創設30周年記念 鹿島アントラーズ 未来へのキセキ

これからもアントラーズファミリーとともに 小泉文明が語る、鹿島の未来【未来へのキセキ-EPISODE 30】

原田大輔

今年10月1日、鹿島アントラーズの小泉文明代表取締役社長は、クラブ創設50年となる2041年を見据えた「VISON KA41」をアップデートする会見に臨んだ 【(C)KASHIMA ANTLERS】

 株式会社メルカリが鹿島アントラーズの株式61.6%を取得し、経営に参画することになったのは2019年7月末だった。あれから約2年、鹿島アントラーズの小泉文明代表取締役社長に、コロナ禍におけるクラブの取り組みや次々と打ち出している施策について話を聞いた。また、今年10月1日に行われた「VISION KA41」のアップデートにて発表された新スタジアム構想についても触れた。そこにはアントラーズがホームタウン、ファン・サポーターとともに歩んでいきたいという決意があった。

地域のハブとして存在感を示していく

――アントラーズの代表取締役社長に就任してから約2年が経ちました。振り返ると、ここまではどのような日々でしたか?

 この2年のうち約1年半がコロナ禍でしたので、想定していたことと想定していなかったことの両面がありました。ただ、総じて言えば、クラブの経営に参画してからの2年間で、できたことは多かったと思っています。

 クラブ経営をしていく上で、フットボールで勝利することと、それを支えていくためにビジネスを強化していくことの両輪があると考えています。フットボールについては、まだ結果を出せていないので、ファン・サポーターの皆さまには申し訳ない思いでいます。一方、ビジネス面ではコロナ禍でチケットやグッズのセールスが厳しい状況にありながらも、ギフティングやクラウドファンディングといったデジタル施策をいくつか実施するなど、実現できた部分も多分にありました。

 また、クラブ内に目を向けると、この2年でみんながアウトプットするスピードとクオリティーが上がってきているように感じています。そのため、コロナ禍が落ち着いた後には、明るい未来があることを確信してもいます。

――社長に就任してから多くの期間がコロナ禍だったというお話がありました。この期間もアントラーズはさまざまな施策でクラブとファン・サポーターをつないできました。

 そこにあったのは、人々がフットボールから離れてしまうのではないかという危機感でした。アントラーズは2011年に起きた東日本大震災の影響で、しばらくスタジアムが使用できなくなる経験をしました。そこから、もとの観客動員数を取り戻すまでには4〜5年の月日がかかりました。それと同様、コロナ禍が終息した後も、何もしなければ観客数が戻るまでには4〜5年かかるのではないかと推測しますし、今回の方が期間も長く深刻です。そうした危機意識もあり、インターネットサービスを駆使すれば、コロナ禍においてもいろいろなことをファン・サポーターに届けられるのではないかということで、さまざまな施策に取り組んできました。新しいものを生み続け、届け続けていく。その根底には、皆さんの生活の中からフットボールをなくしたくないという思いがありました。

――その中で特に印象に残っている施策はありますか?

 今まさに実施している、アカデミー専用フィールドの建設費を募っている「ふるさと納税型クラウドファンディング」がひとつです。昨年もクラウドファンディングを実施しましたが、前回はクラブを助けてくださいというニュアンスに近いものがありました。どちらかと言えば、守りのクラウドファンディングとでも表現すればいいでしょうか。

 でも、今年のクラウドファンディングは、レジェンドである3人(柳沢敦、小笠原満男、中田浩二)が主体となり、どちらかと言うと、クラブにとっては攻めのクラウドファンディングになっています。クラブとしてもアカデミー専用フィールドを建設するという目標に、ファン・サポーターの方々を巻き込んでいく。今回は、僕らのやりたいことに共感してもらう形ですので、コロナ禍1年目のクラウドファンディングよりも進化していると感じています。そうしたチャレンジする姿勢は今までも大事にしてきましたし、これからも大事にしていきたいと考えています。

――アントラーズの取り組みを見ていると、地域や環境しかり、欠点や弱点すら強みに変える発想が常にあるように映ります。

 そこはアントラーズがここまで築いてきた歴史があると感じています。もともと、この鹿行地域(アントラーズのホームタウンである鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市の5市は、旧鹿嶋郡の「鹿」と旧行方郡の「行」から「鹿行:ろっこう」と呼ばれている)は人口が少なく、その土地にクラブをつくろうとしたときから、(鈴木)満さん(フットボールダイレクター)、(鈴木)秀樹さん(マーケティングダイレクター)を中心に創意工夫し、チャレンジしてきたから今があります。アントラーズの原点は、そうしたチャレンジングスピリットにあります。そこは経営権が変わったとしても、変わらずに持ち続けていきたいアイデンティティーであり、フィロソフィーです。

 確かに鹿行地域の人口は少ないですが、その分、土地や場所はある。大都市のクラブが街づくりに入っていくのは難しいかもしれませんが、一方の私たちは人口が少ないからこそ行政との関わりも強く、街づくりにも参加しやすいという強みがあります。パートナー企業であるキラメックス株式会社を鹿嶋市と結びつけ、同社が運営する小中高生向けの実践的プログラミング教室を実現したことも、行政との距離感が近いからこそできたことのひとつです。すなわち、ハブとしての存在感を示していくことが、アントラーズが地域に求められていること。その根底には、行政やパートナー企業とも連携しチャレンジし合っていく関係性があると思っています。

みんなでつくっていく新スタジアムにしたい

――10年前、クラブが創設20周年を迎えたときに「VISION KA41」なる未来のビジョンが発表されました。これは「創設50周年となる2041年をどういった姿で迎えるべきか」ということについて提示している経営ビジョンだとお聞きしています。メルカリが経営に参画する際に、「VISION KA41」が定義されていたことについてはどう評価されていますか?

