ジェッツの選手がコート外も全力な理由 コロナと戦う「プロジェクト」の裏側

大島和人

選手にとっては「気づき」となる機会にも

大宮(左)はさまざま取り組みをする中で、クラブの裏側にある課題にも気づくことができたという 【スポーツナビ】

 手洗い動画はジャニーズのグループが最初に制作したものだが、千葉もその流れに乗った。ただし選手は動画撮影前には「フリ」を覚える必要があった。大宮は振り返る。

「5日後までとか期限を切られるわけですけど、色々やりたくなってしまうんです。10回くらい撮ってみて、下から2番めくらいのやつを送りました。完璧にできたのもあったんですけれど、最初のほうは初々しさが残っていた。そこはしっかり考えて送りました。僕はお笑いキャラで売っていますので!」

 完璧なダンスを撮影した西村は、逆に反省する。

「自分はすまし顔で、こなれ感を出し過ぎていました。みんなのものを見たら、振り付けをちゃんと覚えられず、照れながらやっているのがすごく可愛かった。そっちのほうが好感度は上がるなと思います(笑)」

 選手たちがファンだけでなく、クラブの内側で働くスタッフに対する認識を深める時間にもなった。大宮は強調する。

「裏方さんがこんなに一生懸命ウラで動いているんだと気づいた時間でしたね。あとそのとき、グッズの売れ残りを自分の目で見たんです。どう戦略を立てて、在庫をどうするというような視点で、改めてゆっくり考えられました」

 長い中断期間に、クラブはグッズの福袋を作成して販売をした。野球やサッカーと同様に、福袋の制作と販売には在庫一掃セールの意味合いもある。大宮は小野龍猛(現信州ブレイブウォリアーズ)とともに「通販番組」のMCを務めた。

「考えてやってくれみたいな感じだったので、ふざけ切りましたね。一応の流れはあったんですけれど、自由にやらせてもらいました」

大宮「僕は周りを“ほぐす役割”になりたい」

西村(写真)や大宮のような、いい意味でアスリート離れした発信力を持つ選手が在籍していることも千葉ジェッツの強みとなっている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 西村、大宮はいずれもいい意味でアスリート離れした発信力を持つ選手で、SNSの活用にも精通している。千葉の選手たちは彼らを筆頭にファンとつながる、コート外でクラブを助けるアクションに前向きだった。

 37歳の大宮にとって千葉は7つ目のクラブ。帰化選手も含めたインサイドのポジション争いが熾烈で、なかなか彼の出番はない。しかしベンチに座っても、ベンチに入れなくてもチームに貢献できる人間だ。

 大宮は述べる。

「若いときに気づかなかったことも、年を取ると気づきます。選手も監督も人なので、たまに熱くなって変なことを言うし、小さいことを大きく言ったりするじゃないですか。それを冷静に見られる、全体を見られるようになったのが大きいですね。僕は周りを“ほぐす役割”になりたい。お客さんに楽しんでもらいたいし、裏方さんにもほぐれてほしい」

 コロナ禍というピンチにおいても、大宮は状況を俯瞰できていた。彼は自らのウェブなどを介した発信についてこう説明する。

「ざっくり言うと自分の好きでやっていますね。それをウチは自由にやらせてくれるんです。ファンと交流したいとか、人気者になりたいとか、そういう目的ではなくて喋りたいことを喋らせてもらっています。僕が違うチームにいたとき、(西村)文男のインスタライブや配信を見て『スポーツ選手がこんなことをしていいのか』と思った。そのようなカルチャーが元々ありました」

 西村は島田慎二・現Bリーグチェアマンから受けた影響をこう明かす。

「島田さんが各選手に『バスケットボールという秀でたもの以外に、あと2つくらい自分の付加価値を作ったほうが、人として価値が高まる』とよく話していました」

 大宮は説く。

「千葉ジェッツは他のチームと違うと思うんですよね。問題があったときに、笑い飛ばそうよという姿勢で、常識に則らない路線で立ち向かう。個の強い選手が集まっていて、最初に手を挙げた選手が、周りも巻き込んで面白く乗り越えていくチームです。ファストブレイクの先頭を、誰が切ってもいいチームですね」

「コロナに笑利」という言葉の求心力と、クラブに関わる人々の熱い思いと行動で、千葉のファストブレイクは成功した。

 世界と新型コロナウイルスの闘いはまだ続いていく。それぞれが怒りや絶望に屈しそうになるときもあるだろう。しかしそんなピンチでも、いやピンチだからこそ「笑い」は力になる。失敗を恐れず、自分のやりたいことへ素直に挑戦する姿勢が、周りを巻き込む。そんな興味深い実例が、コロナに笑利projectだ。

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著者プロフィール

大島和人

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都町田市に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、バレーなどの現場にも小まめに足を運び、試合観戦数は毎年300試合を超える。日本を実はサッカーだけでなくバスケ強国であるスペイン、バレー王国・ブラジルのような球技大国にすることが一生の夢で、“球技ライター”を自称している。

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