選手の思い切実「ファンの存在感じたい」 無観客の巨人戦を盛り上げた若手の知恵
ファンのボルテージを上げ、球場を盛り上げる場内演出。それは声援とともに、選手たちの力となり、空間に活力が生まれる 【写真は共同】
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「常にチャレンジ」変化を求めた場内演出
29歳で場内演出の統括を任された佐伯さん。8歳で野球をはじめ、野球に深く関わってきた 【撮影:竹内友尉】
「もっと個性があっていい」
目をつけたのは、選手が打席に入る際にビジョンで流す映像だった。球界を代表するスター選手でも、これからブレークが期待される若手でも、同じ背景デザインの映像を使っていた。ルーティン化した演出では、ファンも飽きてしまう。「場内のボルテージにもメリハリをつけることができれば」。得点圏に走者を置いたチャンスの場面で主力選手が打席に入る際、特別な映像を流すことで期待感と高揚感を増幅させようと試みた。
丸佳浩はファンに親しまれる「丸ポーズ」をモチーフにし、主将の坂本勇人には燃え盛る炎をあしらった。そして、現役時代に「若大将」と呼ばれた原辰徳監督から「2代目若大将」を襲名した岡本にはもちろん、力強くその言葉をビジョンで表現した。限定的なシーンでしか見ることのできない「特別感」。当初の開幕日だった3月20日に合わせて制作し、あとはお披露目を待つばかりだった。
「私自身は冷静に試合を見るのが好きなタイプなんですが、そんな自分でも楽しめる場内演出があればいいなと」
佐伯さんの発想の原点には、野球に深く関わってきた人生が色濃く反映されている。幼少期を過ごした千葉で野球を始め、現在のZOZOマリンスタジアムにもよく足を運んだ。当時、近鉄を応援していた佐伯少年は、プロ野球が作り出す空間に胸を躍らせた。
自身は8歳で野球をはじめ、高校では硬式、大学では軟式でプレーし、ポジションは主に捕手。野球の仕事に携わりたいと、巨人軍をもつ読売新聞社の門をたたいた。
「性格的には冷めてます。どちらかというと、人と盛り上がることも苦手です」
なんて言葉とは裏腹に、仕事への情熱は人一倍強い。変化を求めることによって生まれる衝突を厭わない。周囲から「今まではこうしていた」と言われたこともあったが、「常にチャレンジしましょう」と根気強く理解を求めてきた。
そのひとつの形として生まれた新たなビジョン映像は、開幕延期によって、お披露目も先延ばしになった。
「仕方ないなとは思いました」
佐伯さんは、あくまで冷静に受け止める。