“悔し涙の銅メダル”に四元奈生美が提言 「打倒中国」へ、伊藤美誠の課題とは?

吉田治良

3位決定戦に勝利し、日本女子卓球界にシングルス初のメダルをもたらした伊藤だが、その表情に満足感はなかった。準決勝で中国人選手に敗れた悔しさが滲み出る 【Getty Images】

 伊藤美誠が卓球女子シングルス3位決定戦で、シンガポール代表のモンユ・ユを4-1で下し、日本の女子シングルス史上初のメダルを獲得した。準決勝で中国の孫穎莎に敗れたショックから立ち直っての見事な勝利。混合ダブルスの金メダルに続く快挙だが、それでも「打倒中国」を目標に掲げてきた彼女に、笑顔はなかった。準決勝の「敗因」と3位決定戦の「勝因」を、かつてカラフルなユニフォームで話題を集めた“卓球界のジャンヌ・ダルク”こと、四元奈生美さんに解説していただいた。

「打たされて打ちあぐむ」悪いパターン

準決勝で対戦した孫は、攻撃力のみならずブロック力もハイレベルだった。伊藤は無理をして攻めなくてはならない状況に追い込まれ、ミスを誘発された 【写真は共同】

 水谷(隼)選手と組んだ混合ダブルスの金メダルに続き、女子シングルスで史上初となる銅メダルを獲得。すごいことを軽々と、立て続けにやってのけた伊藤美誠選手の姿にたくましさを感じましたし、同じ卓球をやってきた人間として、とてもうれしい気持ちでいっぱいです。こんな日が来るなんて……、本当に感慨深いですね。

 ただ、銅メダルを獲っても伊藤選手に笑顔はなく、逆に悔し涙を流していましたね。中国選手に勝つことだけを考え、ずっと厳しいトレーニングを積んできたわけですから、やはり準決勝で孫穎莎選手に0-4のストレート負けを喫した悔しさが、頭から離れなかったのでしょう。

 準決勝で対戦した孫選手は、1球目から大きな声を出していて、気迫がすごかった。混合ダブルスで金メダルを日本に奪われて、この女子シングルスでは絶対に負けられないという強い思いを感じましたね。

 孫選手は、攻撃ももちろん素晴らしいのですが、同じくらいにブロック力もハイレベルで、例えば少しレシーブが甘くなって、伊藤選手にスマッシュを打たれたとしても、それを止められる強さがありました。サービスで多少崩したとしても、ブロック力が高いから、伊藤選手もなかなか決めきれず、無理をして攻めていかなくてはならない状況に追い込まれてしまったわけです。
 
 そこを孫選手が見逃さず、回転量が多く、肩ぐらいの高さのボールをわざと出して、打たせてミスを誘ったりもしていましたね。伊藤選手が得意とする逆チキータをさせないようなサービスも出していましたし、この東京五輪で当たることを想定し、かなり研究していた印象です。今回の対戦に限って言えば、攻撃力、ブロック力ともに孫選手が一枚上でしたね。

 残念だったのは、第2ゲームで一時9-3とリードしたところから逆転されてしまったこと。あのゲームを取っていたら、相手にもプレッシャーがかかっていたはずですから。

 ただ、中国選手の強さというのは、攻めて点を取るだけでなく、相手に攻めさせてからの展開でも点が取れるところにあるんです。ブロック力が高いから、少しくらいレシーブが浮いても慌てない。

 伊藤選手のサービスはいろんな回転をかけて多彩な変化をさせてくるので、普通の対戦相手はレシーブの際にかなりのプレッシャーを受けるものなんです。少しでも甘くなると上から打たれるという恐怖心がある。けれど、ブロック力に自信がある孫選手は落ち着いてレシーブを返し、しっかり守ってラリー戦に持ち込んでいました。伊藤選手は「打たされて打ちあぐむ」という悪いパターンにはめられてしまいましたね。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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