける。私はちょうど韓国戦の解説に入らせてもらう予定なので、2試合を踏まえた話をできればと思っていました。ただ、どんな大会でも初戦の入り方って難しいんですよね。ミャンマーにはエリア内に全員が引いて守られる可能性も考えられます。なかなかシュートが入らず、焦りが生まれるかもしれませんが、そこを耐えてゴールをこじ開けてほしいです。

中村 初戦が大事なのはどの大会も同じですね。今大会は結果がすべてのところもありますが、同時に内容も求められると思います。「自分たちはこうやって戦うんだ」という指針を、池田監督が示せるかどうか。岩清水さんは、どんなサッカーに期待していますか?

岩清水 選手同士のつながりとか、支え合うプレーが見られたら、結果以上にうれしいかもしれない。それと私たちの時代は、相手にどんなに守られても、結局セットプレーで点を取ってアジアの戦いを勝ち抜いてきました。宮間(あや)選手というプレースキックのスペシャリストがいましたからね。今の日本代表は平均身長が比較的高いし、猶本選手みたいに良いキッカーもいますから、セットプレーをうまく使いながら戦ってほしいですね。

中村 ある意味、今大会は池田監督の所信表明の場でもあると思うんです。W杯の出場権とアジアカップの3連覇も懸かっているなかで、スタイルを構築していくのは簡単なミッションではないと思いますが、個人的には日本が主導権を握ってアジアを制覇する姿を見てみたいですね。

──岩清水さんはアジアカップと相性が良かったですよね? 14年大会は準決勝と決勝の2試合連続ゴールで優勝に貢献しました。

岩清水 アジアではセットプレーから結構ゴールを取りましたね。特に14年大会の中国との準決勝で、延長後半のアディショナルタイムに決めたCKからの決勝ゴールは、まだ動画を消せずに持っているくらい、キャリアの中でも印象に残っています。

ヒーローインタビューは定型文禁止に!?

憲剛さんいわく、試合後のヒーローインタビューは「個性を一番出せる場所」。女子アジアカップでは、ピッチ外でのパフォーマンスからも目が離せない 【Getty Images】

──ところで、日本初の女子プロサッカーリーグ『WEリーグ』の創設は、代表チームになんらかの好影響をもたらしていますか?

岩清水 (昨年9月の開幕で)まだ試合数をこなしていませんが、プロとして毎日24時間サッカーのことを考えて過ごすという経験は、今までなかった。高い意識とモチベーションを持って、みんながピッチに立っているはずで、そうしたプロ集団の中から選ばれた代表メンバーは、誰よりも結果を出さなきゃいけない。その座を虎視眈々と狙っている選手はたくさんいますからね。当然、周りの見方も変わってくるし、期待値も大きくなると思います。

中村 WEリーグが始まったことで、僕も日常的に女子サッカーを目にするようになりました。いろんな人の目に触れる機会が相対的に増えているので、たぶん選手たちの意識も高まっていると思います。今回のアジアカップは、『DAZN』で中継されることで注目度が上がる分、「日本代表ならこのくらいやって当然」という目でも見られるはずです。でも、そうした環境や視線がまた選手を伸ばすんです。プロ契約をして、どんなふうに意識が変わったのか。今大会を通してそういった部分も見られたらいいなと。

岩清水 私も解説をしながら、選手のパーソナルな部分を積極的に伝えていきたいですね。「この選手、ちょっと面白そうだから今度WEリーグで見てみよう」って、そうやってスタジアムに足を運んでもらえるきっかけを作りたい。

──憲剛さんは男子代表のオーストラリア戦(アジア最終予選第4戦/2-1で勝利)で、試合直後のフラッシュインタビューを担当されてましたよね。大一番で貴重な先制ゴールを挙げた田中碧選手へのインタビューが、かなり話題になりました。

中村 あれは奇跡ですね。お互い持ってました(笑)。

岩清水 フラッシュインタビューって、内容は自分で考えるんですか?

