連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

佐藤友祈が公言する東京パラでの世界記録 車いす陸上界の神速を生んだ「没頭力」

C-NAPS編集部

最大のライバルはリオで敗れたスピードスター

リオパラリンピックではレイモンド・マーティン(中央)に敗れ、銀メダルに終わった佐藤(左)。東京では雪辱に燃える 【Getty Images】

 海外でのライバルは、レイモンド・マーティン選手(米国)ですね。ロンドンで4冠、リオでも2冠を達成しているすごい選手なんです。僕がリオで銀メダルだったのも彼に2種目とも負けたからなので、もっとも警戒していますね。今、世界記録を持っているのは僕ですが、パラリンピックでのタイトルはまだ獲れていないので、チャレンジャーの気持ちで戦います。

 リオでのレースは忘れられないですよ。タイム的にはそんなに離れていないかもしれませんが、彼がゴールした瞬間の差はレーサー1個分か半個分くらいありました。しかも会場を振り返って小さく拳を握り締めながらのゴール。もうめちゃくちゃ悔しかったです。彼は体が小柄なので、181センチ70キロの僕と比べると20キロから30キロくらい軽いんですよ。体重が軽いのは有利なので、僕も体重のコントロールにはすごく気をつかうようにしています。

 マーティン選手のレースのスタイルは、僕と違ってスタートから抜け出すタイプですね。序盤に頭1つか2つ分抜け出して、そのまま長い間独走状態に入るんです。また、他の選手以上に前のめりな姿勢でレーサーを操作するので、王者ならではの走りに注目して見てください。よく笑う選手なので、愛嬌(あいきょう)のある表情にも惹かれるかもしれませんね(笑)。そんな憎めない選手ですが、東京では僕がマーティン選手を捲(まく)りまくって、駆け引きで勝利したうえで金メダルを獲得したいです。

活躍を通して「障がいを持つ人たちに夢を」

パラリンピックでの活躍を通して「障がいを持つ人たちに夢を持ってもらいたい」と語る佐藤。世界最速の男の有言実行に期待したい 【Getty Images】

 東京パラリンピックが2020年に開催されていたら、金メダルを獲って世界記録を更新できていた自信はあります。ただ、延期やコロナウイルスに関しては僕たちにはどうしようもできない問題なので、もう1年準備期間が延びたと考えるようにしています。本来の東京パラリンピックの開催期間の9月上旬には日本選手権が行われましたが、「ピークを合わせるプレ大会なんだ」と捉えて臨むことができました。本番と同様に暑い時期に、同じようなコンディションで臨めるかということを確認できた意味では、すごく収穫があったなと感じていますね。

 東京パラリンピックがどういう形の開催になるかわからないですが、やはり満員の会場でレースがしたいです。色んな人の応援の前で、ゴールした瞬間に電光掲示板にWR(世界新記録)の文字が表示されて、みんなが一気に盛り上がって、日の丸の旗を背負って会場を一周して、スタンドはウエーブに……イメージした方がモチベーションが上がるので、そんな光景を浮かべながら日々トレーニングしています。走る瞬間は「集中」していますから、自分のことしか考えられないですね(笑)。

 金メダルを目指す原動力としては、「障がい者に対する見方を変えたい」という思いがありますね。僕自身もともと健常者で、障がい者のことはあまりわかっていなかったんです。でも障がいがあっても自国を代表して、4年という歳月をかけて積み重ねたストーリーがあるということ。そして、どんな結果でも応援してくれる人たちがいるということを自分の姿を通して伝えていきたいです。日本でのパラリンピック開催は、共生社会を作るうえで重要な取り組みになります。人はそれぞれ違うんだという多様性を認め合う文化が、もっと浸透すればいいなと願っています。

 また、障がいを持つ人たちに対しては、夢を持つきっかけを与えられる存在になりたいです。同じように「スポーツをやってほしい」という思いは正直あまりありません。もちろんスポーツでもいいですけど、ゲームやパソコンでもいいんですよ。何か自分の好きな分野で没頭して「上を目指そう」と思えることが大切だと思うし、その夢を周りにも言えるようになれたらすてきですよね。僕が活躍し続ける姿を通して、何かに没頭する素晴らしさを伝えていきたいです。

(取材・執筆:久下真以子)

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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