巨人戦のチケットでつながるファンとの絆 1枚の紙片を“夢の切符”へと変える
シーズンも終盤に近づく中、徐々に客席にも熱気が戻ってきた 【写真は共同】
グラウンドで日々戦いを続ける巨人軍は、リーグ連覇をはっきり視界に捉えた。ファンは勝利に喜び、時として敗北にうなだれる。そんなスタンドの様子を見渡して思う。「いい顔だな」と。チケットを売ることすらできなくなった半年前を考えると、胸が熱くなるもの当然だった。
途切れさせてはいけない長い歴史のバトン
「いつ開幕して、いつからお客様を入れていいのか分からずに、段階的に払い戻しをしていく。事前の売れ行きはかなり好調だったので、残念な思いもあって……。なかなか気持ち的にはしんどかったです」
4月に政府から緊急事態宣言が発令され、在宅ワークに。チケットを売るという業務の主体を失い「今すぐ取り掛かれるものがない。何から手をつければいいんだろうと戸惑いはありました」。担当になって4年目。責任ある立場としてさまざまな課題を解決してきた自負はあったが、そのノウハウのどれもが通用しない事態だった。
金沢さんは新たな観戦スタイルをお客様に提案したいと「MASU SUITE」などの席をチームメンバーとともに企画した 【撮影:竹内友尉】
それでもいつか必ず、有観客の試合が戻ってくる。そう信じて環境を整えていくほかに道はなかった。まず取り掛かったのは、すでに年間のチケットが手元にあるシーズンシートオーナーへの対応。先の見えない不安は、販売者も契約者も同じだった。
1試合ごとの一般チケットとは違い、年間を通して同じ席を購入してもらうシーズンシート。内外野の各所に設置され、年間200万円を超える席から20万円程度で手に入る席まで多種多様にある。法人企業を中心におよそ8000件の契約がある「チケット販売の根幹」。その歴史は、東京ドームが建つ前の後楽園球場の時代から続いてきた。
「もう50年以上、親子でシーズンシートを引き継いでくださっているオーナーの方もいらっしゃる。長い間ずっと応援してくださり、契約されているシートにも愛着を持たれている。その歴史のバトンをつないでいきたい」
コロナで途切れさせるわけにはいかなかった。営業を担う70〜80人規模の専門組織「シーズンシートセンター」と連携し、来季への繰り越しや未開催分の払い戻しなど各契約者の意向に寄り添って対応した。直接訪問するわけにはいかず、手段は契約者専用サイトでの情報発信やメール、電話、手紙など多岐にわたった。そうやってあっという間に春が過ぎたころ、ようやく球界には開幕の機運が生まれていた。