有森裕子が女子マラソン復権の鍵を展望 一山8位入賞も世界と「順応力」に差
前日の開始時刻変更は選手ファーストではまったくない
前日の開始時刻変更の知らせを聞いた一山(奥)は、その後は眠りにつくことができなかったという 【写真は共同】
一山選手に関しては、先頭集団における位置取りは間違っていませんでした。でもいつもより走りのパワフルさを感じませんでしたね。集団から離れても巻き返すパワーがあるはずなのに、コンディション面で問題があったのかなと思います。開始時刻が当初から1時間早くなって一山選手が眠れなかったというコメントもありますが、アトランタ五輪の時、私は2〜3時間しか寝られませんでした。当日の状況やコンディションに対してどう順応するかは、本人次第のところではあります。
ただ、夕方5時に就寝するのは、空がまだ明るいので結構大変ですね。一山選手は、朝7時にスタートができるように、1カ月間、レースの時間に合わせて生活するシミュレーションをしていたと聞いています。私の場合、小出義雄監督が同じペースで生活リズムを整えることに対して、マイナスに働くこともあると考えていたようで「睡眠ではなく、体を休める時間を確保することが大事」と当時アドバイスをもらっていました。
ただ、選手全員の条件が一緒だとしても、開始時刻の変更を前日の夜8時に発表したのは反省材料です。朝7時にスタートするランナーがいつ就寝して、いつ起床なのかぐらいは把握してほしかったですね。一山選手は、本番前日の就寝後に一度起こされていますから、動揺するでしょう。開始時刻の前倒しは良かったですが、せめて前日のスタート時刻までには通達するべきだったと思います。その点はまったく選手ファーストではありませんでした。
ただ、マラソンは確定要素がない競技なのが特徴なので、そのレース状況に上手に順応することが大切です。コース、気候、対戦相手が常に異なるので、当日起こるすべての条件に対して、順応できる能力を備えることが結果を出すうえでは重要だと言えるでしょう。
場数を踏むことで、世界で戦える順応力を
日本代表選考レースだったマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)は、強化のうえでいいアイデアだった 【写真:松尾/アフロスポーツ】
今後の日本女子マラソンは、さまざまな条件のレースを経験し、順応しながら場数を踏むことが必要でしょうね。ただ、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の実施は、失敗ではないと思っています。MGCは一発勝負の選考方法なので、本番で勝ち切る強さを備えるためにも続けていくべきでしょう。こうしたシリーズを通して、なるべく多くの場数を踏むことが大事ですね。
MGCの選考方法も良かったと思います。これまで実施していた3本の選考レースだけで決めるのでは、結果を出せませんでした。期間を決めてマラソンを何本か走り、走破タイムのアベレージからピックアップしたうえで、一発勝負の場面で戦える人材を見出すという本番に近い選考方法でした。本来ならば、海外のレース経験も必要でしょうが、コロナ禍なのでないものねだりはしないことです。できることならば、日本国内においてマラソン大会をより多く開催できる環境が整えることも検討すべきでしょう。
有森裕子(ありもり・ゆうこ)
【株式会社アニモ】