有森裕子が女子マラソン復権の鍵を展望 一山8位入賞も世界と「順応力」に差

千田靖呂

女子マラソンを8位で完走した一山。日本人ではアテネ五輪以来、17年ぶりの入賞を果たした 【写真は共同】

 東京五輪・陸上女子マラソンは7日に札幌市内で行われ、一山麻緒(ワコール)が8位に入り、日本人選手ではアテネ五輪以来17年ぶりとなる入賞を果たした。鈴木亜由子(日本郵政グループ)は19位、前田穂南(天満屋)は33位と健闘を見せるも、上位争いに食い込むことはできなかった。

 マラソン会場となったこの日の札幌市の気候は、スタート時の午前6時で気温26度、湿度80%。夏のレース特有の厳しい暑さの中で行われたこともあり、レース序盤からスローペースの展開となる。自己記録で日本人選手を上回るケニア勢が徐々にペースを上げ、最終的にはペレス・ジェプチルチルが金メダル、ブリジット・コスゲイが銀メダルとワンツーフィニッシュを果たした。

 真夏のスローペースのレース展開だけに、上位進出の可能性もあった日本勢。最後まで先頭集団に残ることはできなかったのはなぜなのか。バルセロナ五輪、アトランタ五輪の2大会連続でメダルを獲得し、現在は日本陸上競技連盟理事副会長である有森裕子さんに、その要因を聞いた。また、パリ五輪へ向けた日本女子マラソン界のこれからについても語ってもらった。

位置取りが良ければ狙えた「日本勢の上位進出」

序盤からのスローペースの展開にうまく順応できなかった鈴木と前田(右) 【写真は共同】

 日本女子では一山選手がアテネ五輪以来17年ぶりの入賞を果たしましたが、全体的に見ると残念な結果でした。一山選手の入賞は素晴らしいことですが、持ちタイムや能力を踏まえるとメダルの可能性もあっただけに、今回の結果に満足することはできないですね。

 序盤から5キロ18分台とかなり遅いレース展開でしたが、夏に行われるマラソンはハイペースで推移することはありません。札幌はほぼフラットなコースでしたが、「暑くなるとペースは上がらないだろう」と予想されていました。ハイペースの展開なら、集団の後ろから構える作戦も理解できます。前田選手は、元々コンディションの問題があってトライしたという別の理由から、自分のペースでレース序盤から集団を引っ張りました。しかし、これだけ遅いペースにもかかわらず、先頭集団についていけなかったのは残念でした。

 夏のレースにおいては、後方から巻き返すのは難しいと思います。鈴木選手は、ペース変更に対応するために戦略的に後方の位置取りをしていたようですが、慎重になりすぎてリズムに乗り切れませんでした。まだフルマラソンが3回目ということもあり、硬さもありましたね。結局、先頭集団に追いつくことはできませんでしたので、もったいない展開になってしまいました。鈴木選手は夏のレース経験が少ないため、オーバーペースも想定しながら後方で様子を見ていましたが、位置取りは先頭集団の少し後ろを走るべきでしたね。

 私が走った1996年のアトランタ五輪では、ファツマ・ロバ選手(エチオピア)が序盤から飛ばし、そこに誰もついていきませんでした。ありえないペースだったため、ロバが途中でペースを落とすと思っていたからです。

 選手それぞれが、想定しているレース展開にそれほど差はありません。夏のレースで先頭から1分離れたら、追いつくために足のエネルギーを使い、さらに過剰に汗をかいて体力を消耗します。無駄に動かず、全体のペースに応じた仕掛けができる位置取りをすることが、私の中では「マラソンで勝つための勝負の鉄則」ですね。

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著者プロフィール

1977年生まれ、大阪府出身。マンティー・チダというペンネームでも活動中。サラリーマンをしながら、2012年にバスケットボールのラジオ番組を始めたことがきっかけでスポーツの取材を開始する。2015年よりスポーツジャーナリストとして、バスケットボール、卓球、ラグビー、大学スポーツを中心にライターやラジオDJ、ネットTVのキャスターとして活動。「OLYMPIC CHANNEL」「ねとらぼスポーツ」などのWEB媒体や「B.LEAGUEパーフェクト選手名鑑」(洋泉社MOOK)「千葉ジェッツぴあ」(ぴあ MOOK)などの雑誌にも寄稿する。

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