小川諒也と三笘薫の言葉で占う4・11決戦 多摩川クラシコを彩るブレない男たち

後藤勝

川崎は強度を求め、東京は崩しを求める

三笘は「以前は現在よりもショートカウンターの頻度は少なかった」とチームの変化を語る 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 現代サッカーに適応しようとしているのは個人だけでなくチームも同様。川崎はボールを動かすサッカーと言われながら強度を高めてカウンターの頻度を増やし、東京は強度の高い速攻のチームと言われながら中盤でパスをつなぐ比率を上げている。

 三笘は昨シーズン辺りからの変化をこう説明する。

「以前は現在よりもショートカウンターの頻度は少なかったですし、前線で迫力を出せていたかというと、探りさぐりのところでした。チームの成長とともに自分も成長していったという感じです。守備のタスクは、それを満たさないと試合に出られないと言われています」

 一方、小川はJ1第6節ベガルタ仙台戦(2-1)辺りから顕著になってきた、中盤でテンポよくボールを動かす攻撃の取り組みについてこう述べた。

「練習でもセンターバックからつなぐところを、監督からはすごく求められようになってきています。よく(渡辺)剛にも言うのですが、自分たちは相手から奪って、速い攻撃が強い特徴のチームですが、相手が引いてきたときにそこを崩していかないといけない。Jリーグを勝っていくにはそういう部分も成長していかないといけない、と」

 ポジショナルプレーを起点としようがストーミング(前線から激しくプレスをかける戦術)を起点としようが、いずれは強度も崩しもどちらも必要になる。正反対のルートを辿りながら、めざす頂上がかなり近いところにありそうな点は非常に興味深い。

ブレない東京と川崎、それぞれの強み

 もちろん、出発点となる自分たちの強みを忘れてはいない。「調子がよくないときにも初心に立ち戻ることができる、そういう軸が長谷川監督のサッカーにはちゃんとある」と、小川は拠りどころを持つことの重要性を語る。

「東京は切り替えがすごく速い。特に守備から攻撃に出たときの速い攻撃が東京の武器だと思いますし、前線にそろう速い選手を生かさない手はない。そういうところをもっと徹底してやっていきたい」

 この東京の危険性は、もちろん川崎側でも認識している。三笘は言う。

「東京はより現実的な志向の、たとえば1点獲って、2点目を獲れなくても守り切ればいいというチームだと思います。そういう試合を遂行する能力がすごく高い選手がそろい、かつ個人の能力が高い。距離が離れていても二人で守備組織を破壊できる選手もいますし、セットプレーでチャンスを決められる選手もいます。どんな状況に陥っても解決する能力の高い選手が多い印象があります。(8割9割制圧していても一瞬の隙で敗れる?)その確率が高くなるチームだと思います」

 対する小川は川崎の強さに脱帽という感じだった。

「圧倒的な強さは昨年もありましたし、今年もここまでの試合を見ていても全員の基礎技術が高い。代表でもやはり川崎の選手は足もとの技術が高いと感じます。昨シーズンの対戦でも、自分たちがプレスに行ったときにかわされるシーンが多くありました。川崎がいちばん大事にしている部分だと思いますが、そこは尊敬しています」

 対戦相手もリスペクトの念を抱く川崎のサッカーは、基本的には風間八宏前監督時代から通底するもの。かつて権田修一(清水エスパルス)が東京に在籍していたとき「川崎は信念を貫いているチーム」だと言い、一目置いていた。主軸には常に“自分たち”がある。三笘もそれを十二分に自覚している。

「フロンターレはもちろん相手の分析もしますけれど、そのうえで自分たちの技術や立ち位置によっていつも通りにプレーすることで相手を上回ろうと意識している。常に自分たちのサッカーをすれば勝てるという自信はあります」

互いの戦力をどう見積もり、上回るか

昨年のルヴァンカップ準決勝で対戦した両者。勝利した東京は、勢いそのままに優勝を果たした 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 この強い川崎を東京が打ち倒すには、冷静に戦力を比較して勝ち筋を探る必要がある。
 まず逆サイドを攻めてくる三笘に対し、小川は「リーグ屈指と言っていいすごい選手。ディフェンスがはめに来た狭い局面でも自分で打開してしまう」と舌を巻きつつ、川崎のサイド全体についてはこう警戒した。

「三笘選手はドリブルでの突破力がある選手だと思いますし、右サイドでは家長(昭博)選手にキープ力があって起点となり、そこからどんどん(人とボールが)出てくる。サイドでの回しもうまいですから、中盤の選手とうまく連携をとって対応していきたい」

