連載:GIANTS with〜巨人軍の知られざる舞台裏〜

ジャイアンツが「青色」伝統超えた“感謝”  忘れ得ぬ2020年…優勝グッズに込めた思い

小西亮(Full-Count)

10月30日にリーグ優勝を果たした巨人。例年とは違う特別なシーズンは優勝記念グッズにも表れたという 【写真は共同】

 金色が印象的な「V」の上に、「CHAMPIONS」の文字が重なる。読売巨人軍のセ・リーグ連覇を象徴する優勝エンブレム。10月30日、本拠地の東京ドームで歓喜の瞬間を迎えた。新型コロナウイルス感染拡大によって開幕が3カ月延期に。120試合に短縮された異例のシーズンへの思いが、そのエンブレムに凝縮されていた。

「CHAMPIONS」を縁取るブルーの配色。オレンジと黒のチームカラーを考えると、挑戦的とも言えるデザインだった。「今まで見たことないです。初めてです」。グッズ製作を担う身として、それが2020年に最もふさわしい表現だと確信する。

デザインに込めた医療従事者への思い

 うれしい悲鳴が、オフィスに響く。「チームの勢いがすごいので、とにかく準備は必死でした」。巨人のグッズ製作を担う読売新聞東京本社スタジアム・アリーナ事業部の大湾梨香子さんが、快活に笑う。シーズン序盤から圧倒的な強さで首位を快走。9月15日、まだ72試合目にして優勝マジック「38」が点灯し、カウントダウンが始まった。

「1%でも可能性があるなら準備する」という優勝記念グッズ。その点では、確信を持って企画を進められた。「モチベーションとしては、真っすぐ向けたかなと」。担当者にとっても、ひとつの集大成。単なる38度目のリーグ優勝ではない。特別な1年をどう表すかを考えた時に、同僚たちと導き出した答えが「ブルー」だった。

優勝記念グッズに使用した「青色」は医療従事者への感謝も込めたいという思いからだったと大湾梨香子さんは語る 【撮影:竹内友尉】

「応援いただきありがとうございました、だけじゃない。医療従事者の皆さんへの感謝も込めたいなと思いました」

 医療や介護に従事する人々への感謝の気持ちを込めて拍手を送り、観光スポットを青色で照らす。3月にイギリスで始まったキャンペーンは、瞬く間に世界中に広がった。イギリスの国民保健サービス「NHS」のシンボルカラーだった青色は、感謝の象徴に。新型コロナと戦い続ける人たちに支えられ、プロ野球も幕を上げることができた。勝ち負けを超越した球界全体としての思いを、リーグ王者として伝える責務があった。

苦境の中での試みに「大きな反響」

 球音が消えた春。その時はまだ、半年後の秋に優勝グッズを世に出すなんて想像さえできなかった。当初の3月20日の開幕は延期になり、メドすら立たない状況に。試合ができなければ当然、グッズの売り上げにも響いた。4、5月の公式オンラインショップでの売り上げは前年比でマイナスに転じた。

「正直、厳しいなという意識はありました」。ECサイトの運営を担当するスタジアム・アリーナ事業部の橘麻美さんは頭を悩ませた。外出自粛が呼びかけられ、閉塞感すら漂う世の中。ファンと巨人との距離が離れていく危機感の中、あらためて自身の担う「グッズ」の存在意義を考えた。

「グッズは、ファンの方々とジャイアンツをつなぐ大事なツールなんだと」

 家にこもる時間が長い時だからこそ「お客様になるべく毎日ジャイアンツに触れてもらおうと思いました」。ツイッターで連日、商品情報を投稿し、隔週配信だったメールマガジンも頻度を増やした。ただ闇雲(やみくも)に新製品を紹介するのではなく、ファンとの双方向を可能にするSNSの特徴を生かそうと、初めての試みにも取り組んだ。

 無観客で開幕後、自宅でリモート応援する様子をファンに投稿してもらう企画を実施。公式のグッズ・イベントアカウントのフォロワーは当時5万人ほどで、どれほどの反応があるか不安もあったが、予想を上回る投稿の数々に驚いた。中には、選手名入りのタオルを歴代集めて壁一面に貼り付けている“筋金入り”がいたり、ユニホームを着たペットと一緒に観戦するファンがいたり。「私たちが普段気づけていない点でもあり、勉強にもなりました」。新たな開発にもつながるアイディアを得た。

「お客様の声を聞くことが、私にとって大きなモチベーションにもなっているんです」。橘さんは日々、SNSなどで寄せられる意見や要望に目を通す。もちろん全てを具現化することはできないが、出発点になることは多い。たとえば、選手を動物にたとえてグッズ化した人気の「パペットシリーズ」。選手の背番号変更に合わせたリニューアルの要望も根強く、発売するや、「待ってました!」と喜びの声が寄せられた。

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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