創設30周年記念 鹿島アントラーズ 未来へのキセキ

監督の系譜に見える強い鹿島を作る方法論【未来へのキセキ-EPISODE 19】

二宮寿朗

紅白戦であるプレーを解禁した真意に強さはある

ブラジル人監督のもとで学んだ日本人コーチたちが哲学を踏襲してチームを率いる。16年にJ1で優勝した石井正忠監督もその一人 【(c)J.LEAGUE】

 伝統は、いつしか立ち返る場所ともなる。それがあるのとないのでは大きく異なってくる。タイトルを積み上げてきた歴史もある。

 2015年7月にトニーニョ・セレーゾ監督の契約解除を受けてコーチから昇格した石井監督は鹿島らしさを取り戻すべく紅白戦のスライディングを解禁したことがあった。

 その意味についてこう語ってくれたことがある。

「実際に試合中に起こるシチュエーションなので、それを自然に出そうよ、と。鹿島は元々、紅白戦が一番エキサイトするので、その雰囲気に戻したいというのは強くありました。

 また、戦術練習の際、中でプレーしている選手に対して外で見ている選手もドンドン声を掛けていく。やらなきゃいけないことが分かっているから、声が出せるんです。遠慮なく、気兼ねなくっていうのが鹿島らしい雰囲気なんじゃないですかね」

 クラブOBの石井は02年からフィジカルコーチ、総合コーチを務め、セレーゾ、オリヴェイラ、ジョルジーニョ各監督のやり方を間近で見てきている。それゆえに試すべき方法論も見つかりやすい。監督歴のなかった石井ではあるものの、15年にルヴァンカップを制して翌年にはリーグ優勝を果たし、FIFAクラブワールドカップでは日本勢で初めて決勝に進出した。石井からバトンを受けてコーチから昇格した大岩監督も18年にAFCチャンピオンズリーグを制している。

 監督に“外れ”がないことがチーム強化を成功させ、これだけのタイトル数を積み上げるまでになった。

 これからも優秀なブラジル人監督をリサーチしつつ、クラブOBの日本人指導者を育てていく方向性に変わりはない。土台はすでに出来上がっているのだから、あとはタイミングを見ながら循環させていくだけである。

 鹿島ユースを柳沢敦監督が率い、曽ケ端準がトップチームのGKアシスタントコーチを務め、小笠原満男はアカデミーのテクニカルアドバイザーとして活躍している。クラブで実績を残した選手たちが指導者としてセカンドキャリアを歩んでいる。

 鈴木FDは18年7月にジーコを再びテクニカルディレクターに招へいした。

「(ジーコイズムが)崩れているわけではない。表現するなら何となくガシッとしていなくて、タガが緩んでいる感じ。伝統を継承していくことを考えれば、今こそ呼ぶタイミングだと思った」

 フンドシを締め直す意味も含めて多忙なジーコを説得して、要職に復帰してもらったのだ。「献身・尊重・誠実」=「ESPIRITO(ポルトガル語で精神)」のジーコイズムとクラブの伝統を揺るぎないものにするために。

 将来の鹿島アントラーズを見据えて今を見て、今を動く。

 監督選考にしてもそれは同じ。

 “外れ”なきは偶然に非ず。

 信念と覚悟、すり合わせとかみ合わせ、調査と育成。監督を“当たり”にする必然が、アントラーズの強みである。

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著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

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