創設30周年記念 鹿島アントラーズ 未来へのキセキ

アントラーズは子どものような存在 ジーコTDが語る過去・現在・未来【未来へのキセキ-EPISODE 31】

池田博一

選手としてクラブの草創期を支え、精神や哲学を植えつけてきたジーコは、テクニカルディレクターに立場を変え、今までもこれからも鹿島アントラーズとともに歩き続けていく 【(C)KASHIMA ANTLERS】

 鹿島アントラーズが創設した30年前には、選手としてプレーし、勝利だけでなく、精神や哲学と、クラブが歩んでいくうえで指針となる“すべて”をもたらしてくれた。ジーコの存在がなければ、間違いなく今日のアントラーズはなかったであろう。あれから30年——テクニカルディレクター(TD)としてアントラーズに携わるジーコが、その歩みを振り返りつつ、クラブが進む未来について語る。

関わるすべての人が慢心することなく役割を全うする

――鹿島アントラーズがクラブ創設30年を迎えました。30年の年月は子どもが親になり、孫を授かる人もいるほどの時間にも相当します。ジーコTDにとって、アントラーズはどんな存在でしょうか。

 私にとってのアントラーズは、子どものような存在です。赤ちゃんになるまでを手伝って、ハイハイするところから始まり、一生懸命に教育して育ち、今や一丁前の大人になりました。赤ん坊はいつか大人になって、自分の家族を持って生活をしていくものです。1991年、私は住友金属工業蹴球団(アントラーズの前身)に加入して、このプロジェクトの構成から始まり、今後どうしていくのか、そこから成長していくクラブを教育しながら見守ってきました。今ではしっかりとした歴史と哲学を持ち、次の道を歩もうとしています。私自身、赤ちゃんから始まる子どもの成長、一人の人間の成長を見るのと変わらない、思いのある存在です。

 当時の鹿島がどういう街で、日本のサッカー、そして日本サッカーリーグの2部にいたクラブがどんな状況だったのか。私の周りで支えてくれている当時から今もクラブに在籍するスタッフはよく分かっているところかと思いますが、正直、あれは経験した人にしか分からないもので、本当に何もないゼロからのスタートでした。このプロジェクトを引き受けたとき、周りの人たちから「今さらそんなことをやる必要があるのか」「プロがないところに新たに作るのは不可能だ」など、いろいろな批判を受けました。ただ、私はこのプロジェクトに対して“信じてやり遂げよう”というつもりで来日したわけです。何もないところから始まった当時を思い、今を見ているだけで本当に感動します。自分の子どもと同じで、時には叱らないといけないものですが、その回数は非常に少なかった30年だったなと思います。

――ジーコTDにとって、この30年はどのような歩みでしたか。

 いい意味で、みんなの期待を裏切ることができたなと思います。クラブ創設当時は非常に小さな街のクラブでした。それがプロサッカーリーグに参戦することになり、今や日本を代表するクラブとなり、アントラーズは日本サッカー界の競争の中心にまでになりました。その影響もあって、日本サッカー界の発展がスピーディーに実現したとも思っています。正直なところ私自身、サッカーの世界に驚きはないと思っています。それにもかかわらず、アントラーズはこの30年で日本サッカー界の歴史において、驚きを与える成果を残し、培ってきたのではないかと思っています。

――結果としてこの30年で、アントラーズがリーグナンバーワンのタイトル数となっています。その要因はどこにあると考えますか。

 第一に考えないといけないのは、選手だけでなくアントラーズに関わるすべての人が、慢心することなくそれぞれの役割をまっとうしなければいけないということです。アントラーズの選手としてプレーできました、スタッフとして仕事ができました、ということで慢心していては何も始まらないし、何も実現することはできません。やはり自分のキャリアによって、アントラーズというチームに何ができるのか。それが一番考えるべきことであり、重要なことです。

 そのためにも、選手やスタッフはクラブの歴史を知ることが必要です。どのようにクラブができて、どのような歴史があるのか。それをきちんと理解しないといけません。そこでいくつのタイトルを獲ったのか、その意識がそれぞれにあるのか。それを私はクラブに関わる全員に伝えたい。今の若い世代にもそういった認識を持ってもらいたい。ビッグクラブに在籍しただけでは、何かを残したことになりません。そのあとに、しっかりと次の人生につなげるためにタイトルを獲り、結果を出していく。そこを意識しなければいけないと思っています。それがなければ、これまでのアントラーズの歴史はなかったでしょう。

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