 そのうえで、川崎にこう対抗していくべきだと考えている道筋がある。

「選手個々の能力だけを考えたら、東京は負けていないと思います。ボールをキープする川崎に対し、自分たちが前からプレスに行く激しさが上回るか否かによって試合の流れが変わってくる。回せないくらいに激しくプレスに行けば川崎もリズムが崩れると思いますし、その流れのまま自分たちが先制点を獲れば、昨年のルヴァンカップ(準決勝、0-2でFC東京が勝利)のように勝つ機会は十分あると思います」

 三笘もまた、東京が持つ個の力を侮れないと考えている。小川について「スピードがありますし、守備も攻撃も高いレベルで、クロスもうまい。欠点がどこにあるのかわからないような選手」と評したうえで、東京のサイドについてはこう述べた。

「サイドに推進力のある選手が配置されていることは間違いない。その点で1対1の重要性がすごくカギになってきますし、ほかのチームと対戦するときよりも局面局面のバトルの重要性が結果につながると思います。ぼくたちもサイドにすばらしい選手がいるので、そこで負けなければより自分たちがボールを握り、去年のホーム(J1第25節、2-1で川崎が勝利)のような展開に持っていければいいと思います」

 1対1で勝つことを前提とした、強度の高い東京のサッカーを形容する三笘の分析が興味深い。

「空中戦など、個人の1対1の強さはどこかフロンターレより強いイメージがあります。フロンターレも能力の高い選手が多いですけれど、そのうえで技術や連携でアプローチするところがある。東京はどちらかというと海外選手のような特長を持っている選手が多いという印象を受けます。カウンターの質は高いものを持っているので、そこはチームとしてうまく抑えていかないとこの前のルヴァンカップのようになりかねない」

 互いに認識するところは一致している。相手の危険な箇所をいかに抑え、上回るかが勝敗を分けそうだ。

それぞれが考えるサイドの重要性

 そもそも1対1に強いタレントが置かれるサイドは、この多摩川クラシコにかぎらず現代サッカーでは特別な意味を持つ。三笘はサイドの重要性についてこう考えていた。

「現代サッカーでサイドからの得点がどのくらいあるのか厳密にはわかりませんが、やはりクロスやサイドの崩しからの得点は半分以上あるのではないかと思います。サイドの選手が個人で優れれば相手の数的不利をつくることもできますし、その選手間のずれを引き出して優位に立てるというところもある。

 もちろんゴールが真ん中にある以上は必然的に相手は真ん中を固めますし、サイドから攻めるのは論理的にも合っていると思うのですけれども、そのサイドの質が重要です。ひとりでも突破できる選手がいればその選手に相手は多くの人数をかけ、他の選手が空いてくる。その役割を、ぼく自身が担っていると思っています」

 小川は小川で現代サッカーの潮流がサイドプレーヤーに与える役割の変化を感じ、それに適応しようとしている。

「サイドバックがゲームをつくるようなサッカーになってきていますし、その前にいるサイドハーフやウイングの選手が相手のディフェンスを崩す中心になっていくことが多い。サイドでの攻防が試合の流れを決める、大事なところだと思います」

 中盤よりも相手から受けるプレッシャーが少なく、前を向いてボールを持てるサイドバックでのプレーに小川は個人としてやりがいを見いだしている。他方、攻撃の選手である三笘は必ずしもサイドでのプレーのみにこだわっているわけではないものの、現時点の能力を考えれば適したポジションであるサイドで力を発揮したいと考えている。彼らを含む、サイドで輝く東京と川崎の才能の激突も、また見どころとなるだろう。

「ひたむきにハードワークをする選手を、応援で後押しするサポーターが熱いチーム」と小川が東京愛を叫べば、「主導権を握る観ていて楽しいサッカーで結果が伴いながらピッチ外の面白さもある」と三笘は川崎独特の娯楽性を誇る。ファンサポーターと相思相愛で、いまやクラブの顔となりつつある小川諒也と三笘薫は、将来的には日本代表の左サイドでコンビを組んでいてもおかしくない存在だ。そのトップクラスの代表級選手を含む東京と川崎の激突は、再びサムライブルーが動き出したこの時期だからこそ見逃せない。強度と技術を競う戦いは、世界の趨勢(すうせい)に離されまいとレベルアップを図るJリーグにとってひとつの指標となるはずだ。

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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