連載:GIANTS with〜巨人軍の知られざる舞台裏〜

開幕前に感染者…批判受けても示した手本 「祭りを取り戻す」巨人社長が語る使命感

小西亮

「今は、熱狂を取り戻すための準備期間」と今村司球団社長は語る。そのために巨人軍は挑み続ける 【写真提供:読売巨人軍】

 まだ球場に歓声は響かないけれど、列島に活力を生む球音は戻ってきた。新型コロナウイルスとの戦いを続けながらシーズンを進めるプロ野球。日常は様変わりし、誰もが手探りの状況で、旗振り役を担ってきたのが巨人だった。いち早く、選手やスタッフらの検査を実施。今村司球団社長は「今は、熱狂を取り戻すための準備期間」と見据え、安全・安心の環境作りに心血を注ぐ。伝統ある球団のトップとして常に意識するのは、世の中に及ぼす影響力。原辰徳監督とともに積極果断に取り組んできた背景には、「球界の盟主」としての気概がにじむ。

全選手、全職員に手紙を書いた

新型コロナウイルスと向き合う今、読売巨人軍の今村司球団社長にその思いを聞いた 【撮影:竹内友尉】

――球団社長に就任されて1年余りがたちました。待っていたのは、誰もが予想できない現実でした。

 2月のキャンプの時もマスクはしていましたが、まさかここまでの状況になるとは実際に思っていなかったですね。選手も、関係者も、誰もがそうだったと思います。感染拡大の状況を見極めながら、われわれはいち早く2月25日にオープン戦の無観客開催を決めました。とにかくこの状況を鎮静化させるために、今は我慢して、3月20日の開幕を満員のお客さんとともに迎えようという思いからでした。NPBがJリーグと感染症の専門家の先生たちと会議体を設けたのも、いかにいい形で開幕を迎えられるかということでした。

――なかなか収束のめどは見えず、一時はチームとしての活動を止める事態にまで追い込まれました。選手やスタッフ、職員が不安を抱える中、どう向き合って来られましたか?

 ことあるごとに、現在の感染状況や野球が置かれている立場、私自身が考えていることなどをface to faceで伝えるようにしました。全選手、全職員に手紙を書いたこともありました。みんな愛する家族がいるし、感染の恐怖はすごくあったと思うんですよ。「こんな状況で野球をやっていていいのだろうか」と不安を話してくれた人もいました。ただ、これがわれわれの仕事でもある。社会人として、人間として感染防止に努めるのはもちろんのことですが、野球人としての役割もある。その両立をうまくやっていくしかないと言ってきました。

――選手たちは難しい調整を強いられました。

「自分でトレーニングしながら調整してくれ」と伝えていましたが、選手たちはメンタルもフィジカルも大変だったと思います。シーズンが始まった今も、よく乗り切ってくれています。ただ、調整の不安や不足という面は、現に出てきています。皆さん誤解しているところでもあると思いますが、野球選手のフィジカルというのは、1日休んだだけでどれだけ取り戻すのが大変か。病院に1週間も隔離されたらなおさらです。しばらく何もできない状態に追い込まれると、またキャンプから始めなきゃというくらいに戻ってしまう。それほど高いレベルのフィジカルで日々戦っているということだけは思っていてほしいなと。

――試合ができない状況で、球団経営の面でも大きなダメージを受けたと思います。

 今年の場合は、事業としての損得で物事を考えていたら、一歩も前に進むことはできません。実際、各球団は数十億円の減収だとは思いますよ。でも、プロ野球というものは「社会の公器」であると思っています。野球が始まることで、少しでも社会を元気にしたい。喜びや感動を世の中に届けて、閉塞感がある日常に少しでも風穴を開けたい。感染拡大防止は大前提に、いかにしてスポーツ文化やエンターテインメントとしての役割を果たしていくか。われわれはその使命感を持ってやっています。野球界はみんなそうで、オーナー会議含めて満場一致で無観客でもスタートしようということで開幕が決まりました。

開幕前、原監督から検査の提案が

原辰徳監督から「全員の検査をやりましょう」と提案があったという。その言葉を受け巨人に踏み切った 【写真提供:読売巨人軍】

――当初から3カ月遅れ、6月19日に無観客でシーズンが始まりました。開幕前には、球団の希望者に抗体検査を実施するなどいち早く対策を講じてきました。

 3月に原監督が私のところに来ておっしゃったんです。「社長、スポーツはとにかく明るく楽しいものだし、胸と胸を突き合わせて戦うものです。前向きにやらないといけないから、とにかくまず全員の検査をやりましょう!」と。やはり、監督は選手の気持ちを一番分かっています。その言葉を受け、まず抗体検査を実施しました。われわれが健康・健全であることが前提条件。みんながシロだと証明されてこそ、プレーや仕事に全力で打ち込める。その後のPCR検査で選手2人に陽性者が出ましたが、スクリーニングという観点で最終的には球界のスタンダードになりましたし、世の中のスタンダードにもなりつつあると思っています。

――開幕前に感染者が出たことで、当時は衝撃的に報じられもしました。

 感染が公表された坂本(勇人)君、大城(卓三)君にはつらい思いをさせたと思います。当時はたたかれましたし、批判の声もありました。でも、そこで陽性者をあぶり出さなかった方が良かったのかということになる。私は、今でも検査を実施したことを全く悔いてはいないし、そうあるべきだと思っています。それしか方法がないんだから。陽性者をあぶり出し、隔離し、全員がシロだと確認し、健全なる集団として戦っていく。当たり前のことですよ。

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