中村 あのときは、試合終了間際に「憲剛さんは田中選手でお願いします」と言われて……、「えっ、うそ、マジで?」ってなったんです。しかも、そのときはまだスコアが1-1で、「このまま引き分けたら雰囲気的にも厳しいな」って思っていたら、土壇場で決勝点が生まれたので、これはもう何を聞いてもいいなとかなり気楽になりました(笑)。一応、DAZNさんが質問事項を用意してくれていたんですけど、そこは自分なりに噛み砕きながら、どう聞こうか考えました。つい10カ月前まではフロンターレで一緒にやっていた選手だし、たぶん碧もヒーローインタビューをする場所で僕が目の前に立っていたので、びっくりしたと思うんです。彼、めっちゃニヤついてましたから。

岩清水 ハハハハハ。

──現役時代、試合後にこういうことは聞いてほしくないなっていう質問はありましたか?

中村 ないですよ。なんでも答えるのがプロだと思っていたので。それにヒーローインタビューは、個性を一番出せる場所だと思っていて、Jリーガーも、WEリーガーも、代表選手も、僕はヒーローインタビューこそ頭を働かせて、何か爪痕を残してほしいといつも思っているんです。

岩清水 ヒーローインタビュー、大事なんですね。

中村 大事、大事。考えてみてください、これだけ多くの選手たちが出場する中で試合直後に一人の選手にスポットを当てて話を聞ける機会って、サッカーの試合ではそこしかないんですよ。だから、みんなもっとインパクトを残してほしい。面白いことを言わなくてもいいんです、見ている方たちの心に残るようなことを自分の言葉で伝えてほしいんです。

岩清水 試合直後に?

中村 そう、試合直後だからいいんですよ。「ありがとうございます、次も頑張ります!」だけのインタビューは、もう聞きたくない(笑)。

岩清水 定型文はいらない?

中村 それは誰にでも言えますから。もう定型文禁止にしてほしいくらい(苦笑)。結局、インパクトのある言葉は記憶に残るじゃないですか。みんな言葉は持っているんだから、そのまま出してくれればいいのに、ちょっと寄せるんですよね。

岩清水 インタビューとは──、みたいなところに?

中村 そう。基本的に質問もそこまで逸脱したものは来ないので、インタビューを受ける側がそこでいかに興味を引くようなコメントを残せるか。それこそ僕は、女子アジアカップのヒーローインタビューも期待してますよ。インパクトを与えれば、きっとファンの人たちも、「この選手は面白いな、WEリーグで見てみよう」ってなると思う。どこにセールスポイントが埋まっているかっていうと、そういうところなんですよね。プロとして、そのあたりのセルフマネジメントもやってほしいな。

岩清水 なるほど。ちなみにコメントは、試合前から仕込んでおくんですか?

中村 いや、仕込んだことはないですよ(苦笑)。終わった直後なので、そのときに思ったことを飾らずにストレートに言えばいいんです。その試合のヒーローだからそこに呼ばれているんです。その意味を忘れないでほしいと思います。なので、ポイントは飾らずに等身大の自分を出すこと。選手たちにはピッチ外のパフォーマンスにも注目してます‼
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ。東京都小平市出身。都立久留米高(現・東京都立東久留米総合高)、中央大を経て2003年に川崎フロンターレ加入。中心選手として17年、18年、20年のJ1リーグ優勝、19年のルヴァンカップ制覇など数々のタイトル獲得に貢献。Jリーグベストイレブンには8回選出。16年には歴代最年長の36歳で年間最優秀選手賞に輝く。06年10月にデビューの日本代表では、通算68試合・6得点。10年の南アフリカW杯にも出場した。20年限りで現役引退。現在は古巣・川崎でFrontale Relations Organizer(FRO)を務めるとともに、解説者としても活躍中だ。

岩清水梓(いわしみず・あずさ)
1986年10月14日生まれ。岩手県滝沢市出身。中学1年で現在の日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織であるメニーナに入団。2003年には正式にベレーザに昇格し、以来ベレーザ一筋を貫き、数々のタイトルを獲得した。なでしこジャパンでのデビューは06年2月18日のロシア戦。統率力に優れ、セットプレーからの得点力も備えた不動のセンターバックとして、11年のドイツ女子W杯優勝、12年のロンドン五輪銀メダルなどに貢献した。日本代表歴は122試合・11得点。20年3月に男児を出産後も、現役女性アスリートとして第一線で活躍する。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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