Bリーグ連覇を狙う富樫勇樹が語る 「昨年と同じようなプレーではダメ」
ジェッツらしいギラギラした気持ちを忘れず連覇を目指す
常にポジティブな気持ちを忘れない富樫勇樹はコーチ上でも笑顔を忘れない 【(c)CHIBAJETS FUNABASHI】
世界との壁がまだあるという点については認める。その一方で富樫は、長く立てていなかった世界の舞台を経験することで少しずつ差を埋めている、歩みを進めているのだ、とやはり独特のポジティブさで語る。
富樫自身は故障でワールドカップには出られなかったものの、アメリカはともかくトルコやチェコ共和国とは戦えていたという見方を自著でしている。
彼は、今回のオリンピックでは初戦のスペイン戦が最も「全員で戦えた」試合だったとした。日本は第1クォーターで最大9点差をつけられながらも盛り返し、次のクォーターには同点に戻している。そこから前半終了までに20点差をつけられてしまったが、それでも富樫は、序盤の劣勢を一時的にでも同点に持っていたところを「ポジティブに捉えていい」試合ぶりだったと話した。
「第2クォーターの残り5分から20点差を開かれた…そこが差と言われればそうなんでしょうけど、それでも試合を通してワールドカップに優勝したスペインに対してそれだけの試合ができたというのは、僕はすごくポジティブに捉えていいんじゃないかと思ってます」
オリンピックに関しては、八村塁や渡邊雄太というNBA選手がいるため期待が大きくなるのもわかるが、1976年のモントリオール大会以来、45年も出ていないチームにいきなり多くを求めるのはどうなのか――。富樫はそういう見方だ。
「45年ぶりということは、僕ら(の多く)は日本代表がオリンピックに出ている姿を見たことがないんですよ。そんなチームが出ているのに、なんで周りにそこまで言われてるのかなあと、そういう感じは僕にはありました」
オリンピックという一大イベントが終わり、通常よりも随分と少ないオフを過ごした富樫だが「しっかり休めた」と疲れた様子はない。
ただ他方で、彼も28歳となった。身体と経験のバランスを考えれば、おそらくバスケットボール選手として絶頂期にあると言える。ではここから先、一般的には衰えが始まるとされる30歳という節目が見えてきている中、自身の未来についてどのように考えているかと聞かれると、富樫は意外な言葉で返してきた。
「僕、別に来年引退することになっても何の悔いもないので」
そして、言葉足らずだったと思ったのか、こう続けた。
「別に引退する気があるわけじゃないんです。コンディションが落ちたりケガがあったり、もしそういう何か自分の中で続けられないなっていう決断をするとなっても、何の悔いもないなと思っているんです」
引退、という言葉を聞いてやや不意をつかれるが、どうやら深い他意はないようだ。
「折茂(武彦)さんやマイケル・パーカー(群馬クレインサンダーズ)などそういう人たちを見ていて、言い方は悪く聞こえてしまうかもしれませんが『適当』なんですよ(笑)。考えすぎないというか、そっちのほうが僕の性格的に合っていると思いますし、何歳になったからこうしないといけない、という風にはあまり考えたくないと思ってます」
目下、集中するのは至極当たり前ながら、来たる2021-22シーズンだ。王座に座るジェッツは言うまでもなく、連覇を狙いにいく。
セバスチャン・サイズやシャノン・ショーター、田口成浩らが抜け、ジョン・ムーニー、クリストファー・スミスという新たな外国籍選手が加わってきたということもあるが「昨シーズンと同じようなプレイをしていてはだめ」だと気を引き締める。
「初めて優勝して、連覇が狙える今シーズン。でもチャレンジ精神じゃないですけど、千葉ジェッツのギラギラした感じがなくなってしまっては良くないと思います」
同時に、長いシーズンに良いときも悪いときもある中で「5月にピークを持ってくることがすべて」とも言う。優勝したからといって勝ち方がわかったわけではないとしながらも、そこについては昨季の終盤から勢いに乗った経験が生きてくるかもしれない。
個人的には司令塔として波を少なくするという強い思いがある一方で、持ち味である得点やアシストといった数字に現れるところでも上を目指す。
ただ、待ち受ける戦いはこれまで以上に厳しいものになるであろうという覚悟だ。2018−19シーズンにジェッツはB1最高の52勝8敗という成績を挙げた。富樫は、そこまでの勝率は望めないだろうと冷静だ。
例えば金丸晃輔(シーホース三河から島根スサノオマジックへ移籍)や有能な外国籍選手らが幾人かこのオフの間に新天地へ移ったが、リーグ全体で戦力が分散、均衡し始めているからだ。
「日本代表にいるような選手たちが、それもどちらかというと今までさほど勝ってきたわけじゃないチームに移籍しているじゃないですか。広島(ドラゴンフライズ)だったり島根だったり」
そして、そんな状況が楽しみだ、と再び無邪気な笑顔を向けてきた。
「すごく面白くなりそうだと思いますし、僕も選手ですけど楽しみです(笑)」