ブンデスで戦う日本人選手の語学力は? ドイツ在住記者が見た、知られざる一面
オンラインイベントに登場した(左上から時計回りに)遠藤航、鎌田大地、堂安律の3選手。右手前は司会を務めたJOYさん 【写真提供:スカパー!】
さて、ブンデスリーガの開幕を目前にして、試合を放送するスカパー!が視聴者、ファンの方々へ向けたオンラインイベントを開催し、そこには選手を代表してフランクフルトの鎌田大地選手、シュツットガルトの遠藤航選手、そしてビーレフェルトの堂安律選手が参加しました。僕もその模様をオンラインで視聴したのですが、その場で3人が語っていた語学の話が大変興味深く感じたため、今回は、サッカー選手の“語学力”について考察してみることにしました。
日本人選手のドイツ語は…
ブンデスリーガの各クラブに在籍している日本人選手たちの中には流暢(りゅうちょう)にドイツ語を話す人もいます。先述したイベントでは、そのドイツ語の話題になり、各選手が自身の語学力について語っています。
まず、遠藤選手は主に英語でチームメートやコーチングスタッフなどとコミュニケーションを取りつつ、ドイツ語習得にも励んでいるとのこと。ちなみに彼は18年夏に浦和レッズからベルギーリーグのシント・トロイデンへ移籍しましたが、当時から海外でのプレーを夢見て事前に英語の勉強をしていたそうです。なので、ベルギーへ渡って新チームに合流したばかりの彼が、すぐにチームメートと英語で会話しているシーンを見たことがあります。
ただ、イベントで遠藤選手も語っていた通り、ブンデスリーガ各クラブは総じてドイツ語でチームミーティングを行うため、戦術面、戦略面の詳細な内容は、ある程度ドイツ語の知識がないと理解できず、プレーに支障が生じてしまいます。そのため彼は今、ドイツ語の勉強にも励んでいることでしょう。
ちなみに、今季のブンデスリーガ1部18チームの中で、ドイツ語圏の国籍を有する監督は16人で、残り2人、レヴァークーゼンのペーター・ボス(オランダ)とシュツットガルトのペレグリーノ・マタラッツォ(アメリカ)もチーム内ではドイツ語で指揮を執っています。
鎌田は正確にヒアリングできている
プロサッカー選手はコミュニケーション能力も問われる 【Getty Images】
鎌田選手は先日、フランクフルトと23年夏までの契約更新を行い、クラブが設定した記者会見に臨みました。その際、彼は日本語通訳をつけましたが、ドイツ人記者から冗談交じりにこんな質問をされました。
「ダイチはクラブと23年までの契約を更新したけれども、次の契約時には通訳をつけずにドイツ語で話をしてくれるのかい?」
このときの鎌田選手は、日本人通訳がドイツ語を訳す前に苦笑いを浮かべ、こう答えました。
「いやー、もちろん勉強はしていますよ。ただ、非常に伸び悩んでいる(笑)。もしハセさん(長谷部)くらいの素晴らしい、あれくらいのドイツ語を話せれば、もちろんドイツ語で会話してみたいですよね。でも僕は基本的に、ある程度ドイツ語がしゃべれるようになっても、本当に言いたいこと、細かいことは言えないと思うんですよね。ニュアンスが少しでも違ったら受け取られ方も違ってしまって、変な記事が出たりとすると嫌なので、ドルメッチャー(ドイツ語で通訳者の意)はやはり必要なのかなと思います」
鎌田選手はドイツ人記者のドイツ語が正確にヒアリングできていて、コミュニケーションを取るための必要最低限の会話もできます。その上で、公の場での会話に関しては彼なりの考えがあることが、この説明からも分かりますよね。
ブレーメンの大迫勇也選手も鎌田選手と同じタイプかもしれません。ブレーメンの番記者に聞くと、練習場などでの大迫選手は監督やチームメートとドイツ語でコミュニケーションを取っていて、全く違和感がないそうです。ただ、彼はミックスゾーンなどの公の場では、それほどドイツ語を話すことはありません。本人から直接聞いていないので不確かですが、大迫選手がドイツ語を問題なく扱えているのは当然として、彼はその語学を駆使するTPOをわきまえているのだと思います。
ドイツ語堪能な長谷部の悩み
「今はあらためて、『もっとちゃんとドイツ語を勉強していれば良かったな』と思っている。ドイツには名詞に性があって、その性ごとに冠詞がつくんだけど、正直なところ、その冠詞をつけなくてもドイツ語はしゃべれる。でもネーティブがそれを聞くと、やっぱり、その言葉は拙く感じてしまうんだよね」
長谷部選手の言う『名詞の性』とは男性名詞、女性名詞、中性名詞のことで、ドイツ語ではそれぞれの名詞につく冠詞が決まっています。でも、これがややこしい。当然、僕も『名詞の性』には非常に苦戦しているのですが、長谷部選手の場合は、もっと高いレベルでその悩みに直面している様子です。
さて、今季、オランダ・エールディビジのPSVからレンタル移籍でビーレフェルトに加入した堂安選手は当然、まだドイツ語を話せません。ただ、以前にインタビュー取材をしたときの彼は、向学心旺盛な若者という印象を受けました。実際、17年夏にガンバ大阪からオランダのフローニンゲンへ移籍してヨーロッパで生活を続ける堂安選手は、日常会話の英語をよどみなく話せますし、新天地・ビーレフェルトでのインタビューでも英語でしっかりと対応しています。
イベントでの堂安選手は「ドイツ語を勉強する気はない(笑)」と語っていましたが、おそらく彼は、自然にその土地の言葉を習得できるのではないでしょうか。なぜならば、彼はとても人懐っこい性格で、いわゆるコミュニケーション能力のある人物なので、多文化、多国籍な環境でも順応が早いと思うんです。その意味において、良い意味で、堂安選手にドイツ語の壁は存在しない気がします。