 率直に素晴らしいなと思いました。非上場企業が自分たちのビジョンを定義していくこと自体が珍しいことなので。実際、クラブとして経営の柱や軸があったことで、私たちもすんなりとクラブ経営に入っていくことができました。共感できる部分も多く、私自身も株式譲渡のタイミングでブレることがありませんでした。この指針をバージョンアップさせていけば良かったからです。仮に「VISION KA41」がなく、新たにつくりましょうということになっていれば、継続性のようなものは失われてしまっていたかもしれません。そうなれば、おそらくファン・サポーターのフラストレーションや違和感につながっていたようにも思います。しかし、「VISON KA41」が定義されていたことで連続性や継続性を維持しつつ、それぞれのテーマにテクノロジーを加えるなど、私たちなりの強みを掛け算し、バリューアップさせてきたのがこの2年間だと実感しています。

――クラブ創設30周年を迎えた今年10月1日、その「VISION KA41」をアップデートする会見を行いました。

 アップデートした背景としては、発表当初から10年という時間が経ち、環境が大きく変わったということがあります。それに対してクラブが取り組んでいく姿勢を外部にも今一度、示したいという思いがありました。「VISION KA41」には「Football」「Community」「Brand」「Stadium」「Dream」という5つの柱がありますが、「Community」にしても10年前は鹿行地域が中心でしたが、今ではオンラインやソーシャルメディアが普及し、地域のコミュニティーを、インターネットを通じて全国にどうつなげていくかの二重構造化しています。クラブ経営においては利害関係者も多いので、これからクラブがどう進んでいこうとしているかを明確に提示することで、周りの人たちにも一緒にやっていきましょうという思いを伝えられたらという考えもあります。

――今、挙げていただいた5つの柱について、アップデートした方向性について教えてください。

 まず、「Football」については、世界のフットボールは日々進化しています。僕らもそこに取り残されていくわけにはいきません。常にリーグで勝ち、アジアで勝つ続けるために、ポイントになってくるのがアカデミーだと考えています。ユースをはじめとするアンダーカテゴリーを充実させていくことで、次から次へとクラブの中心となる選手を輩出できる環境を整えていく。そのためにはフットボールにも一貫性がなければいけません。育成組織からアントラーズのフィロソフィーを学んだ選手たちがトップで活躍できるように、「アントラーズDNA」をつくり、OBを活用して下から上へとつなげていく仕組みを強化していきます。それが今年のクラウドファンディングでのアカデミー専用フィールドの新設にもつながっています。

「Community」においては、地域とパートナーシップを結んでいる企業の技術をつなげ、地域の課題解決など、連携を強化していければと考えています。ここは「Brand」も共通するところです。「Stadium」については、試合開催日だけでなく365日、スタジアムを活用してもらえる環境を整えていくことは重点施策として今後も取り組んでいきます。そして「Dream」。ここは普遍で、フットボールを通じて、皆さんにより多くの夢を届けていきたいと思っています。

――会見でも話題になったのが『THE DREAM BOX構想』。新スタジアム建設の話題でした。

 ここは順番を正しく説明したいのですが、まずは現在使用しているカシマサッカースタジアムの老朽化が進んでいるという現状があります。塩害に加え、東日本大震災の影響を受けており、安全性という観点でリスクが高い状態にあります。それに伴うメンテナンス費もかさむため、安全性を維持していくためにも、新スタジアムを建設したいという考えがあります。

 スタジアム建設においては、多くのクラブが、ある程度、構想が固まった段階で発表する傾向にありますが、僕らは今回、本当にまっさらというか、何も決まっていない状態で発表しました。そこには、この議論に皆さんを巻き込んでいきたいという思いがあります。クラブや行政が主導ではなく、ファン・サポーターも含めたさまざまな人たちでつくるスタジアムにしていきたい。スタジアムを新たに建設すれば30〜40年は使用していく可能性がありますよね。そうしたとき、30〜40年後のこの地域の未来のことまでをみんなで考え、議論し、スタジアムを含めて考えていく流れをつくりたい。僕らもサッカースタジアムだけをつくりたいというのではなく、スタジアムを中心にいろいろな機能、施設を追加して、スタジアム周辺を豊かにしていくような街づくりをしていきたいと思っています。そうした議論を皆さんとしていくためにも、何も決まっていないこのタイミングで発表したという意図があります。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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