創設30周年記念 鹿島アントラーズ 未来へのキセキ

監督の系譜に見える強い鹿島を作る方法論【未来へのキセキ-EPISODE 19】

二宮寿朗

すり合わせることで生まれるファミリー意識

鹿島の強化部はオズワルド・オリヴェイラ監督にも任せっきりにすることなく、時にはアイデアを提案することで前人未踏の3連覇を達成した 【(c)J.LEAGUE】

 伝統は一つの流れを意味する「統」を次世代に「伝える」ことで成立する。

 つまり行き当たりばったりではそうならない。目先のことだけで動いてしまえば受け継がれない。信念と覚悟なくして伝統というものは生まれない。

 チーム強化において重要な柱の一つが監督選考である。鹿島アントラーズは徹底してここにこだわってきた。
 ジーコイズムを継承するために初代の宮本征勝監督以降は一貫してブラジル人監督を招へいし、近年は石井正忠、大岩剛のように彼らのもとで学んできた日本人コーチが昇格するようになった。現在の相馬直樹監督もザーゴ監督の契約解除を受けてコーチから昇格した形だが、日本人指揮官の場合はクラブOBから選ばれるのが基本だ。

 ブラジル人監督についてはジーコや鹿島のブラジル人OBから情報を集めて、サッカー観のみならず性格までリサーチする。日本になじめるか、アントラーズのスタイルを尊重できるかなども基準となる。のちにリーグ3連覇を果たしたオズワルド・オリヴェイラ監督を招く際も、OBであるジョルジーニョから「アントラーズに合う」という一言を得たことが決め手になったと聞く。

 ブラジル人監督を招へいした場合、ヘッドコーチ格には日本人を置くことを決まりとした。チーム強化のトップに立つ鈴木満フットボールダイレクター(FD)がそこを曲げることは一切なかった。10年以上前、鈴木FDがこう明かしてくれたことがある。

「ブラジル人監督の中には、コーチをセットにして連れてきたがる人がいる。もちろんある程度は認めるが、補佐役のポジションには日本人のコーチが絶対に必要。一つは日本人指導者を育てたいから。もう一つはコミュニケーションの問題。例えば選手同士が話をしているだけで、外国人監督というのは彼らが自分の悪口を言っているんじゃないかと疑心暗鬼になるもの。日本人コーチが補佐役で入ることによって監督の言葉をフォローしたり、逆に選手からの要望を監督に伝えたりすることもできる」

 任せっきり、預けっきりにはしない。

 アントラーズの方針を理解してもらい、相互の信頼関係を生み出していく。だからこそジーコが大事にする「ファミリー意識」が強くなる。

 鈴木FDはブラジル人監督が就任すると、決まってこう告げるそうだ。

「僕はあなたがここで成功するために一生懸命サポートする。日本人の社会性や国民性、そしてJリーグのやり方は自分に知識があるので、あなたが成功するためにアドバイスさせていただく。足を引っ張るようなことは決してしない」

 日々のトレーニングは強化部(現プロチーム)の誰かが必ず見るようにする。定期的に監督とミーティングをする。ブラジル人監督であろうが、日本人監督であろうがここは変わらない。試合前のミーティングにも顔を出す。見る、知る、聞く、話す。ここをおろそかにはしない。

 しかしながらサポートといっても監督の要望をすべて聞き入れるという意味ではない。逆にこちらからの要望を飲んでもらうこともある。オリヴェイラ監督時代にはレギュラーを固定する傾向が強くなったため、指揮官とのミーティングでローテーションを提案している。強化部を信頼しているからこそ、オリヴェイラ監督も応じたわけだ。

 要は、すり合わせ。

 ここを丁寧にやることによって進むべき方向を見失わないで済む。フロントと監督のすり合わせとかみ合わせが、「強いアントラーズ」を作ってきたことは間違いない。

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著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

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