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GIANTS with~巨人軍の知られざる舞台裏〜
最も近くで伝え続けた巨人2連覇の軌跡
問われた広報力…コロナ禍を成長の糧に
9度宙を舞った原監督。新型コロナウイルスの影響で異例なシーズンを送る中、見事に歓喜を勝ち取った
9度宙を舞った原監督。新型コロナウイルスの影響で異例なシーズンを送る中、見事に歓喜を勝ち取った【写真は共同】

 歓喜の輪ができる。東京ドームのマウンド付近。ほどなくして原辰徳監督が、宙を9度舞った。スタッフがオレンジ色の手袋をした“新様式”で迎えるセ・リーグ連覇の瞬間。その様子を少し離れた場所から見届けながらも、余韻に浸っている暇はない。巨人の球団広報にとっては、ここからが勝負でもある。


 優勝会見にテレビ各局への監督、選手たちの番組出演対応……。1分、1秒、時間との戦いが続く。異質なシーズンを戦い抜いた軌跡を、ひとりでも多くのファンに伝えたい――。その責務が、優勝の喜びをより特別なものにすると信じる。


 10月30日の東京ヤクルト戦。取っては取られてのシーソーゲーム。勝てば文句なく優勝の反面、阪神や中日の勝敗次第で引き分け以下でも決まる可能性があった。「ずっと試合を見ながら、ギリギリの準備でしたね」。現場で広報を務める阿南徹さんは、刻一刻と変わる状況に気を揉んでいた。


 延長10回表。その時は、思わぬ形で迎えた。引き分けでも優勝の状況となり、10回裏の攻撃を残した段階で東京ドームが沸いた。「よしゃー」。ひとときだけ喜び、すぐに気を引き締める。「よし、やるぞ」。胴上げ、優勝セレモニー、記者会見……。怒涛(どとう)の時間へと飛び込んでいった。

新聞記者になりきっての広報活動

感染対策のため、取材制限を設けるなど苦心の広報活動だった2020年シーズン。それでも阿南さんは、「チームとファンとの距離を遠ざけるわけにはいかない」と毎日アイデアを出して取り組んだ
感染対策のため、取材制限を設けるなど苦心の広報活動だった2020年シーズン。それでも阿南さんは、「チームとファンとの距離を遠ざけるわけにはいかない」と毎日アイデアを出して取り組んだ【写真は共同】

 振り返れば、何もかも手探りだった。2月の球春到来から9カ月。広報2年目の阿南さんは苦笑いして振り返る。


「昨年の経験が生きない。毎日が新しいことの連続。これまでと全く違う日々で、何が正しいのかわからない状況でした」


 当時広報だった元投手の矢貫俊之さん(現ファームディレクター補佐)とコロナ禍での報道対応やメディア発信について、アイデアを出し合う毎日だった。


 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、3月の開幕が延期に。新聞やテレビなどのメディアに取材制限を設けざるを得なくなった。それでもチームとファンとの距離を、遠ざけるわけにはいかない。


「どうやって伝えていくかを考えた時に、僕らが新聞記者やメディアのようなことをしているなか、これはなりきってやっていくしかないなと思いました」


 報道陣が依頼した選手に質問を投げかけ、その様子を撮影する。これまで何度も目の前で見てきたメディアの取材活動は、想像していた以上に難しかった。「紙に書いてある質問を聞くだけでは、選手が伝えたいことを引き出せない」。日ごろの何気ない“会話”と“取材”は別物だった。


 それでも、やらなければ情報は世の中に伝わらない。撮影の際に使う“カンペ”は、テレビ関係者に見やすい書き方を聞きながら自分で作成。質問も選手が回答しやすいように修正した。日々繰り返すうちに、選手の表情を見ながら対話できるように。


「事前準備があってこその取材であり、撮影だと感じました。簡単なことじゃないんだなと。記者の方、テレビのディレクターさんやアナウンサーさんってすごい。リスペクトしましたね」

大切にしている「空気感」

 閉塞感すら漂っていた世の中で、活力を届ける選手の姿や言葉。その使命感に突き動かされ、日々テレビのスポーツコーナーや新聞の紙面立てを頭でイメージした。ただ練習を伝えるだけではすぐにマンネリ化する。「毎日の記事が練習の様子だけにならないよう、記者の皆さんにもアドバイスをもらいながらいろいろなネタを考えました」。コロナ禍でのおうち時間の過ごし方や、夏の甲子園が中止になったときには甲子園の思い出を選手たちに質問。時には切り口を変え、小さいころの「マイヒーロー」を聞いたり、母の日が近づくとお母さんへのメッセージを語ってもらったりもした。


 選手と接する際、大切にしているのは空気感。阿南さん自身、オリックスと巨人で7年間プレーし、取材も受けてきたが「選手出身の広報だからといって、選手の気持ちが分かると言われますが、そんな簡単なことじゃないです。同じ場所には立っていたので練習や試合の流れや気持ちはある程度わかっているつもりですが、しょせん“つもり”なんです」。考え方や性格、その日のコンディションは違う。「試合に入る前の目つきや集中の仕方も人それぞれ。簡単に踏み入れられる領域ではない」。ごくわずかに発せられるサインを敏感に察知し、コミュニケーションの押し引きを調整してきた。

小西亮(Full-Count)

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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