廣瀬隆喜が響かす頭脳戦の果ての雄たけび ボッチャのカギを握る「先を読む戦術眼」
パラリンピック4大会連続出場が内定している廣瀬隆喜に、競技の見どころといつも支えてくれるファンへの思いを聞いた 【日本ボッチャ協会提供】
廣瀬は先天性の脳性麻痺(まひ)により、四肢に障がいを持って生まれた。中学時代はビームライフル、高校時代は車いす陸上に打ち込むなど多くの競技を経験したが、高校3年生の時にボッチャとの運命の出会いを果たす。23歳で北京大会に出場して以降は3大会連続でパラリンピックに出場し、リオデジャネイロ大会では団体戦で銀メダルを獲得。現在も第一人者として、ボッチャ日本代表をけん引し続けている。
そんな廣瀬が目指すのは、もちろん東京での金メダル。支えてくれるスタッフや応援してくれるファンへの恩返しのためにも、悲願達成を何としても果たしたいところだ。コロナ禍で開催が危ぶまれながらも残り4カ月と迫った東京パラリンピックに向けて何を思うのか。競技の楽しみ方や観戦のポイントともに、その内なる熱い思いに迫った。
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勝負を分ける緻密な戦術とミリ単位の技術
ボッチャは、全6球をうまくマネジメントする戦術とミリ単位での投球が勝負を分ける究極の頭脳戦だ 【日本ボッチャ協会提供】
対戦する選手同士がそれぞれ赤と青のボールを6球ずつ投げ合い、自分のボールをよりジャックボールに近づけたほうに得点が入ります。その一連の流れが1エンドであり、試合は個人戦とペア戦は4エンド、団体戦では6エンドが行われます。
すべてのエンドが終了した時点で得点の多い選手、またはチームが勝つ仕組みです。相手のボールを弾いたりして、自分が優位に立てるよう位置取りするのはカーリングと共通していますね。一方で、的であるジャックボールを弾いて動かすことができるのは、ボッチャならではの戦術なのでぜひ注目してもらいたいです。
ボッチャは障がいの程度によって4つのクラスに分けられています。BC1からBC4までありますが、一番障がいが重いクラスがBC3、一番軽いのがBC2です。僕はBC2に属していますね。BC3の選手たちは自分の腕の力を使ってボールを投げられないので、ランプと呼ばれる滑り台のような器具を使ってプレーをするんです。障がいの重い選手でも工夫をすれば戦えるという意味では、本当に誰にでもできるスポーツなんですよね。協会でもボッチャの大会や体験会を多く開いていますが、障がいの有無関係なく、子どもからお年寄りまでハンデなく楽しめる点もボッチャの素晴らしさだと思っています。
廣瀬の代名詞となっている「雄たけび」。プレー中の感情の高ぶりの表現とのことだが、その姿をぜひ東京パラリンピックの舞台で見たいものだ 【写真は共同】
ボッチャは1球1球で試合の局面が変わるので、オセロや将棋のように「先を読む力」が重要になります。常に2、3手先を読んでプレーするので、すごく頭を使う競技でもあります。6球でいかに試合をコントロールするかを考えなければいけないところも競技の醍醐味(だいごみ)だと言えます。
以前、杉村英孝選手(伊豆介護センター)と国内大会で接戦を繰り広げた時は、頭を使いすぎて試合後に頭痛が起きましたよ。ゲームを組み立てるだけでなく、1つ1つのプレーに集中しているので、試合に勝ったり思った通りのプレーができたりした時は、思わず雄たけびが出てしまうんですよね。銀メダルを取ったリオでは雄たけびがメディアに結構取り上げられました。「あの時はちょっと叫びすぎたな」と、実はちょっと反省もしているんです(笑)。
ボッチャの試合では自分のボールを使用しますが、さまざまな素材があります。代表的なのは、天然皮革や人工皮革、フェルトです。固さや材質に違いがあるので、選手自身が自分の特性やプレースタイルに合わせて選んでいます。以前まで僕は、合成皮革と天然皮革を試合の中でシーンによって使い分けていました。でも今は、すべての投球において同じパフォーマンスにするため、天然皮革で統一しています。中でもしっくりくるのがラム皮ですね。質感や握りやすさ、バウンドなどをトータルに考え決めました。ボッチャではミリ単位の差が勝敗を分けるので、「投げる感覚を追求すること」はすごく大事なんですよね。