清水エスパルスが進める“グッズ改革” ファナティクスとの提携で何が変わる?

平柳麻衣

12月1日に発表されたパートナーシップ契約締結にはどんな意味があるのか。清水エスパルス山室晋也社長(左)とファナティクス・ジャパン川名正憲代表に話を聞いた 【平柳麻衣】

 清水エスパルスは今シーズン、千葉ロッテマリーンズの球団社長として類いまれな実績を残した山室晋也氏が社長に就任し、改革の道を歩んでいる。新型コロナウイルスの影響から思い通りに策を実行できないことも多かった中、シーズン終盤に大きな動きを見せた。

 12月1日、清水は「ファナティクス・ジャパンとの戦略的マーチャンダイジング パートナーシップ契約締結」を発表した。

 ファナティクス・ジャパン合同会社は、MLB、NFL、NBAをはじめとするアメリカのスポーツリーグや欧州サッカーのビッグクラブなどと提携し、グッズの企画製造、販売を行う世界最大級のスポーツマーチャンダイズ企業『ファナティクス』の日本法人で、アジアでの事業拡大の拠点として3年前に立ち上げられた。日本では2019年より福岡ソフトバンクホークスと戦略的パートナーシップを締結。また、21年からの北海道日本ハムファイターズとの契約締結も発表されており、着々と国内での事業展開を進めている。今回、清水とは10年間という長期契約を結び、スタジアムおよびスタジアム外の実店舗やオフィシャルオンラインストアの運営だけにとどまらず、企画から製造、流通、販売に至るまでクラブのマーチャンダイジングビジネスを包括的に担う。

Jリーグでは前例のない提携に挑戦

山室社長は「今回の提携により、ファン・サポーターの満足度が飛躍的に高まる」と自信を持って話す 【平柳麻衣】

 Jリーグクラブ初、さらにサッカー界においてはアジア初の取り組みとなる今回の提携を決断した山室社長には、どんな狙いがあるのだろうか。

「エスパルスの物販収益(スタジアム飲食を含む)は今までもJクラブの中で上位につけていて、それは社員たちによる努力の成果であり、マーチャンダイジングにおいては『成功している』と言えると思っています。ただ、今までのやり方では社員個々の力に頼ってしまっていて、やはりどうしてもさまざまな部分で限界が出てきてしまう。より組織的で高度な企画力、マンパワー、投資力があればと思っていたところで、スポーツマーケティングにおける専門家集団であるファナティクスさんにお任せすることによって安定的な収益を上げることができると考え、契約に至りました。ファナティクスさんはマンチェスター・ユナイテッドやパリ・サンジェルマンといったビッグクラブと提携して大きな成果を挙げていますし、今回の提携によりファン・サポーターの満足度が飛躍的に高まると同時に、エスパルスのマーチャンダイジングの成長に大きく寄与するものと思っています」

 もともとファナティクスの傘下ブランドである『Majestic』が千葉ロッテのユニホームサプライヤーであったことから、以前より山室社長とファナティクスには接点があった。そして山室社長の“移籍”後、物販収益の安定・拡大を図る清水と、Jクラブへの事業展開を目論んでいたファナティクスの意向が合致した。

「このような包括的パートナーシップは海外では主流となりつつありますが、Jリーグでは前例のないことですし、プロ野球もソフトバンクさんと日本ハムさん(ECのみ)の2球団だけですから、なかなか斬新だと受け取られるのではないかと思います。もちろん考え方はそれぞれで、何でも自前でやっていきたいというクラブもあるでしょうし、ある程度、規模が大きいクラブや球団であれば、リソースもそれなりにありますから、自前でやってくことも可能でしょう。ただ、過去の延長の自前主義にこだわることで自らの成長を止めてしまうのは良くないな、と。エスパルスの経営資源からして、今後の成長、そしてファンのことを本当に第一に考えるならば、ファナティクスさんという専門家とパートナーになる方がいいと思いました」

最大のメリットは商品開発のスピード化

「エスパルスのブランドを継続して築いていく」とファナティクス・ジャパンの川名代表 【平柳麻衣】

 マーチャンダイジングの全般をファナティクスが運営することとなるが、あくまでも「パートナーシップ」であり、商品開発については両者による「共同企画」の形を取ることをファナティクス・ジャパンの川名正憲マネジング・ディレクター(代表)は強調する。

「外注することで、エスパルスのグッズに“魂”のようなものがなくなってしまうのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、むしろ逆のイメージです。クラブスタッフの方々にはこれまで商品の発送や管理に割いていた時間を企画の部分に注力していただき、現場側のリアルな声、アイデアを吸収しながらエスパルスのブランドを継続して築いていく。また、アニメやキャラクターとのコラボ等も検討していますし、さまざまなライセンシーさんと連携しながらファン・サポーターの求めるものを幅広く形にしていきたいと思っています」(川名代表)

「販売だけ、ECだけ、といった部分的なものではなく、トータルで提携することにこそ価値がある」(山室社長)という今回の提携の強みが最も発揮されるのは、商品開発のスピード化である。エスパルス・ブランディング推進本部の石川智美氏は、企画から販売までを垂直統合的に行うファナティクスのビジネスモデルに期待を寄せている。

「例えば天皇杯で優勝したとき、私たちだけで記念グッズを作った場合、納品までに2、3カ月はかかってしまうため、次のシーズンが開幕した後となってしまいます。過剰在庫を避けるためには優勝が決まってからの受注生産となり、自社で生産のノウハウがないために工場や商社などいろいろな力を借りなければならず、どうしても時間がかかってしまうのです。でも、ファナティクスさんにはノウハウがあるので、そのリードタイムを大幅に短縮できる。さらに、ソフトバンクホークスさんの優勝記念グッズを見ても、商品ラインナップ数がすごく多いですし、『お客さまが欲しい物を早くお届けする』という考えが徹底されているなと感じます」(石川氏)

 千葉ロッテ時代に多くのアイデア商品を生み出してきた山室社長も、新規商品の開発に意欲的だ。

「これまで予算の関係やスピード感、さらに今年は新型コロナウイルスの影響も受けるなど、さまざまな問題によってボツになった案件がたくさんあります。例えば今シーズンは、9月12日の鹿島アントラーズ戦を『ブラジルデー』と題してTシャツを制作しましたが、今後はTシャツ以外のグッズも作れたらいいですし、他の試合でもイベントと絡めたグッズ展開のイメージは持っています。それがファナティクスさんと連携することで具現化できると思っていますし、エスパルスのファン・サポーターの心をくすぐるような商品を展開して、さまざまなニーズに応えていきたいと考えています」(山室社長)

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著者プロフィール

1992年生まれ、静岡県出身。静岡を拠点に活動するフリーライター。清水エスパルスを中心に、高校・大学サッカーまで幅広く取材。『サッカーキング』や『S-PULSE NEWS』などに寄稿する。

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