鹿島らしいという言葉の根底にあるもの【未来へのキセキ-EPISODE 12】
小笠原満男が追及し、大切にしていたこと
2001年チャンピオンシップ第2戦、Jリーグ王者を手繰り寄せた小笠原満男のFKによるVゴール。「鹿島らしさ」を象徴する1シーンだ 【(c)J.LEAGUE】
今でこそ連動するパスワークが「フロンターレらしい」、汗をいとわない献身的なプレーが「湘南っぽい」と言われるなど、多くの人がイメージを共有できるクラブが出てきた。これらは間違いなくJリーグを盛り上げるために必要な要素だが、「鹿島らしい」というフレーズは、私が鹿島アントラーズの担当記者になった2001年にはすでに一般的だった。
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もともとは泥臭さを示す言葉だった。創設からクラブに関わるスタッフは、「JSL(日本サッカーリーグ)2部からJリーグ加盟を果たしたのはいいけれど、お荷物クラブになると周りからは言われていた。当時は格上のクラブとの対戦ばかりで、私たちは食らいついていくしかなかった。負けん気あふれるプレー、不細工かもしれないけどなりふり構わないプレーをしたときに、よく『うちっぽいね』と身内で言っていた。今とはだいぶ違う使い方でしたね」と振り返る。
今では、特にタイトルが懸かった試合で発揮する勝負強さ、ミスで自滅しない試合運びを見たときによく使われる。確かに指して口にするプレーは、当時とは異なるかもしれない。ただ、相手に食らいついていくことで「勝利への執着心」が生まれ、「したたかな戦い方」へと成熟していったのだとしたら、根っこの部分は変わっていない。表面だけを切り取れば「強い」になるが、その強さを生み出すベースは「食らいつく」である。
敗戦後、小笠原が言うことはほぼ同じだった。
「ビビって、怖がって(パスコースに)顔を出さない選手がいる。隠れちゃう。そんなんじゃ勝てないよ」
「球際で戦わないと。向かっていっていない」
「ミスすることを怖がっている」
自分が取材で聞いた限り、戦術面や仲間のミスを敗因に挙げたことは一度もなく、チームや選手のメンタル、姿勢を追及した。恐れるのはミスではなく、敗戦。時に相手が壁を作っている最中にFKを決めたり、弱者がさらすような隙を決して見逃すことはなかった。人がうらやむほど多くのタイトルを獲得しても、最後まで「立ち向かう」ことを大切にしていた。