連載:GIANTS with〜巨人軍の知られざる舞台裏〜

選手の思い切実「ファンの存在感じたい」 無観客の巨人戦を盛り上げた若手の知恵

小西亮(Full-Count)

ファンのボルテージを上げ、球場を盛り上げる場内演出。それは声援とともに、選手たちの力となり、空間に活力が生まれる 【写真は共同】

 東京ドームが熱を帯びる。グラウンドでは、巨人が絶好のチャンスを迎えている。4番・岡本和真が打席に入った。バックスクリーン上の大型ビジョンには、「若大将」の文字が踊る。5000人のスタンドが、固唾(かたず)を飲む瞬間。打球が外野に抜けると、大歓声の代わりにオレンジ色のタオルが揺れた。マスク姿でも分かるファンの笑顔が、この空間を作り出す担い手としての活力になる。

「常にチャレンジ」変化を求めた場内演出

29歳で場内演出の統括を任された佐伯さん。8歳で野球をはじめ、野球に深く関わってきた 【撮影:竹内友尉】

 まだ国内に新型コロナウイルスの影もない昨年12月。巨人戦の興行を担う読売新聞東京本社・野球事業部の佐伯冠爾さんは、2020年シーズンへ向けアイデアを固めていた。この部署に来て3シーズン目。場内演出の統括を任された29歳は、変化が必要だと思った。

「もっと個性があっていい」

 目をつけたのは、選手が打席に入る際にビジョンで流す映像だった。球界を代表するスター選手でも、これからブレークが期待される若手でも、同じ背景デザインの映像を使っていた。ルーティン化した演出では、ファンも飽きてしまう。「場内のボルテージにもメリハリをつけることができれば」。得点圏に走者を置いたチャンスの場面で主力選手が打席に入る際、特別な映像を流すことで期待感と高揚感を増幅させようと試みた。

 丸佳浩はファンに親しまれる「丸ポーズ」をモチーフにし、主将の坂本勇人には燃え盛る炎をあしらった。そして、現役時代に「若大将」と呼ばれた原辰徳監督から「2代目若大将」を襲名した岡本にはもちろん、力強くその言葉をビジョンで表現した。限定的なシーンでしか見ることのできない「特別感」。当初の開幕日だった3月20日に合わせて制作し、あとはお披露目を待つばかりだった。

「私自身は冷静に試合を見るのが好きなタイプなんですが、そんな自分でも楽しめる場内演出があればいいなと」

 佐伯さんの発想の原点には、野球に深く関わってきた人生が色濃く反映されている。幼少期を過ごした千葉で野球を始め、現在のZOZOマリンスタジアムにもよく足を運んだ。当時、近鉄を応援していた佐伯少年は、プロ野球が作り出す空間に胸を躍らせた。

 自身は8歳で野球をはじめ、高校では硬式、大学では軟式でプレーし、ポジションは主に捕手。野球の仕事に携わりたいと、巨人軍をもつ読売新聞社の門をたたいた。

「性格的には冷めてます。どちらかというと、人と盛り上がることも苦手です」

 なんて言葉とは裏腹に、仕事への情熱は人一倍強い。変化を求めることによって生まれる衝突を厭わない。周囲から「今まではこうしていた」と言われたこともあったが、「常にチャレンジしましょう」と根気強く理解を求めてきた。

 そのひとつの形として生まれた新たなビジョン映像は、開幕延期によって、お披露目も先延ばしになった。

「仕方ないなとは思いました」

 佐伯さんは、あくまで冷静に受け止める。

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著者プロフィール

1984年、福岡県出身。法大卒業後、中日新聞・中日スポーツでは、主に中日ドラゴンズやアマチュア野球などを担当。その後、LINE NEWSで編集者を務め、独自記事も制作。現在はFull-Count編集部に所属。同メディアはMLBやNPBから侍ジャパン、アマ野球、少年野球、女子野球まで幅広く野球の魅力を伝える野球専門のニュース&コラムサイト

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