佐藤友祈が公言する東京パラでの世界記録 車いす陸上界の神速を生んだ「没頭力」
車いす陸上の計4種目で世界記録を持つ佐藤友祈が、競技の魅力と東京パラリンピックでの夢について語った 【写真提供:グロップサンセリテWORLD-AC】
佐藤は小学校からレスリングや陸上を始め、高校ではキックボクシングなど多くのスポーツに打ち込んできたが、21歳の時に異変が起きる。病名は「脊髄炎」。胸から下のまひのほか、両足と左手が動かなくなり車いす生活となった。外に出る機会が減っていた佐藤だったが、テレビで見たロンドンパラリンピックの車いす陸上が人生の転機となる。「自分もパラアスリートになって、メダルを獲ってみたい」。その思いは、4年後のリオデジャネイロパラリンピックの銀メダルという形で現実となった。
東京では「世界記録で金メダルを獲る」と力強く公言している佐藤。その発言に込められている自信は、決して根拠のないものではない。周囲も驚く「類まれな集中力」で練習を積み重ねてきた証しだ。ワールドレコードを4つも保持する“車いす陸上界の神速”は、2021年の本番を見据えて今をどう過ごしているのか。そして、夢舞台で自分を通して伝えたいものは何なのか。競技の楽しみ方や観戦のポイントとともに、観戦する人に伝えたいメッセージも聞いた。
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他の選手との駆け引きに注目
400メートルと1500メートルとでは距離だけでなく戦い方も変わる。佐藤は戦況に合わせた判断力も持ち合わせている 【Getty Images】
クラス分けは「競技の種類」「障がいの種類」「障がいの程度」を示す3文字で表示します。たとえば、競技の種類がトラックだったらT、フィールドだったらF。障がいの種類は、視覚障がいが10番台、知的障がいが20番台、脳性まひなどが30番台、低身長や切断などが40番台、脳性まひ以外の車いすが50番台、義足の下肢障がいが60番台になります。そのそれぞれの下一桁の番号で障がいの程度を表していて、数字が少ないほど障がいは重くなります。僕は車いすのトラック競技なので、T52となるわけです。
僕は車いす陸上の400メートルと1500メートルで東京パラリンピックに出場しますが、2つの種目ではそれぞれ戦い方が異なりますね。400メートルは、最後まで決められたレーン内を走る「セパレートレーン」。スムーズにコーナリングして最短距離で走れるように、スタートではレーンの外側に位置取りするのがポイントです。競技用車いすである「レーサー」は10キロにも満たないほど軽いので、ポジション取りがすごく重要になります。最終的に外側から内側に寄っていくコーナリングを意識していますね。
一方の1500メートルは、レーンが決められていない「オープンレーン」なので、他の選手との駆け引きが重要なんです。僕はスタートが遅いので、「逃げる」より「捲(まく)る」タイプ。とはいえ先頭選手の真後ろにつくと他の選手が横にいることで抜け出したくてもブロックされてしまうので、今は最初から横レーンに避けるレース展開を意識しています。車いす操作においても常に駆け引きが繰り広げられているんですよね。これから観戦する方は、そうした戦況下での判断や駆け引きにも注目すると、より楽しめるのではないかと思いますね。
オンライン取材では飾らない笑顔を見せてくれた佐藤だが、競技になると表情が一変する。物事に没頭する力は囲碁で鍛えられたそうだ 【C-NAPS編集部】
後は小さい頃からレスリングをやっていたおかげで、太く強く育った首が競技においても有利に働いています。レーサーで走るときって前傾姿勢になるんですけど、首が痛くなる人が多いんですよね。でも僕は最初から全然痛くならなかったので、レスリングの経験が活きているのだと思いますね。
競技での活躍に関してはプライベートの影響も大きいですね。2019年に結婚しましたが、妻にもたくさん支えられています。共働きですが、毎日しっかりした料理を作ってくれていて、食事面のサポートをしてくれるのはすごくありがたいですね。1人暮らしをしていた頃もカロリーなどを意識して食事はしていましたが、妻のおかげで「苦手な食材も食べよう」と思えるようになったんですよ。一番好きなメニューは、お味噌汁。いろんな具材を日によって楽しめるし、おいしくタンパク質と野菜が摂れるのは最高ですよね。